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巨大恐竜はこうして生まれた

鼻から尾までの長さは、ロンドンの2階建てバス4台分。10kgの赤ん坊は、10万kgの成体に育ち、足だけでも数t。長い首、大きく開く顎、熊手のような歯を持つディプロドクス(Diplodocus)やブラキオサウルス(Brachiosaurus)のたぐいは、大きな足を動かして大量のエネルギーを消費することなく、樹木のてっぺんの高さで首を振って莫大な量の葉を食べた。後にも先にも、竜脚類を超える大きさの生物は、陸上に現れていない。

ジュラ紀から白亜紀にかけて(2億年前~6500万年前)生息したこの4本足の巨大生物は、その巨体を保持するために、解剖学的に特殊な形質を持っていた。骨盤と四肢が適応して体重を支えるのに十分な強さを持つ骨格となり、中空の椎骨と比較的小さな頭によって、重さの負荷を軽減させていた。こうした特殊化した骨の発達により、竜脚類の子どもは短期間での成長が可能になり、体重は毎年数tずつ増えた。

古くから古生物学の世界では、それまでの生物と異なるこうした新しい体の構造は巨大な竜脚類とともに出現し、爆発的な進化的特殊化と体の劇的な巨大化は同時に起こったと考えられてきた。しかし、近年の数々の発見により、巨大な竜脚類出現のはるか以前、初期の竜脚形類として知られる比較的小さな祖先の中に現れた、多くの重要な変化が始まりだということがわかってきた。英国自然史博物館(ロンドン)の古生物学者Paul Barrettは、これら小さな祖先を「恐竜界のたたえられざるメンバー」と呼ぶ。

2本足で直立して歩く初期の竜脚形類は、後に支配的となる重量感あふれる竜脚類とは似ても似つかない。しかし、この小さな生物とその子孫たちが、しだいに適応を進め、食べ方、動き方、呼吸法を変化させたことにより、後の竜脚類はあの大きさを獲得することができるようになったのだ(下図参照)。

① 通常の骨の35%しか質量がない中空の椎骨により、極端に長い首と尾を容易に支えられるようになった。中空の骨の先駆けを持つようになったのは、初期の竜脚形類だった。
② 前肢の骨の連結により、安定性が向上して柔軟性が低下した。2本足の古竜脚類の中には、連結された前肢の骨の初期的状態が認められるものがある。
③ 骨盤と背骨とをつなぐ特別な仙椎の進化が竜脚類の骨格の強化に役立った。新たな椎骨を最初に持ったのは、竜脚類の小さな祖先だった。
http://nature.asia/1110giant

エヒディオ・フェルグリオ恐竜博物館(アルゼンチン・トレーレウ)の古生物学者、Diego Polは、「竜脚類がこうした特徴を持っていたのは巨大だったからではありません。すでに特徴を持っていた小さな祖先から進化したために、体が巨大化したのです」と説く。

第一段階:最初は小さかった

その発見は容易ではなかった。どれも、アルゼンチンや南アフリカなど、南半球のへんぴな場所に埋もれていた。

2006年、古生物学者のRicardo Martinezは、アルゼンチン北西部の砂漠で1組の骨を見つけた。それは、約2億3000万年前の三畳紀後期の岩から現れた。最初の恐竜が出現し始めた頃だ。Martinezは、期待に胸を膨らませた。その貴重な標本をサンフアン国立大学自然科学博物館(アルゼンチン)に持ち帰り、数か月かけて周りの岩から下顎を取り出すと、歯の縁に粗いのこぎり状のぎざぎざが現れた。これは、繊維の多い植物性のものを噛み切ることへの適応を示している。ほかの初期の恐竜の歯は、鋭く、肉を切り取るのに適していた。Martinezが発見したのは、巨大な竜脚類の小さな祖先で、肉食性の祖先に似た比較的大きな頭蓋を持ちながら、雑食動物のような歯をした生物だと考えられた。

2009年、Martinezは、同博物館の同僚Oscar Alcoberとともに、この化石の骨が、それまで発見された中で最古にして最も原始的な竜脚形類のものであると発表した1。それは、体長1.6m、七面鳥ほどの大きさで、長い尾を持ち、2本足で移動していた。体重はわずか7~8kg。Martinezはパンファギア・プロトス(Panphagia protos)という名を付けた。「初めて何でも食べた動物」という意味で、肉食から草食への道に歩み出したことを名前に織り込んだのだ。

