Editorial

論文と併せて査読報告書も公表します

査読報告書には、論文執筆者と査読者の間で交わされている魅力的で重要な議論が記されています。それを公表することで、読者にも議論の恩恵を届けたいと考えています。 Credit: Getty

査読の価値を認める点で、各研究コミュニティーの意見は一致していますが、査読過程の透明性向上を求める声が高まっています。その一環として、研究者は、論文出版に関する決定がどのようになされるかを知りたいと望み、査読者と編集者が偏見を持たずに公正に行動することの確実な保証を求めています。

Nature を含む数多くの学術誌における論文査読では、通常、単純盲験法のように誰が査読者なのかが論文著者に分からないようになっていました。それと同時に、査読報告書の内容や著者、査読者、編集者間のやりとりの秘密は守られています。

そのため、読者は、著者と査読者の間の大事な話し合いの中身を知ることはできません。しかし、それは、興味をそそられる内容であることが多いだけでなく、研究を形作り、改良し、研究の公正性をチェックする上でも極めて重要なのです。その一方で、著者と査読者の議論を秘密にしておくことは、研究論文にはそれぞれの研究テーマに関する最終的な見解が示されるという認識を補強する上で役立ちます。論文に示された新知見は、学術的な長い「旅」における一里塚にすぎないことが多いのです。

Nature に投稿される論文の著者は、変化を求めました。Nature の査読者を対象として2017年に実施されたアンケート調査で、全回答者の63%は、出版社が別のモデルを実施する実験を行うべきだとし、全回答者の半数以上が査読の透明性を高めた方がよいと答えました。また、2016年にNature では、著者と査読者の両方の同意を条件として、論文に査読者の氏名を記載できるようにしました。その結果、約3700人の査読者が、氏名の公表を選択し、Nature に掲載された論文の約80%で、1人以上の査読者の氏名が公表されました。

そこでNature では2020年2月から、新規に投稿される論文の著者は、その論文原稿が発表可能になった時点で、査読者の氏名を伏せた査読報告書を著者自身の返答や反論と共に発表できるようにします。

一方、査読を同意の上で引き受ける場合、査読者は自らが作成する匿名の査読報告書と匿名化された著者とのやりとりが公表される可能性があることを忘れないでください。査読者が希望すれば、査読者自身の氏名を公表することもできます。

今回の変更により、Nature は、他のネイチャー・リサーチ出版誌7誌に追随します。これら7誌には、先駆的な取り組みをしてきたThe EMBO Journal とBMC出版誌各誌と、2016年から査読者報告書を公表しているNature Communications があります。

Nature の試行実施の進行状況については後日報告する予定ですが、Nature Communications の場合は、有益な経験になっています。同誌で査読者報告書を公表した論文著者の圧倒的多数(98%)は、今後も査読者報告書の公表をしたいと回答したのです。

査読内容の公表は、それぞれの研究論文に関する学術的議論を進めることが目的なのであり、Nature の読者と研究コミュニティー全体が、そうした議論の恩恵を受けることが重要です。Nature は、その実現にわずかでも貢献できることをうれしく思っています。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200546

原文

Nature will publish peer review reports as a trial
  • Nature (2020-02-06) | DOI: 10.1038/d41586-020-00309-9