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トマトのゲノムプロジェクトが結実

おいしいトマトを召し上がれ。

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サラダにおなじみのトマト(Solanum lycopersicum)は、世界的にきわめて価値の高い作物である。近年、人気が高まりつつあり、2010年には世界で1億4580万トンが生産されている。このトマトのゲノム配列が、日本も参加している国際共同研究チーム、トマトゲノム・コンソーシアムにより解読された1

このコンソーシアムの英国部門を引っ張るノッティンガム大学(英国)のGraham Seymourと、当時インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)に所属していたGerard Bishopによれば、今回わかった配列により、トマトはもとより、ナス(Solanum melongena)やトウガラシ類(Capsicum種)など、そのほかのナス科作物についても、正確に育種できるようになるだろうという。

また、害虫や病原体に強く、さらには気候変動にも負けないトマトの開発にも役立つと考えられる。もちろん、おいしくて収量も高い品種の開発も期待される。カリフォルニア大学デービス校(米国)の種子バイオテクノロジーセンターで分子遺伝学を研究するAllen Van Deynzeは、「今回の成果はまさに、トマトの品種改良のすべてにかかわることなのです。これまで不可能だったことが、可能になるのです」と話す。

2003年に立ち上げられたこのプロジェクトは、成果を挙げるまでにちょっと時間がかかった。だが、「驚くほど完全な」配列が得られた、とリーダーたちは口をそろえる。ゲノムの80%以上が明らかにされて、含まれる遺伝子の90%以上が発見されたのだ。現在は、さらに精緻化が進められており、研究チームは、これを参照配列のゴールドスタンダードにしたいと考えている。「トマトのゲノムとして、これまでになく優れたものなのです」とVan Deynzeはたたえる。

進化した戦術

プロジェクトの中心研究者の1人である、イタリア国立新技術・エネルギー・持続的経済開発機構(ローマ)のGiovanni Giulianoによれば、研究チームは当初、トマトの栽培種Heinz 1706(有名なケチャップの製造に使用される品種の1つ)とそれに最も近い野生種のSolanum pimpinellifoliumのゲノムを、従来のやり方で解読しようとしたのだという。

しかし、プロジェクト開始から5年経った2008年になっても、データはまだ大きく欠落していた。そこで研究チームは、「次世代」の技術を利用した。全ゲノムショットガンシーケンシングに乗り換えたのだ。この技術では、配列を個別に解読した大量のDNA断片を寄せ集め、ゲノムの形に組み上げるため、はるかに高速な解析が実現できる。

今回の成果では、特に、トマトゲノムの全体が進化の過程で2回の三倍化を経ていることがわかったことがきわめて興味深い、とGiulianoは話す。1回目の三倍化は1億3000年ほど前に起こったもので、ブドウ(Vitis vinifera)で最初に確認されている2。Giulianoの関心を引いたのは、約6000万年前に起こった2回目の三倍化で、トマトの進化にきわめて重要なものだった。

「2回目の三倍化で生まれた遺伝子のいくつかは、何千万年もの間、ゲノムの中で消えずに残ってきました」とGiulianoは語る。「そして比較的最近、その機能が変わり、私たちが現在食べているような色や果肉のトマトへと変化したのです」。トマトはすでに、多肉果(多肉質で果汁を多く含む果実。トマト、ブドウ、モモなど)を開発するためのモデルとして確立されており、その遺伝情報は、イチゴやメロン、バナナなどの果物の育種にも役立つだろう。

ロザムステッド研究所(英国ハーペンデン)で植物生命工学を研究するJohnathan Napierは、「次に行うべきは、このゲノム配列を、特に食糧安全保障と人類の健康にとって有用で重要な形質と結びつけることです」と話している。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120804

原文

Tomato genome sequence bears fruit
  • Nature (2012-05-30) | DOI: 10.1038/nature.2012.10751
  • Rebecca Hill

参考文献

  1. The Tomato Genome Consortium Nature 485, 635–641 (2012).
  2. Jaillon, O. et al. Nature 449, 463–467 (2007).