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米国物理学会の初のバーチャル学術大会に過去最多の参加者

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200707

原文:Nature (2020-04-24) | doi: 10.1038/d41586-020-01239-2 | ‘Loving the minimal FOMO’: First major physics conference to go virtual sees record attendance

Davide Castelvecchi

新型コロナウイルス禍のため、米国物理学会の4月の大会はオンラインで開催された。

APSは、4月の大会をオンラインで開催することを決定した。 | 拡大する

American Physical Society

米国物理学会(American Physical Society;APS)の2020年の4月の大会は、主要な物理学会の大会として初めてサイバースペースで開催された。多くの参加者が、土壇場のごたごたはあったもののおおむね成功といえると話す。

当初の予定では、この大会は4月18〜21日に米国ワシントンDCで開催されることになっていた。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックにより人々が実際に集まることができなくなったため、実行委員会はこの4月の大会全体をオンラインで開催することに決め、参加登録費を無料にして、誰でも参加できるようにした。

APSの大会担当理事であるHunter Clemensによると、例年、4月の大会の参加者は1600~1800人前後だが、今回は7267人が登録したという。そして、多くの参加者がこの大会に満足していた。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(アイルランド)の宇宙物理学者Niels Warburtonは、「APSのバーチャル大会は、私がこれまでに参加したオンライン学会の中ではずば抜けて良かったと思います」と言う。

3月初頭、APSはパンデミックへの懸念に直面していた。APSの3月の大会は、新型コロナウイルスのアウトブレイクが最初に報告された中国以外の国で開催される、大規模な組織による初めての学術大会だった。米国コロラド州デンバーでの開催を予定していた3月の大会は、4月の大会よりはるかに大規模なものだったが、APSは開催予定時刻のわずか36時間前に中止を決めた。それでも、大会の一部は形を変えて行われた。大会に参加するはずだった人々が、予定されていたセッションの非公式バージョンをオンラインですばやく組織したからだ。

大会開催へのそうした熱意の高まりを受け、APSは4月の大会を中止にしたり延期にしたりするのではなくオンラインで開催することを決め、必要なオンラインインフラと技術支援を提供する企業と契約を結んだ。4日間の大会期間中に計175のライブセッションが行われ、最大15のセッションが同時に進行された。講演のオンラインプラットフォームでは講演者の動画の隣にチャットウィンドウが表示され、参加者はコメントや関連論文へのリンクについてリアルタイムでやりとりをすることができた。APSは、バーチャルな集まりを組織して実際の学術大会での交流体験を再現する努力もしていたが、一部の参加者は、Slackなどのメッセージングツールを使って独自に議論の場を設けていた。

バージニア大学(米国シャーロッツビル)の核物理学・素粒子物理学者であるXiaochao Zhengは、「バーチャルな学術大会は本物ではありませんが、この状況を考えれば良いアイデアだったと思います。他の多くの学術大会が中止になって、参加を予定していた人たちが落胆していましたから」。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の実験物理学者Lindley Winslowもそれに同意する。「私が専門とするニュートリノや暗黒物質の分野は会合が頻繁に必要ですから、バーチャルで行うことになりますし、それでうまくいくのです。ただ、全員で同じ場所に集まるときに比べると効率は下がります」と言う。とはいえ、自宅に乳幼児がいる彼女は、「どうやって現地に行くか考えずに済んだのは助かりました」とも話す。

バーチャル大会は、人々が実際に集まる大会と比べて、他にもいくつか利点があった。ライブトークは一時停止や巻き戻しが可能であり、詳細を聞き逃した人や、重要なスライドをじっくり検討したい人には便利だった。

また、大規模な大会では広大なコンベンションセンターの中をセッションからセッションへと駆け回らなければならないが、自宅で講演を視聴することで、このプレッシャーを少しだが和らげることができた。フェルミ国立加速器研究所(米国イリノイ州シカゴ郊外)の素粒子物理学者Claire Leeは、「バーチャルになることに、誰もがうんざりしたり億劫になったり途方に暮れたりしているけど、FOMO(fear of missing out:見逃すことへの不安)を最小限にできるから、私自身は気に入っている」とツイートしている。

4月の大会のプログラムは開催のずっと前に確定していた。そのため、土壇場でのサイバースペースへの移行は完全にスムーズというわけではなかった。例えば、ほとんどの講演者はオンラインでの発表に同意したが、これを拒否した講演者もいた。また、学生による講演の多くを含む一部のセッションは、「オンデマンド」で視聴できるよう事前に録画しておかなければならなかった。そのため参加者の間で混乱が生じ、講演を事前にアップロードしておく必要があることに気付かず、アップロードが間に合わなかった人もいた。Clemensによると、APSは4月の大会の講演者による動画のアップロードを現在も受け付けているという。

Nature が連絡を取った大会参加者のほとんどが、この大会は有益だったと感じていた。エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の大学院生Kelly Backesは、「私が予想していたよりもずいぶんうまくいっていたと思います。予想以上の収穫がありました」と言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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