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パンデミックと女性研究者たち

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200618

原文:Nature (2020-04-20) | doi: 10.1038/d41586-020-01135-9 | The pandemic and the female academic

Alessandra Minello

研究者としての昇進を妨げる可能性のある「母親の壁」。これについて、ロックダウンでどのようなことが明らかになるのか。私はそれを知りたいと考えている。

Alessandra Minelloは、フィレンツェ大学(イタリア)の統計学および社会人口学の研究者。 | 拡大する

女性研究者たちの仕事や生活は、COVID-19のパンデミックによって多大な影響を受けている。彼女たちがそれに対処する方法の1つがユーモアだ。3月、ツイッターにウイルス関連のこんな投稿を見つけた。「この次、『アイザック・ニュートンは自宅でどれほど生産的な仕事をしていたか』とツイートした人は、うちの3歳の息子からツイートをもらうわよ!」。

COVID-19のせいで勤めている大学が3月12日に閉鎖されて以来、私はこれまでの人生で見てきたよりもずっと多くの日の出を見てきた。いま私は、夜明け前に仕事をしなければならないからだ。

考えたり教えたりするには、静寂と集中が極めて重要だ。学生たちに向けたオンライン授業を録画しているときには、バックグラウンドの騒音を最小限にすることが不可欠だ。しかし、息子はまだ2歳。私が最初の授業を録画しようとしたとき、最後の2枚のスライドを映している最中に息子がおもちゃのトランペットを吹く音がはっきりと聞こえていた。となると、私が撮影できるのは、息子が眠っている夜か夜明けごろしかない。

もう1つ、私の時間を要求するもの。それは、世界中に散らばっている研究の仲間たち。彼らは、オンラインで顔を見ながら話をしたいという時代錯誤も甚だしい願望を持っている。時間帯などおかまいなし。そういうわけで、私の研究者仲間たちは息子の顔を知ることになった。彼の小さな頭が時々ウェブカメラにひょっこり現れるからだ。

これはつまり、科学論文を書く時間が減ってしまったことを意味する。働く代わりに、私や仲間たちの目下の目標は、日常生活を切り抜けることになっている。もちろん、COVID-19に感染した場合の激烈な結果と比べれば、これはささいな問題だ。そして私たちは皆、失業していないことは幸運なことだと分かっている。貧富の差などの社会的不平等によって、仕事やヘルスケア、買い物などのサービスに手が届きにくくなっている人々もいるのだ。

とはいえ私は社会人口統計学者であり、家族がどのように世帯や賃金労働を管理しているかを研究している。私は研究職や専門職の女性に研究の焦点を合わせることが多いのだが、今は、自分自身が研究対象になっている気がしている。私はすでに共同研究者たちと、聞き取り調査やオンライン民族誌学研究を立ち上げる準備を始めている。

このパンデミックは、一部の人々に重要な教訓を与える可能性がある。母親たちも父親たちも、家事・育児や労働時間の短期的な再編成に直面している。長い目で見ると、生産性におけるこれらの変化はキャリアに影響するだろう。家事や育児の義務が少ない人々は高みを目指している。学界の人々の中で、家族の世話や仕事におけるアンバランスを考慮に入れてくれる人はいるだろうか? いや、いない。私たちは皆、育児中かどうかにかかわらず、昇進とポジションを巡る自由競争に参加するだろう。

研究職においては、キャリアアップのチャンスは自分が発表した科学論文の数および質と、研究プロジェクトに助成金を獲得できるかどうかにかかっている。だからそもそも、研究職と子育ては相いれないものなのだ。この先2、3年間の論文発表記録のデータから、子どもを持つ研究者は子どもを持たない研究者よりも相対的に2020年の論文発表数が劣るという結果が出るだろうと私は予想する。

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Tom Werner/DigitalVision/Getty

また、こうしたデータは女性にもたらされる結果についても明らかにするかもしれない。実際、家事や育児の負担は均等ではない。非常に教育程度の高いカップル間でさえも、だ。女性は男性よりかなり多くの時間を家事に割いている。米国の既婚の母親と父親を比べると、母親の方が家事と育児に倍近い時間をとられている。北欧の男女平等主義の国々でも、女性はいまだに無償労働の約3分の2を担っている。女性が稼ぎ手の男女のカップルにおいてさえ、女性が家事・育児の大部分をこなしている。

全体的に見て、COVID-19の経験は、特にいくつかの領域で、研究のやり方を変えつつある。査読をスピードアップする新しい仕組み、入手可能なデータの質と速さの増加、および領域間での助成金の配分などが、学界の均衡を変えようとしているのだ。私たちは、これが格差にどのような効果を与えるのかに注意を向ける必要があるだろう。

では、男女のカップルの妻と夫の両方が家にいると、何が起こるのか? 一番起こりやすいのは、これが男女不平等を悪化させるというシナリオだ。

研究職についたばかりの頃は、長期にわたって不安定な状態が続くものだが、この時期は女性の生殖期とちょうど重なる。働く母親が直面する差別や制限を指す、いわゆる「母親の壁(maternal wall)」という言葉は10年以上にわたって使われてきた。女性にとって、保証された産休や育休、そして保育所などに関する政策は特に重要となるだろう。今回の事態に直結するアイデアの1つは、このロックダウンの時期を、子どもの世話をしている人々の育児休暇と見なすことである。そうすれば、例えばキャリアアップのための自由競争などにおいて彼女たちが後々評価される場合に、これを考慮に入れてもらうことができる。この期間に普段よりもさらに苦しい状況にある家族、とりわけ一人親(女性である可能性が高い)にとっては、非常に役立つ措置となるかもしれない。

男性も役割を持つ場合がある。フィレンツェ大学(イタリア)の経済学者で私の共同研究者のPaolo Brunoriには、2人の子ども(18カ月と5歳)がいる。彼の妻は小児科医だ。彼はテレワークをしているが、彼女はいまだに病院で勤務している。彼はこう告白する。「頭を研究の仕事にだけ向けておくのはほとんど不可能です。だって、集中できる静かな時間を連続して3~4時間持つなんてことは無理な相談なんですよ。そこで、やらなければならないことを細分化して、妻のシルビアが家にいるときか、みんなが寝静まっている間に、少しずつ片付けていくんです」。Paoloや彼と同様の立場に立たされている全ての人たちは、話を広めるべきだ。私たち自身の家族の一員が子育てや家事に割いている時間でさえ、ほとんどの場合、目に見えず、見落とされているのだから。

たった1つの現実的な解決策は古典的なものだ。それは男女平等への長期投資である。

(翻訳:古川奈々子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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