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アウストラロピテクスは遠くからお嫁入り

アウストラロピテクス・アフリカヌスの女性は、どんな結婚を夢見て家族の元を去っていったのだろう。 Credit: Darryl de Ruiter

人類の初期の祖先は、女性は成人すると家族の元を離れたらしい。約180万~220万年前のアウストラロピテクスの歯の化石を分析した結果、女性のものと思われる歯には、男性と比較して、形成時に遠隔地のミネラルが取り込まれている可能性が高いことが明らかになったのだ1。論文著者の1人、オックスフォード大学(英国)のJulia Lee-Thorpは、「これはとても小さな手がかりですが、少なくともこれまで知らなかったことを示す確かな証拠となります」と語る。

大昔の人類の家族形態の研究では、主として、男性と女性の化石の相対的な大きさの差と、霊長類動物の行動パターンに基づいて推定が行われてきた。例えば、雌のチンパンジーは、成体になると群れを離れるのが一般的であり、一方、1頭の大きな雄のボスが率いるゴリラの群れでは、雌雄共に群れを離れる傾向がある。ただし、現代人と初期人類を比較するのは難しいという。現代人は、結婚や不動産の所有など、比較的新しい文化的営みに影響されるからだ。

法歯学

Lee-Thorpらは、土壌中に存在するストロンチウムについて、2種類の同位体の量を測定した。ストロンチウムは植物に取り込まれ、食物連鎖を通じて成長期の動物の骨に入り込む。Lee-Thorpによれば、骨や歯に含まれる2種類のストロンチウム同位体の比率は、動物が育った局所環境によって異なるという。「これは、一種の法医学的ツールなのです」。

研究チームは、南アフリカ共和国のスワートクランズ洞穴から出土したパラントロプス・ロブストス11個体の犬歯および第三大臼歯(8歳くらいまでに形成される)と、近隣のスタークフォンテン洞穴から出土したアウストラロピテクス・アフリカヌス8個体の歯について、ストロンチウム同位体の比率を測定した。また、付近に生息している170の動植物に含まれるストロンチウム、さらには両方の洞穴を含む薄いマルマニ・ドロマイト累層のストロンチウムまで、この地域のストロンチウムに関するさまざまな特徴を把握した。

解析の結果、両種とも、外見から体の大きな男性のものと考えられる大きな歯のストロンチウム同位体比は、ドロマイト地層帯の生息生物のものと非常によく似ていて、約90%が現地のものと見られた。一方、女性と見られるアウストラロピテクスの小さな歯は、現地の特徴を持つものは半分に満たなかった。Lee-Thorpらは、女性は成人すると家族の元を離れたと考えるのが、最も自然だと語る。ただし、男性については、生まれた集団からは離れたかもしれないが、2つの洞穴周辺に広がるドロマイト地層帯にとどまっていたのではないかという。

ゴリラ型社会であった可能性は?

フィレンツェ大学(イタリア)の古人類学者であるJacopo Moggi-Cecchiは、「確かに、今回の仮説は興味深いものですが、Lee-Thorpらが分析した数や標本数は、証明には十分だとは思えません」と話す。Moggi-Cecchiの研究チームは2007年、パラントロプス・ロブストスの男性の発育成長期間が女性と比べて長いことを明らかにした。このパターンは、雌をほぼ占有する権利をめぐって大きな雄が闘うゴリラ2と似ているのだ。

しかし、ケント州立大学(米国オハイオ州)の解剖学者であるOwen Lovejoyは、雌雄が共に新しい群れに移るゴリラ型社会は、人類の初期祖先では機能しなかったのではないかと考えている。雄は新たな群れに移ると攻撃的になりやすく、子どもの命が危険にさらされるというのだ。人類の初期祖先は、女性が実家を離れる社会だったと考えるのがはるかに自然だ、とLovejoyは話す。

Lee-Thorpらは、さらに多くのアウストラロピテクス化石で解析したいと思っているが、ストロンチウム分析では希少で貴重な化石を破壊するため、なかなか容易ではない。その一方で、東アフリカの初期人類、そしてホモ・エレクトスなどもっと新しい時代の人類についても、同様の研究を行いたいと考えている。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110803

原文

Female australopiths seek brave new world
  • Nature (2011-06-01) | DOI: 10.1038/news.2011.338
  • Ewen Callaway

参考文献

  1. Copeland, S. R. et al. Nature 474, 76-78 (2011).
  2. Lockwood, C. A., Menter, C. G., Moggi-Cecchi, J. & Keyser, A. W. Science 318, 1443-1446 (2007).