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「国境閉鎖はばかげている」スウェーデンの新型コロナ対策を指揮する疫学者は語る

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200711

原文:Nature (2020-04-30) | doi: 10.1038/d41586-020-01098-x | ‘Closing borders is ridiculous’: the epidemiologist behind Sweden’s controversial coronavirus strategy

Marta Paterlini

スウェーデン公衆衛生局のアンデシュ・テグネルが Nature に、新型コロナウイルスによるパンデミックに対するスウェーデン独自の戦略について語った。

疫学者アンデシュ・テグネル。 | 拡大する

Jonathan Nackstrand/AFP/Getty

2020年3月、欧州の国々の多くが公共生活に厳しい制限を課す中、スウェーデンはロックダウン(都市封鎖)を行うことも、ソーシャルディスタンス(社会的距離)を確保するために厳格な手段を取ることもなかった。代わりに採用したのが、国民が自主的に対策を行う「信頼に基づく」戦略だ。政府は、高齢者には社会的接触を避けるよう助言し、一般の人々には在宅勤務と定期的な手洗い、必要のない旅行の自粛を推奨した。ただし国境は閉鎖せず、16歳未満の子どもたちは学校に通い、レストランやバーを含む多くの店舗が営業を続けている。

この戦略は厳しい批判に遭っていて、4月14日には22人の著名な科学者がスウェーデンの新聞Dagens Nyheter 紙上で公衆衛生局の失敗を指摘した。彼らがその根拠として挙げたのは、高齢者介護施設での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者の多さと、他の北欧諸国と比較したときのスウェーデンの死亡率の高さだった。当時、人口100万人当たりのCOVID-19による死亡者数は、スウェーデンでは131人だったが、ロックダウンを実施したデンマークでは55人、フィンランドでは14人だった。

スウェーデンの新型コロナ対策を立案したのは公衆衛生局の疫学者アンデシュ・テグネル(Anders Tegnell)である。公衆衛生局は政府とは独立の機関で、政府は公衆衛生局の専門家の勧告に基づいて政策を立てている。テグネルはNature にこの戦略について語った。

―― スウェーデンの戦略について 説明してください。

私たちの戦略の独自性は誇張され過ぎていると思います。多くの国々と同様に、私たちも医療システムと社会の崩壊を防ぐため、感染者数の推移を表す曲線をなだらかにし、感染の拡大を可能な限り遅らせることを目指しています。少なくとも有効なワクチンができるまでは、感染の拡大を完全に止めたり根絶したりすることはできません。やっていることはどの国も同じで、人々に物理的距離をとらせたいのです。各国の対策が少しずつ違って見えるのは、各国がそれぞれの手段を使い、自国の流儀に則って進めているためです。

伝染病に関するスウェーデンの法律は、対策は自発的に個人の責任において行うことを基本としています。また法律には、国民は疾患を広めないようにする責任を負うと明記されています。ここが私たちの出発点です。それにスウェーデンの現行法では、都市を封鎖することはできません。個人や小さな範囲、例えば学校やホテルの検疫なら可能ですが。

―― 今回の戦略の根拠となったエビデンスは?

この対策の科学的根拠について語るのは困難です。COVID-19のことはよく分かっておらず、日々の対応の中で学んでいる最中だからです。私に言わせれば、操業停止にも都市封鎖にも国境閉鎖にも、歴史的な科学的根拠はありません。こうした措置を取ったEU加盟国が措置の効果を分析した結果を事前に公表していたかどうかを調べましたが、そうした国はほとんどありませんでした。

個人的には、国境閉鎖はばかげていると思います。COVID-19は今や欧州中に広がっていますから。私たちにはスウェーデン国内の移動の方が心配です。

私たちは社会全体として適切な行動を促していかなければなりません。対策を取ることを人々に絶えず思い出させ、対策は日々改良します。全てを封鎖する必要はありません。それでは逆効果です。

―― スウェーデンの公衆衛生局の決定プロセスは?

毎朝、約15人で会議を開き、収集したデータや分析結果を見て、新たな決定や勧告を行います。地方当局とも、週に2回話しています。

今、最も議論しているのは、アウトブレイクが起きている高齢者介護施設についてです。スウェーデンの死亡率が近隣諸国に比べて高いのは、介護施設に入居する高齢者の死亡率が高いためです。この点について調査を進めています。どの勧告が守られていないのか、なぜ守られていないのかを解明しなければなりません。

―― この戦略は緩過ぎると批判されています。反論はありますか?

公衆衛生局は地域ごとに詳細なモデル化を行い、感染者1000人当たりの入院数と死亡数について、他の研究よりはるかに楽観的な結論を発表しました。増加はしていますが、今のところそれほどひどくありません。もちろん、数週間後には感染者はもっと増え、集中治療室で治療を受ける患者数も増えることになるでしょうが、それは他の国も同じです。欧州のどの国も、感染の拡大を大幅に遅らせることはできませんでした。

学校は今後も休校にならないでしょう。科学的に見て、パンデミックの真っ只中に休校にしても意味はないと思います。流行のかなり早い段階で学校を閉鎖しなければ効果を得ることはできません。理由は他にもあります。活動的に過ごすことは、若い世代の心身の健康のために非常に大切なのです。

―― 無症候性キャリアが果たしている役割を公衆衛生局は十分に認めていないと批判する研究者がいますが。

無症候性キャリアから感染する可能性はありますし、このことを示唆する研究もあります。けれども、発症者に比べればウイルス排出量はかなり少ないと思います。正規分布のベル曲線で言えば、無症候性キャリアは端の方に位置していて、曲線の大部分は発症者です。本当に止めなければならないのは後者です。

―― この戦略は奏功していると思いますか?

判断するのは非常に困難で、時期尚早です。どの国も何らかの方法で「集団免疫」を獲得しなければなりません(註:集団内で感染症に対する免疫を獲得した人の割合がある程度高くなると、免疫を持たない人々への伝播をほぼ食い止めることができる)。私たちは、独自の方法で集団免疫の獲得を目指しています。

集団免疫や再発について検討できる時期に来ていることを示す兆候は十分にあります。これまでのところ、全世界で再感染の事例はほとんど報告されていません。集団免疫がいつまで続くかは分かりませんが、免疫応答が起こることは間違いありません。

―― 反省点はありますか?

私たちは介護施設の問題を過小評価し、対策の実施方法の検討が不十分でした。もっと徹底した管理を行うべきでした。一方、医療システムについては、異例の緊張状態の中、常に先手を打った対応ができています。

―― 今回の戦略に満足していますか?

はい! パンデミックについては、これよりもはるかに悪いシナリオがいくつも考えられました。私たちが現在直面している問題のほとんどは、COVID-19自体によるものではなく、一部の環境で対策が適切に実施されていないことが原因です。高齢者の死は非常に大きな問題ですが、私たちは全力で戦っています。

さらに2020年はインフルエンザの流行と冬のノロウイルスの流行が一貫して小さくなっているというデータもあり、社会的距離の確保と手洗いが功を奏していることが分かります。グーグル社の協力により、スウェーデン人の移動が劇的に減少したことも分かっています。国民の自主性に任せる私たちの戦略は有効なのです。

(翻訳:三枝小夜子)

註:スウェーデンの新型コロナウイルス感染者が4万人、死者が4500人、人口100万人当たりの死者が400人を超えた6月3日、テグネルはスウェーデンのラジオ番組のインタビューに答えて、「私たちが現段階で得ているのと同じ知識を持って、同じ病気に再び遭遇することがあったら、その対策は、スウェーデンの手法と、他の国々の手法の間のどこかに落ち着くでしょう」と語った。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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