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地震予知に失敗した地震学者を起訴

マスコミの前で科学的に不確実なことを語る危険性について、裁判で検証されることになった。イタリア・ラクイラ地裁の予審判事は5月下旬、2009年4月6日のラクイラ地震で死亡した309人の一部に対する過失致死罪で、6人の地震学者と1人の官僚を起訴した。裁判は今秋始まり、有罪とされた場合、最長12年の懲役刑に服することになる。

7人の被告人は、当時、ラクイラ周辺で頻発していた地震について危険性を評価する委員会のメンバーだった。地震発生の1週間前に委員会は会合を開き、一部の委員が大地震の危険はないと、記者会見で発表したのだ。遺族の多くは地震後、この記者会見の発表を信頼し、人々は自宅から避難しなかったのだと語っている。

ラクイラの検察官Fabio Picutiは、5月下旬、委員たちが地震を予知することは不可能であったにしても、科学的には不確実なことを過度に楽観的な発表に転換したとして非難した。検察側は、起訴されている委員の1人で、当時、イタリア市民安全局技術部門の副部長だったBernardo De Bernardinisの記者会見での発言に注目している。De Bernardinisは、「私は研究者たちから、エネルギーの解放が続いているので危険はないと聞きました。つまり状況としてはよい方向にあると思われます」と言ったのだ。

被告の1人でイタリア国立地球物理学火山学研究所(ローマ)の所長であるEnzo Boschiを含め、多くの地震学者は、記者会見での発表には科学的根拠がないと批判してきた。また、委員会の議事録には記者会見での発表のような発言は記録されておらず、起訴された地震学者たちは、自分たちに責任はないと主張している。一方、De Bernardinisの弁護士は、依頼人は、研究者たちから告げられたことを要約しただけだと述べている。こうした主張に対し、検察側は、ほかの委員はDe Bernardinisの発表をすぐに訂正すべきだったのにしなかったのだから、全員が等しく非難に値するとしている。

Boschiは、今回の起訴によって「打ちのめされている」と語った。彼は、イタリアでは毎年数百回の地震動が観測されていると指摘し、「そのたびに警報を出していたら、今度は、不当に警報を発したかどで起訴されてしまうでしょう」と言う。そして、悲劇の主因は建築基準の不備だったと付け加えた。

地震で妻と娘を失い、被災者の会の会長を務めるラクイラの医師Vincenzo Vittoriniは、裁判により問題点が徹底的に検証されることを期待している。「我々は、『科学を裁判にかけたい』と思っているわけではありません。ただ、避難なりとどまるなり自分たちが選択できるだけの、危険に関するもっと明確な情報が欲しかったのです」。Vittoriniは、こう語った。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110905

原文

Scientists on trial over L'Aquila deaths
  • Nature (2011-06-02) | DOI: 10.1038/474015a
  • Nicola Nosengo