Barrettによれば、「動物性の食物に見切りをつけて、植物への依存を強めること」は、「体の巨大化の始まり」を引き起こす要因の1つだという。巨大な体にとって、草食は利点となる。もし、巨大な竜脚類が肉食だったら、日々必要とされる栄養を満たすだけの被食者を発見して捕獲することなどできなかっただろう。最大のものでは、必要量が1t近くに上ったと考えられるのだ。

さらに、ボン大学(ドイツ)の古生物学者Martin Sanderは、「それまでのような植物の食べ方では、動くのに必要なエネルギーに見合う量も必要栄養量も満たすことができなかったはずです」と語る。竜脚類は、エネルギーを消費して巨大な脚を持ち上げながら絶えず移動するのではなく、頭を前後に振って葉を効率的に刈り取っていたと考えられる。

このような食べ方には長い首が必要だが、普通の骨のように中身が詰まった頸椎だったら、あり得ないほどの重さになっただろう。大きな竜脚類の椎骨は、含気骨という、空気で満たされた穴だらけの骨だった。ウエスタン健康科学大学(米国カリフォルニア州ポモナ)の古生物学者Mathew Wedelは、「竜脚類の頸椎の質量は、中身の詰まった通常の骨の35%ほどしかなく、そのおかげで首を長さ15mまで伸ばすことができたのです」と説明する。含気骨内部の中空の領域は体腔の気嚢につながっていたと考えられる。気嚢は、現生鳥類に見られる特徴で、肺に空気を効率よく送り込むことができる。こうして、巨大恐竜の呼吸効率が改善された。気嚢による換気がなければ、竜脚類は、1回の呼吸で首に満たされた呼気を一掃することができなかっただろう。肺だけでは小さすぎたのだ。

含気椎骨は、巨大な体と関係した適応と思われるかもしれない。しかしWedelは、パンティドラコ(Pantydraco)と呼ばれる初期の小さな竜脚形類に、その先駆けらしきものを発見した。その頸椎にはくぼみがあり、竜脚類の頸椎の穴の位置に一致していたのだ2

では、小さな恐竜にとって、原始的な気嚢と含気骨はどのように役立ったのだろうか。研究者らは、酸素交換の効率を高めたのではないかと考えている。もしかしたら、このおかげで、恐竜の祖先は、大気中の酸素濃度が現代の水準をはるかに下回っていたペルム紀後期から三畳紀前期にかけて(2億6000万~2億4000万年前)、ライバルとの競争に勝つことができたのかもしれない3

第二段階:毎年数tの成長

最初の竜脚形類は小型で、敏捷、ほとんど2本足で移動しており、スピードを生かして捕食者から逃れることができた。しかし、その次の進化の段階で、体長2~10mへと大型化することになった。

こうした「コア古竜脚類」で、古い化石は、ジュラ紀初頭(約2億年前)にさかのぼる。これらは、首と胴が長くなり、祖先と比べて体が大きく、足が比較的短くなっている。そのため敏捷性は劣っていたが、体を大きくすることで危険を排除していた。

その防御法は、後の竜脚類で最も極端な形となって現れた。「大人の竜脚類は、当時の最大の捕食者よりも体重が1桁も大きかったため、ほとんど捕食されることはなかったでしょう」とSanderは推測する。「その巨大さゆえに、肉食恐竜が噛みついて食べるのは難しかったのです」。

竜脚類が多くの爬虫類と同じ速さで成長していたならば、成体になるまでに100年以上かかったと考えられる。しかし、それでは何十年も小さな体で過ごさねばならず、危険にさらされることになっただろう。今、その成長速度について、現生爬虫類をはるかに上回るスピードだったことを示す証拠が発見されつつある。

Sanderによれば、カギを握るのは、二段階で発生する繊維層板骨であるという。「骨の枠組みがごく短期間で作られ、厚みが毎日0.1mmくらいずつ増していき、中身はゆっくり詰まっていくのです」。この10年で、Sanderをはじめ多くの研究者が、化石の骨の構造を分析し、竜脚類が繊維層板骨を持っていたことを明らかにした。Sanderによれば、毎年数tずつ成長することが可能だったという。

