妊娠合併症を血液検査で予測
ヒトの妊娠過程の生物学的研究には難しい一面がある。侵襲的な診断手技を用いて、胎児や胎盤からDNAを採取して遺伝子解析を行ったり、RNAを採取してその時点での遺伝子発現プロファイルを調べたりすることは可能だ。しかし、倫理的・技術的な理由から、成長中の胎児や胎盤から検体を定期的に採取し、妊娠の全期間にわたって発生の進行と母子の健康状態をモニタリングするようなことはできない。このたび、米国のバイオ企業Mirvie社(カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)のMorten Rasmussenを中心とする研究グループは、年齢、体格指数、人種、居住している大陸、および妊娠ステージがさまざまな妊娠者1800人以上を対象に、血液中に含まれる遊離RNA分子〔無細胞RNA(cell-free RNA;cfRNA)と呼ばれる〕を抽出して分析した。その結果から、正常な妊娠の経過中における胎児、胎盤、母体それぞれの遺伝子発現の変化に関する知見が得られたことを、Nature 2022年1月20日号422ページで報告した1。Rasmussenらはさらに、今回得られた正常な妊娠におけるcfRNAシグネチャー(cfRNAプロファイルの特徴)に関する知見を基に数理モデルを作成し、妊娠高血圧腎症(preeclampsia)と呼ばれる危険な妊娠合併症の発症を早期に予測できることを示した。
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翻訳:藤山与一
Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 4
DOI: 10.1038/ndigest.2022.220446
原文
A blood test to predict complications of pregnancy- Nature (2022-01-20) | DOI: 10.1038/d41586-021-03801-y
- Lydia L. Shook & Andrea G. Edlow
- Lydia L. Shook、Andrea G. Edlowは、共にマサチューセッツ総合病院産科婦人科母体胎児医学部門および 同病院ビンセント記念生殖生物学研究センター (いずれも米国ボストン)に所属。
参考文献
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