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「歩くサボテン」は節足動物の親戚

Credit: JIANNI LIU

節足動物は、無脊椎動物の大きな分類群であり、昆虫やクモ類、甲殻類など100万種以上が含まれる。この仲間の特色である、節に分かれた「関節肢」の進化を知るヒントとなる化石が、中国南西部で見つかった1

この化石動物は、無数の棘に覆われた姿から「歩くサボテン」というニックネームが付けられた。学名もサボテンにちなみDiania cactiformisと命名され、古代に生息していた葉足動物に分類された。葉足動物は、付属肢をもつ蠕虫状の絶滅動物群で、現在の有爪動物に近縁と考えられている。しかし、今回見つかった「歩くサボテン」は、節足動物に典型的に見られる関節肢を備えていた。葉足動物でこの特徴を持つものは、これまでに見つかっていない。

「節足動物は葉足動物から進化した、という説はずっと以前から主流になっていました」と、西北大学初期生命研究所(中国西安市)の古生物学者で、研究チームのリーダーを務めたJianni Liu(現在はベルリン自由大学)は話し、こう続けた。「しかし、この説を裏付ける化石は実際には1つもありませんでした。今回、初めて、関節肢をもつ葉足動物の化石が見つかりました。今は、この『歩くサボテン』を手にしているのです。これは、葉足動物から節足動物への進化のミッシングリンクだと思われ、非常に重要な化石です」。

体よりも肢が先

「歩くサボテン」の生息年代は約5億年前で、体長は6cmほどだ。本体は細く柔らかい蠕虫状で、葉足動物に似ている。しかし、付属肢に関節がある点では節足動物に似ており、そうした肢が全部で10対ある。これらの肢の表面は硬く、甲殻類や昆虫類の関節肢の強固な表面と違わないと研究チームは考えている。

今回の発見によって、節足動物の進化についての理解が一歩進んだ。節足動物は、既知のすべての現生動物種の80%以上に相当する大きな分類群であり、生命系統樹のかなりの部分を占めている。「歩くサボテン」の存在は、節足動物が硬い体表を獲得する前に硬い肢を進化させたことを意味するのではないかと、研究チームは考えている。

ケンブリッジ大学(英国)の古生物学者Simon Conway Morrisは、この化石から、カンブリア爆発の期間中に、動物でさまざまな体制が出現し多様化したようすを知る重要な手がかりが得られると話す。カンブリア爆発とは、約5億3000万年前に主要な動物門の大半が、地質学的な時間スケールでみて「突然」出現した生命進化史上の出来事である。

この化石は、「実質的に軟体性の体構造から、関節でつながった外骨格への移行という重要な進化段階について、きわめて重要な情報を与えてくれます。この移行がブレイクスルーとなって、最終的に、カニやカマキリに見られるような生物学的デザインが登場したのでしょう」とConway Morrisは話している。

Liuによれば、関節肢の発達は、節足動物から葉足動物への進化過程にある3つの「重要段階」の1つにすぎないという。彼女は現在、節足動物の頭部と関節のある体の両方を備えた葉足動物の化石を見つけたいと考えている。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2011.110508

原文

'Walking cactus' is arthropods' lost relative
  • Nature (2011-02-23) | DOI: 10.1038/news.2011.121
  • Zoë Corbyn

参考文献

  1. Liu J., et al. Nature 470, 526-530 (2011).