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有機合成反応の課題を電気で解決

sp3混成炭素原子を持つ最も単純な分子メタン(CH4;上)と、sp2混成炭素原子を持つ最も単純な分子エチレン(C2H4;下)の分子模型。sp3混成軌道はx軸方向、y軸方向、z軸方向の成分を全て持つため、分子は立体構造をとるが、sp2混成軌道はx軸方向とy軸方向の成分のみで、z軸方向の成分は持たないため、分子は平面構造をとる。 Credit: MEGGIST/ISTOCK/GETTY

炭素原子間の結合(炭素–炭素結合;C–C結合)の形成は、医薬品、農薬、材料など、さまざまな用途向けの分子の合成において非常に重要である。しかし、4つの原子と結合した炭素原子(sp3混成炭素原子)同士の結合形成は難しく、依然として課題となっている。3つの原子と結合した炭素原子(sp2混成炭素原子)同士の結合形成はより簡単で、その方法もより確立されているが、こうしたカップリング反応で生成する分子は概して平面構造であり、sp3混成炭素原子同士のカップリング反応で生成する分子が立体的であるのとは対照的だ。薬剤分子では、三次元構造を多く持つものほど臨床試験での成功率が高くなる傾向があることから1sp3混成炭素同士の結合形成の実現に向けた取り組みは、明らかに価値がある。コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)のWen Zhangら2はこのたび、有機合成で広く用いられてきた遷移金属触媒反応ではなく、電気化学的な反応によって、sp3混成炭素を有する分子間にC–C結合を形成する方法を開発し、Nature 2022年4月14日号292ページで報告した。

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翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2022.220639

原文

Electrification promotes tricky synthetic chemical reactions
  • Nature (2022-04-14) | DOI: 10.1038/d41586-022-00852-7
  • Charlotte Willans
  • Charlotte Willansは、リーズ大学(英国)に所属。

参考文献

  1. Lovering, F. MedChemComm 4, 515–519 (2013).
  2. Zhang, W. et al. Nature 604, 292–297 (2022).
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  7. Schotten, C. et al. Green Chem. 22, 3358–3375 (2020).