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衛星用のヨウ素エンジンを宇宙で初試験

真空室内でイオンを噴射する、Rafalskyiらのヨウ素電気推進システム(NPT30-I2)のフライトモデル(飛行実機)。イオンの速度はおよそ毎秒40kmで、得られる推力は0.8ミリニュートン。試験衛星は2020年11月に長征6号ロケットで打ち上げられ、高度約480kmの地球周回軌道に投入された。衛星はこの推進システムにより、3kmを超える累積高度変化を達成した。 Credit: ThrustMe

「衛星コンステレーション」と呼ばれる柔軟なネットワークに組織された衛星群は、1機で機能する衛星よりも臨機応変でトラブルに強い。衛星コンステレーションを形成するには、安く、信頼性が高く、効率的なエンジンが必要だ。ネットワーク化された衛星の多くは電気推進のスラスター(推進装置)を備えており、電気エネルギーで推進剤ガスのイオンを加速することによって推力を得る。しかし、気体の選択が課題になる。現在広く使われているキセノンは、比較的少量のエネルギーでイオン化できるが、高価であり、衛星に搭載するためには圧縮して高圧タンクに入れる必要がある。またクリプトンは、キセノンより安いが、複雑で重い気体貯蔵・供給システムが必要になる。新興の航空宇宙企業スラストミー社(ThrustMe;フランス、ベリエール・ル・ビュイッソン)のDmytro Rafalskyiらは、宇宙でのヨウ素イオンスラスターの実証に成功したことをNature 2021年11月18日号411ページで報告し、キセノンやクリプトンに代わる、安く、簡便なシステムを提案した1

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翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2022.220237

原文

Iodine powers low-cost engines for satellites
  • Nature (2021-11-18) | DOI: 10.1038/d41586-021-03384-8
  • Igor Levchenko & Kateryna Bazaka
  • Igor Levchenkoは、南洋理工大学(シンガポール)に所属。Kateryna Bazakaは、オーストラリア国立大学(キャンベラ)に所属。

参考文献

  1. Rafalskyi, D. et al. Nature 599, 411–415 (2021).
  2. Goebel, D. M. & Katz, I. Fundamentals of Electric Propulsion: Ion and Hall Thrusters (Wiley, 2008).
  3. Levchenko, I. et al. Nature 562, 185–187 (2018).
  4. Parfenov, V. A. et al. Sci. Adv. 6, eaba4174 (2020).