しかし、繊維層板骨は、巨大な竜脚類が登場するはるか以前に、その起源を見ることができる。2005年、Sanderは、大学院生だったNicole Kleinとともに、三畳紀後期に存在した体長10m程度の古竜脚類、プラテオサウルス(Plateosaurus)の繊維層板骨の痕跡について発表した4。ドイツの40体を超えるプラテオサウルスの骨を分析した結果、わずか12年で成体になった個体があることがわかったのだ。

こうした高速の成長は、冷血動物ではなく温血動物の特徴であり、一部の恐竜は体温が高かった可能性がある。カリフォルニア工科大学(米国パサディナ)の地球化学者Robert Eagleらは今年6月、ブラキオサウルスおよびカマラサウルス(Camarasaurus)という2種類の巨大竜脚類の体温が、現生ワニ類と比べて5~12℃高かったことを明らかにした5

プラテオサウルスなどの古竜脚類に見られる解剖学的発達の中には、ほかにも、後代での子孫の巨大化に役立つことになる特徴があった。背骨と後ろ足とを構造的につなぐ仙骨が強化されていたのは、その一例だ。初期の竜脚形類では仙椎は2個だったが、古竜脚類は3個となり、支持が強化されたと思われる6

こうした発達は三畳紀後期の飛躍的進化を推進し、7kgのパンファギアのような初期の竜脚形類から、4000kgのプラテオサウルスへと発展した。ベルナルディーノ・リバダビア・アルゼンチン自然科学博物館(ブエノスアイレス)の古生物学者、Martin Ezcurraは、「竜脚形類の歴史の中で、最初の2500万年に見られる劇的な巨大化は、生命の歴史の中で最も急速なものでした」と指摘する。

第三段階:巨大化の始まり

昨年、竜脚形類の進化で注目すべき痕跡を残した化石が発見された。それは、「擬竜脚類」とでも呼ぶことができそうな生物だ。ウィットウォーターズランド大学(南アフリカ・ヨハネスブルグ)の古生物学者Adam Yatesは、まさにこの化石を発見する目的で、南アフリカにやってきた。竜脚形類が4本足になったいきさつを知るてがかりになると思ったからだ。

その大発見は、スピオンコップと呼ばれる丘に眠っていた。「骨が骨の上に積み重なっていたのです」とYatesは語る。「すでに小さくてもろい頭蓋の断片をはじめ、たくさんの骨を見つけていましたから、これが重大な発見であることはすぐわかりました」。

Yatesらは、この新種をアールドニクス・セレスタエ(Aardonyx celestae)と命名した7。下顎の化石から、アールドニクスは、顎の開き具合を制限する肉の付いた頬を持たなかったと考えられている。それ以前の近縁種が小さな口で噛み切って食べ物を咀嚼していたのとは異なり、アールドニクスは顎を大きく開き、口いっぱいに食物を含んでまるごと飲み込んでいたらしいのだ。

この適応により、大きな顎の筋肉と巨大な頭が不要になり、竜脚類は極端に長い首を発達させることができるようになった。「噛まなかったからこそ首を長くすることができたのです」とSanderは説く。

足にも興味深い特徴が見られる。アールドニクスは2本足だったが、のっしのっしと歩く4本足の竜脚類に見られるいくつかの特徴を持っていた。この論文の共同執筆者でもある西イリノイ大学(米国マーコム)の古生物学者、Matthew Bonnanによれば、この生物は、大腿骨が下腿の骨と比べて長いという点で、両者の長さがほぼ等しかった初期の竜脚形類とは異なっていたという。「これだけでも、アールドニクスの体が、スピードではなく体を支えるために進化したと想像できます」とBonnanは言う。

アールドニクスは、前足にも4本足を思わせる適応が認められる。竜脚類では、前腕部の2本の長い骨が前肢を強化するように連結されている。アールドニクスとその近縁種メラノロサウルス(Melanorosaurus)が発見されるまで、Bonnanは、このような骨の連結により進化の連鎖反応が起こり、手も歩行に適したものとなるように変化したと仮定し、こうした進化は、骨の「統合機能セット」として変化し、本格的な4本足の竜脚類になって初めて見られるようになったと予想した。ところが、アールドニクスには、原始的ながら前腕の連結が認められ、物をつかむことができる手がそれに接続していたのだ。「私の仮説は、2本足のアールドニクスの特徴によって打ち砕かれました」と、Bonnanは打ち明ける。

