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高効率の色素増感太陽電池

電気がいるって?それなら太陽電池をプリントアウトすればいい。

Michael Grätzel/Science/AAAS

20年前に発明された色素増感太陽電池が、ようやく採算がとれるようになるかもしれない。印刷できる安価な太陽電池が登場すれば、世界の太陽光利用が大幅に増加するだろう。

色素増感太陽電池(DSC)は、1991年、スイス連邦工科大学(ローザンヌ)の電気化学者Michael Grätzelによって発明された。動作原理は、セラミック二酸化チタン(チタニア)の微小ナノ粒子に付着した有機色素分子が太陽光を吸収すると、そのエネルギーで電子がチタニアへと送り込まれ、これらの電子が電極に集められることによって電流が発生するというものだ。

チタニア自体は非常に安価であり、大きめの粒状チタニアは白色塗料の顔料である。しかも、DSC自体は大量生産が容易と思われる。Grätzelをはじめ、多くの研究者が、ナノ結晶太陽電池アレイをガラスパネルや金属ホイルに「印刷」する方法を開発したからだ。そうなると、従来型太陽電池の代替品としてより魅力的になる。従来型太陽電池は、通常、シリコンの薄膜やウエハーから作られ、比較的生産コストが高いのだ。

効率向上

DSCは少量だが、すでに市場に出回っている。G24 Innovations社(英国カーディフ)は、DSCをプラスチック上に形成し、フレキシブルモジュールとして販売している。そのほか、特に東アジアで、ビル一体型DSCガラスパネルを売り出している会社もある。

しかし、これまで、DSC技術の利用は限られたものであった。太陽光を集める色素は高価なルテニウム金属の原子を含んでいるし、DSCの最高効率は11%であり、市販のシリコン太陽電池の効率よりも低く、0.8V未満という低い電圧しか発生しないからだ。

DSCでは、色素が放出した電子を補って電気回路を形成するために、メディエーターとしてヨウ素溶液を用い、もう一方の電極から色素へと電子を運んでいる。三ヨウ化物イオンが電極から電子を受け取ってヨウ化物イオンになり、次にヨウ化物イオンが電極間の液体中を拡散してチタニア上の色素に到着し、そこで電子を放出するというわけだ。しかしヨウ素系は、色素分子の電子エネルギーに見合わず、エネルギーをむだにしている。結果として、電池電圧が低くなり、出力が低くなる。さらに、電子を運ぶのにもっと適したメディエーターがあっても、電子が色素側からメディエーターに逆戻りして、吸収した太陽エネルギーがむだになってしまうこともあり、やっかいである。

今回、Grätzelらは、高価なルテニウム色素と電圧が低くなるヨウ素メディエーターを、それぞれ優れた代替物質に置き換えた1。まず色素としては、3つの部分で構成される複雑な分子を用いている。電子を放出しやすい基、電子を受け取りやすい基、そしてこれらの基の橋渡しをするユニットだ。このユニットには、クロロフィルに関連する光吸収基が含まれている。電子を運ぶメディエーターには、コバルト原子が結合した有機分子を用いている。この分子は、電子の受容・放出によって状態を2通りに切り替えることができる。また、メディエーターへの不要な電子の逆戻りを防ぐバリアとして、色素に大きな化学基を結合している。

このDSCは、記録的な高電圧(最高0.97V)と高効率(最高12.3%)を達成した。もし効率を15%程度まで上げることができれば、コストパフォーマンスがよくなり、シリコン太陽電池のライバルとなるだろう。

残された課題

Grätzelのコバルトメディエーターはアセトニトリルに溶解しているが、2010年にコバルトメディエーターを初めて報告した2ウプサラ大学(スウェーデン)のDSC専門家Gerrit Boschlooは、アセトニトリルは揮発性が高い溶媒なので実際のデバイスには適さないと言う。また、このメディエーターは、おそらく長期間使用できるほど安定ではないだろう、とも話す。

Grätzelによると、これらの問題については検討中とのことである。さらに、太陽光の赤色成分をもっと吸収するような色素の改良や、より高い電圧を得られるような新しいコバルトメディエーターのテストも行っている。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2012.120102

原文

Nanoparticle solar cells make light work
  • Nature (2011-11-03) | DOI: 10.1038/news.2011.628
  • Philip Ball

参考文献

  1. Yella, A. et al. Science 334, 629-634 (2011).
  2. Feldt, S. M. et al. Journal of the American Chemical Society 132, 16714-16724 (2010).