News

超大質量ブラックホールを発見

NGC3842銀河に見つかった超大質量ブラックホール(中央の黒い部分)は、私たちの太陽系(挿入図)よりもはるかに大きい。

PETE MARENFELD

太陽の約100億倍以上の質量を持つ巨大ブラックホールが、近傍銀河の中心で発見された1。これまでの最大は太陽の67億倍だった。今回発見された「重力モンスター」は、ビッグバンから約10億年後の最も明るいクエーサーの名残である可能性があり、宇宙の歴史におけるミッシングリンクとなるかもしれない。

超大質量ブラックホールは、宇宙形成の初期、発達中の銀河の中心部にあるガスと星を飲み込んで生まれ、現在観測できる巨大銀河のすべてではないにせよ、ほとんどに存在する。しかし、光はブラックホールの重力場から逃れることができないので、ブラックホールを直接見ることはできない。そこで、カリフォルニア大学バークレー校(米国)のChung-Pei Maらは、大きな銀河の中心近くを運動する星の速度を測定することで、巨大ブラックホールを探した。星の速度は周回している天体の質量と一定の関係があるので、銀河の中心に潜む巨大ブラックホールの質量を間接的に測定できるからだ。研究チームは、銀河集団の中にある大きな銀河に絞って観測を行った。銀河集団にあるブラックホールは、集団内のほかの銀河からガスや星を吸収して巨大になれると考えられる。この研究には加わっていない、ハーバード大学(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のAvi Loebによれば、こうした銀河集団には大昔の痕跡が残っており、宇宙考古学の研究に適した場所だという。

Maらは、ハワイのマウナケア山にあるケックII望遠鏡とジェミニ北望遠鏡を使い、ある銀河集団のNGC 3842という銀河が太陽の97億倍、別の銀河集団のNGC 4889という銀河が太陽の200億倍とも370億倍とも推定される質量のブラックホールを持つことを発見した。この2つの銀河はいずれも地球から3億光年程度の距離にある。

論文の共著者、テキサス大学オースチン校(米国)のKarl Gebhardtは、「銀河中心部のバルジ(膨らみ)部分の質量とブラックホールの質量との間には、よく知られた関係があります。しかし、この関係は太陽の約60億倍までのブラックホールにのみ適合するようで、今回の巨大ブラックホールにはあてはまりません」と指摘する。この事実は、今回のブラックホールがこれまでのものとは異なる過程で進化してきたことを示している。ブラックホールがあった元の銀河がほかの銀河と合体して質量を獲得したのかもしれない。「今回の成果は、銀河とブラックホールの形成について新たな手がかりとなるかもしれません」とGebhardtは期待する。

これまでも、遠方銀河には、ビッグバンの約12億〜33億年後に現れたと考えられる超大質量のブラックホールの存在が推測されていた。そうした銀河は強烈に明るいクエーサーを含んでいたと思われる。物質が巨大ブラックホールに落ち込む際に高温になって輝くと考えられるからだ。クエーサーは遠い昔に消滅してしまったが、巨大ブラックホールはわずかな質量を失っただけで数十億年にわたって進化し、現在の宇宙の一部になった。「だから、初期宇宙に太陽の100億倍の質量のクエーサーブラックホールがあったなら、それに対応する天体が現在の宇宙で見つかるはずです」とLoebは話す。

初期宇宙にあったはずの超巨大質量のブラックホールと、現在の銀河に見つかった超巨大質量のブラックホール。「両者の関係から、クエーサーブラックホールが親銀河の進化に与えた影響や、親銀河がクエーサーブラックホールを育んだ過程の解明が進むはずです」とLoebは指摘する。「これは非常に重要なことです。なぜなら、クエーサーは銀河形成の初期にさかのぼる遠方で見つかっているからです。我々は、これまでよりも自信を持って、初期宇宙のブラックホール質量をもとに銀河形成のモデル化を進められるでしょう」。Gebhardtはこう語っている。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120203

原文

Record-breaking black holes fill a cosmic gap
  • Nature (2011-12-06) | DOI: 10.1038/nature.2011.9553
  • Ron Cowen

参考文献

  1. McConnell, N. J. et al. Nature 480, 215-218(2011).