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小惑星イトカワの微粒子の分析結果

Nature ダイジェスト Vol. 8 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2011.111021

原文:Nature (2012-08-25) | doi: 10.1038/news.2011.506 | Asteroid visit finds familiar dust

Richard a. Lovett

小惑星探査機「はやぶさ」の帰還から1年3か月余り。持ち帰った小惑星イトカワの微粒子の分析結果が報告された。

小惑星イトカワの微粒子の分析結果が、複数の日本の研究チームにより、Science に発表された1–6。それによると、イトカワの組成が、地球上で最もよく見つかるタイプの隕石の組成に近いことが明らかになった。

そのサンプルは、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が、地球を出発してから7年の歳月をかけて、長さ500m、幅200mの地球近傍小惑星イトカワ(25143)の表面から持ち帰ったものである。月以外の地球外天体の表面からサンプルが持ち帰られたのは、これが初めてだった。

小惑星イトカワのサンプルを地球に持ち帰った、小惑星探査機「はやぶさ」。 | 拡大する

池下章裕/JAXA

研究者たちがイトカワを「はやぶさ」の目的地に選んだのは、分光学的な類似から、地球に飛来する隕石の大半を占める「普通コンドライト」と呼ばれる隕石が、イトカワと同じタイプのS型小惑星に由来しているのではないかと推測されていたからだった。S型小惑星とは、ケイ酸塩鉱物を多く含む(Siliceous)、石質の(Stony)小惑星のことである。

火星と木星の軌道の間にある小惑星帯は、さまざまなタイプの小惑星から構成されていて、S型小惑星はそのうちの1つにすぎない。それにもかかわらず、地球に飛来する隕石の大半がS型小惑星に由来していると推測するのには理由がある。S型小惑星は小惑星帯の中でも地球に近い内側の軌道でよく見られるため、その破片がはじき飛ばされたりして、地球に飛んでくることが多いと考えられるからである。けれども、小惑星については、大型望遠鏡や近くを通過する惑星探査機を使った間接的な調査しかできず、これまでこの推測の正当性を十分に証明することはできなかった。

ワシントン大学(米国シアトル)の天文学者Don Brownleeは、イトカワの研究チームのメンバーではないが、「これまで推測にとどまっていたS型小惑星と普通コンドライトとの関係が、ついに直接裏付けられたのです」と目を輝かす。

見えてきた過去と未来

イトカワの微粒子からは、「宇宙風化」の影響も測定することができた。宇宙風化とは、宇宙線や太陽風、微小隕石の作用によって、小惑星の表面が変質する過程のことである。この宇宙風化の程度と、岩石中に含まれるヘリウム、ネオン、アルゴンの量を利用して、小惑星の表面が宇宙空間にさらされていた期間を決定することができる。

その結果は驚くべきものだった。東京大学(東京都文京区)の長尾敬介(ながおけいすけ)が率いる研究チームによると、イトカワから回収された微粒子が宇宙線などの放射にさらされていた期間は、せいぜい800万年であるというのだ。表面の微粒子がこのように比較的短期間しか宇宙風化を受けていないことは、イトカワが100万年に数十cmのペースで浸食されていて、新たに露出した表面が絶えず風化作用を受けていることを示している。

「これは、全く予想外の結果でした」とハワイ大学マノア校(ホノルル)の隕石研究者Alexander Krotは言う。「イトカワの一生は非常に短いのです。数億年後には消えてなくなってしまうでしょう」。

重要な発見はもう1つある。イトカワから持ち帰られた微粒子中の鉱物は、初期に、熱変成するほどの高温になっていたことが明らかになったのだ。東北大学(宮城県仙台市)の中村智樹(なかむらともき)らによれば、小惑星から回収された微粒子は、約800℃の高温で長期間にわたって加熱されていたように見えるという。

この熱を供給したのは、小惑星の内部にあるアルミニウム26の放射性崩壊だったと考えられる。実際、半減期の短いアルミニウム26は、太陽系の誕生から数百万年間の主要な熱源だったとされている。しかし、イトカワのように小さい小惑星に、岩石が変成するほどの熱を発生させられるほど大量のアルミニウム26が含まれていたはずがない。「温度が800℃まで上がるには、小惑星の直径は20km程度あった必要があります」と中村は言う。このことはつまり、現在のイトカワが、より大きな母天体の一部であったことを示唆している。中村は、「母天体が衝突によって破壊され、その破片の一部が再び集まって、現在の形になったのでしょう」と言う。

新たな謎

しかし、地球に持ち帰られた微粒子のすべてに、同じように加熱の痕跡が見られたわけではない。「イトカワは複雑な天体で、加熱の影響が大きい部分もあれば、そうでない部分もあるのです」とBrownleeは言う。

セントラルフロリダ大学(米国フロリダ州オーランド)の惑星科学者Humberto Campinsは、「はやぶさ」が小惑星の表面から微粒子を回収できたという事実そのものが、何らかの過程、おそらくは小惑星の振動か微小隕石の衝突により、表面でしょっちゅう微粒子が形成されていることを示していると指摘する。「これも非常に興味深いことなのです」と彼は言い、自身が科学研究チームのメンバーとなっている米国航空宇宙局(NASA)のOSIRIS-RExミッションなど、今後の小惑星サンプルリターンミッションにとってよい報告であると考えている。

しかし、「はやぶさ」ミッションの最大の成功は、技術的な側面にあると言ってよいだろう。打ち上げから間もなく太陽フレアに遭遇して大きな損傷を受けたことや、イトカワから離陸する際にサンプルコンテナがきちんと封をされているかどうか確認できなかったことなど、数多くの困難に見舞われたにもかかわらず、これだけの成果を挙げることができたのだから。

しかし、今回の知見は新たな謎も提起した。Campinsによると、イトカワが普通コンドライトの供給源であることは証明されたものの、イトカワの鉱物学的組成は、多くの普通コンドライトの組成とはタイプが違っているという。

普通コンドライトの多くは、鉄の含有量が高いHコンドライトか、やや低いLコンドライトである。けれども、イトカワから持ち帰られた微粒子は鉄の含有量が非常に低いLLコンドライトで、地球上で見つかっている普通コンドライトの中で最も数が少ないタイプのものなのだ。「イトカワのミッションにより多くの推測が裏付けられましたが、新たな謎もまた生まれたのです」とCampinsは言う。

(翻訳:三枝 小夜子)

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Nakamura, T. et al. Science 333, 1113-1116 (2011).
  2. Yurimoto, H. et al. Science 333, 1116-1119 (2011).
  3. Ebihara, M. et al. Science 333, 1119-1121 (2011).
  4. Noguchi, T. et al. Science 333, 1121-1125 (2011).
  5. Tsuchiyama, A. et al. Science 333, 1125-1128 (2011).
  6. Nagao, K. et al. Science 333, 1128-1131 (2011).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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