さらに今年、予想を覆す別の擬竜脚類がPolにより発表された8。ジュラ紀前期に存在した、レオネラサウルス・タクエトレンシス(Leonerasaurus taquetrensis)は、体長わずか2.5mで2本足だったにもかかわらず、4個の仙椎を持っていた。仙椎が4個であることは、昨年Yatesが4本足の目印だと発表したばかりだった7

Polはまた、レオネラサウルスが前方に傾斜したスプーン状の前歯を持ち、植物をかき込んでいたことも明らかにした。後の竜脚類にそっくりである。竜脚類の形質の多くを備えたこの2.5mの動物は、竜脚類の進化について新たな図式を描くのに役立つだろう。これについてPolは、「従来の考え方をひっくり返しました」と話す。

ただし、研究者らは、レオネラサウルスをはじめとする既知の竜脚形類が竜脚類の直接の祖先ではなかったと指摘している。化石記録は連続的なものではないため、直接の祖先を発見することはなかなかできないのだ。しかし、ジュラ紀の古竜脚類と擬竜脚類には、竜脚類の未知の祖先に生じた適応についての情報が保存されている。

第四段階:4本足

三畳紀後期からジュラ紀前期の竜脚形類の多くは、必要に応じて2本足でも4本足でも歩くことができた。しかし2008年、フランス国立自然史博物館(パリ)の古生物学者Ronan Allainと、ムハンマド5世大学(モロッコ・ラバト)の古生物学者Najat Aquesbiは、もっぱら4本足だったと考えられるジュラ紀前期後半の動物を発表した9

「タゾウダサウルス(Tazoudasaurus)は既知の『真の竜脚類』の中で最古のものと考えられます」とAllainは話す。物をつかむことができる長い指を持っていた祖先とは異なり、体長9mのこの動物は、体重を支えるのに適した太くて短い手を持っていた。Allainは、タゾウダサウルスを、グラビサウルス類(「重いトカゲ」の意)と命名した竜脚類の新たな一群に分類した。

ここで「重い」というのは、当時のほかの動物に比べてという意味であり、最も重量のある竜脚類が登場するのは、それから9000万年後のことだ。白亜紀には、一部の竜脚類が体長40m、体重100tにまでなったことを、化石が示している。しかし、竜脚形類進化の初期に起こった変化を考えれば、そうした後期の発達は、かつて生じたボディープランに対するマイナーチェンジにすぎない。

竜脚類の歴史は、前適応(中立または限定的な働きしか持たなかったのに、後の新たな機能に利用されるようになる形質)の重要性を示している。前適応形質は系統の将来的な進化経路を制限する。だが、偶然にもそのおかげで、竜脚類の巨体など、重要な属性と考えられている形質が生まれたのだ。「竜脚類の進化は、まさに勝ちが続く賭け事にそっくりです」とWedelは表現する。「竜脚類は、『チャーリーとチョコレート工場』のウォンカチョコでゴールデンチケットを引き当て、巨体の進化に必要なすべてを手に入れたようなものなのです」。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2011.111016

原文

Rise of the titans
  • Nature (2012-07-14) | DOI: 10.1038/475159a
  • Fredric Heeren
  • Fredric Heerenは米国カンザス州オレーサのフリーライター。

参考文献

  1. Martinez, R. N. & Alcober, O. A. PLoS ONE 4, e4397 (2009).
  2. Yates, A. M., Wedel, M. J. & Bonnan, M. F. Acta Palaeontol. Pol. doi:10.4202/app.2010.0075 (2011).
  3. Berner, R. A. Geochim. Cosmochim. Acta 69, 3211–3217 (2005).
  4. Sander, P. M. & Klein, N. Science 310, 1800–1802 (2005).
  5. Eagle, R. A. et al. Science doi:10.1126/ science.1206196 (2011).
  6. Rauhut, O. W. M., Fechner, R., Remes, K. & Reis, K. in Biology of the Sauropod Dinosaurs: Understanding the Life of Giants (eds Klein, N., Remes, K., Gee, C. T. & Sander, P.M.) 119–149 (Indiana Univ. Press, 2011).
  7. Yates, A. M., Bonnan, M. F., Neveling, J., Chinsamy, A. & Blackbeard, M. G. Proc. R. Soc. B 277, 787–794 (2010).
  8. Pol, D., Garrido, A. & Cerda, I. A. PLoS ONE 6, e14572 (2011).
  9. Allain, R. & Aquesbi, N. Geodiversitas 30, 345–424 (2008).