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広がるオープンアクセス出版

今年6月、オープンアクセスジャーナルPLoS ONEに、オープンアクセス出版に関する論文が発表された。それによると、無料で閲覧できるオープンアクセスの学術ジャーナルに掲載される論文は、毎年20%のペースで増えているという(M. Laakso et al. PLoS ONE 6, e20961; 2011)。このことは、著者が掲載費用を負担して無料で論文を公開する「著者支払い型」が健全な手法であることを裏付けている。

Credit: SOURCE: M. LAAKSO ET AL. PLOS ONE 6, E20961 (2011)

ハンケン経済大学(フィンランド・ヘルシンキ)のMikael Laaksoらによって行われた今回の分析では、完全オープンアクセス方式の学術ジャーナルの数も、毎年約15%ずつ増加していることがわかった(右グラフ参照)。これには、新創刊のオープンアクセスジャーナルと、読者が購読料を支払う購読型からオープンアクセス方式へ転換したジャーナルの両方が含まれている。一方、購読型ジャーナルの増加は、毎年3.5%程度である。Laaksoは、「オープンアクセス出版モデルは十分に機能しうることが、自ら証明されたのです」と言う。

Laaksoは、オープンアクセス出版の歴史を3つの時期に分けている。第1期は1993~99年の開拓期で、創刊されたオープンアクセスジャーナルの大半は、個人が立ち上げ、大学のサーバーをホストとする「自家製」ジャーナルであった。第2期は2000~2004年の革新期で、Public Library of Science(PLoS)などの出版社や、インフラとなるソフトウェアが登場し、電子ジャーナルの創刊が格段に容易になった。2005年以降は統合期で、イノベーションは鈍化したが、成長は続いているという。

Nature Publishing Group(NPG)も、こうした潮流を鑑み、今年6月、紙媒体なしのオンラインジャーナルScientific Reportsを創刊した。このジャーナルは著者支払い型方式を採用し、インパクトではなく技術的妥当性の面から査読を行う。創刊にあたりNPGは、PLoS ONEがヒントになったことを認めている。PLoS ONEは、2010年には6749本の論文を掲載し、世界最大の学術ジャーナルとなった。NPGのビジネス・ディベロップメント・ディレクターJason Wildeは、PLoS ONEは「驚異的な成功」をおさめたと評価する。「これは、著者と読者の両方が、広い分野を取り扱い、査読が簡略な出版モデルを望んでいることを示しています」。Wildeは、Scientific Reportsは、PLoS ONEのライバルとなり、オープンアクセスジャーナルのレベルアップに役立つだろうと語る。

非営利ロビー団体Public Knowledge(米国ワシントンD.C.)のオープンアクセスプロジェクトを仕切るPeter Suberは、この傾向は「オープンアクセス方式の成功」を示していると言う。また、これまでのところ、オープンアクセスジャーナルの増加は出版業者を脅かしてはいないとも付け加える。

一方、サウザンプトン大学(英国)のStevan Harnadは、100%のオープンアクセス化をめざすなら、この程度の成長スピードで満足してはならないと言う。このほか、著者個人や所属機関のウェブサイト上で論文を無料で公開するセルフ・アーカイビングや、オープンアクセスの料金を支払うかどうか著者が選択できるハイブリッド方式のジャーナルも増加はしているが、研究に必要なペースに比べると、増加率は小さすぎると語る。

現在の段階では、オープンアクセスジャーナルが購読型ジャーナルと競合しているのか、それとも、出版のニッチを開拓したのかは、わからない。Harnadは、オープンアクセスジャーナルのほとんどはベンチャーであると考えている。研究者に必要な学術ジャーナルの大半は、購読料によって成り立っており、著者支払い型モデルでは、研究資金提供機関が追加経費を捻出しているのが現状であるという。

オープンアクセス方式の需要をリードしてきた研究機関や研究資金提供機関がこのジレンマから抜け出すためには、助成金を受けている研究者が購読型ジャーナルで発表した論文をオープンアクセスのリポジトリにも登録することを義務付ける必要があるとHarnadは言う。これにより浮いた資金を、著者支払い型オープンアクセス出版の援助に回すことができるのだ。「著者の支払う掲載費が確保されるまでは、出版社がオープンアクセス方式に転換することはないでしょう」と彼は語る。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110921

原文

Open access comes of age
  • Nature (2011-06-23) | DOI: 10.1038/474428a
  • John Whitfield