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遠い星からのSOS

ブラックホールによってばらばらにされ、死にゆく星が放ったとみられる特徴的なX線を観測したという論文が、ミシガン大学アナーバー校(米国)のRubens Reisらにより発表された1。今回の観測から、遠く離れた宇宙にある超大質量ブラックホールと、我々の住む天の川銀河内にある小さなブラックホールとの関係が解明されるかもしれない。

ブラックホールの餌食になったこの星は、2011年3月、米国航空宇宙局の観測衛星「スウィフト」が発見した2。スウィフトは、ガンマ線バーストという高エネルギー光子の噴出現象の観測衛星で、ある遠い銀河からやって来るガンマ線やX線を1か月以上にわたって観測していたのだが、その信号はやがて消えていった。その後の分析から、この信号は、未知のブラックホールによって分解されている最中の星からのものと考えられた(Nature ダイジェスト 2011年11月号22ページ参照)。

今回Reisらは、日本のX線天文衛星「すざく」と、欧州宇宙機関のX線観測衛星「XMM-Newton」の観測データを分析し、この星がブラックホールに飲み込まれる直前に放ったX線であることを示す特徴を発見した。200秒周期で強度が増減するX線のパルスが見つかったのだ。Reisらは、このX線パルスは星の最後の破片から届いたもので、その破片はブラックホールの周囲を回っていて吸い込まれる直前にあると分析した。Reisは、「この200秒周期の信号から、ブラックホール周囲の物質の軌道についての基本的なことがらがわかります」と話す。

事象の地平線の直上に

一般相対性理論に基づいた研究から、ブラックホールに飲み込まれる前の物質が、その周囲を安定して回ることができる距離には最小値があることがわかっている。Reisらはこれに基づき、この星の残骸は、事象の地平線からわずか100万kmのところにあると見積もった。事象の地平線は、それを越えてブラックホールに近づくと、いかなるものもブラックホールから逃れられなくなる境界である。さらに、パルスの周期をもとに、ブラックホールの質量を太陽の50万〜500万倍と算出した。

パルス状のX線は天の川銀河にある小さなブラックホールの周囲でも見つかっている。だがReisは、「これほど大きいブラックホールからのパルスを検出したのも、これほど遠いブラックホールからのパルスを検出したのも、今回が初めてです。こうしたX線パルスを研究すれば、遠いブラックホールのようすがわかる可能性があります」と話す。巨大なブラックホールも小さなブラックホールも同じように振る舞うはずだという説も確かめられるかもしれない。

一方、レスター大学(英国)のSimon Vaughanは、発光源はブラックホールの非常に近くにある何かであることに異論はないが、疑念を感じている。「遠いブラックホールからの光は暗く、明滅しており、信号には雑音がとても多いのです」。Reisらの観測データは、偶然得られた可能性も否定できないというのだ。「今後、同じようなパルス状のX線が見つかれば私も納得しますが」とVaughanは話す。

Reisによると、パルス状X線の探索は現在も行われている。

翻訳:新庄直樹、要約:編集部

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2012.121003

原文

Satellites watch stellar death throes
  • Nature (2012-08-02) | DOI: 10.1038/nature.2012.11107
  • Geoff Brumfiel

参考文献

  1. Reis, R. C. et al. Science http://dx.doi.org/10.1126/science.1223940 (2012).
  2. Burrows, D. N. et al. Nature 476, 421–424 (2011).