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COVID-19で今年の学会年次大会はゼロ?

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200514

原文:Nature (2020-03-16) | doi: 10.1038/d41586-020-00786-y | A year without conferences? How the coronavirus pandemic could change research

Giuliana Viglione

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で、各学会は大会開催を見送る傾向にある。研究者たちは、他の研究者と関わりを持つ方法を改めて模索し始めているが、もっと前から取り組んでおくべきだったという声も出ている。

世界中で数十の学会が中止に追い込まれている。 | 拡大する

Omar Marques/Getty Images)

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的な大流行)が拡大し、ウイルスの拡散阻止に先例のない措置が打ち出されている今、多くの学会大会が中止になっている。科学者たちは、自身の研究を発表し、仲間と交流するための新しい方法を見つけ出そうと、急ピッチで動いている。科学界では文化的な変化はゆっくりしたものだが、こうした議論の中で、一部の研究者からは大会の概念を根底から覆すような案も出ている。

ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)の惑星科学者Sarah Hörstは、「いつかは『学会の大会には何の意味があるのか?』について話し合う必要があるでしょう。コロナ禍がそのきっかけとなれば」と言う。

感染のリスク

米国化学会も2020年3月22〜26日にフィラデルフィア(米国ペンシルベニア州)で春季大会の開催を予定していたが、参加を不安視する声の高まりを受けて3月9日に中止を決めた。大会の開催中止が不可避なのは明らかだ。参加者の中に感染者がいた場合、世界中から集まってきた他の参加者に感染を広げてしまう恐れがあるからだ。実際、バイオテクノロジー企業バイオジェン(Biogen;米国マサチューセッツ州ボストン)が2020年2月26日に開催した社内会議ではそうした事態が発生し、マサチューセッツ州内だけでも70人のCOVID-19患者が会議に参加した感染者と関連付けられている。現在、ウイルスの拡散を食い止めようと、世界中で集会の自粛要請が出されたり禁止されたりしている。

多くの学会大会の主催者と参加者が、オンライン・プラットフォームを利用して研究発表の場を設け、現実の学会大会を部分的に模倣したバーチャルの学会大会を作っている。バリローチェ原子力センター(アルゼンチン、サン・カルロス・デ・バリローチェ)の物理学者Ezequiel Ferreroは、こうした動きは、よりアクセスしやすい学会大会への変化の始まりかもしれないと言う。大会参加には多額の費用がかかるため、Ferreroは2020年3月2〜6日に米国コロラド州デンバーで開催予定であった米国物理学会(American Physical Society:APS)の大会への参加を見合わせざるを得なかった。ところが、1万1000人が登録していたこの大会は、開催わずか2日前に突然中止となった。

Ferreroによると、APSのいくつかの部会は、以前からバーチャル・コミュニティーを構築する方法について議論していたという。今回、そうした部会の多くが、大会のためのバーチャル・セッション用プラットフォームを迅速に立ち上げ、講演者に対して、ウェブカメラを使って発表を行うか、オンライン・リポジトリに発表をアップロードするように促した。それにより、遠方から大会に参加できるようになった。「現実の大会には参加できなかった私が、突然、バーチャルで参加できることになったのです」とFerrero。

ノースカロライナ州立大学(米国ローリー)の物理学者Karen Danielsは、「変わった点があるとすれば、講演の質が目につきやすくなったことでしょうか。前の人の頭が邪魔になることがないので」という。ソフトマター物理学のオンライン講演の実現に向けて陣頭指揮を取ったDanielsは、大会のフォーマットを変えるのに最初は少々苦労したものの、その後は非常にスムーズに進んだと言う。彼女が組織したセッションの1つには約100人がバーチャルで参加した。

インクルーシブな学会大会へ

バーチャルな学会大会の長所はこれだけではない。障害のある科学者には行きにくい会場、健康への配慮、子どもの世話を頼めない、旅行制限があるなど、潜在的な参加者を遠ざける要因はいろいろある。「こうした人々がいることを考えるだけでも、バーチャルな学会大会を試す理由になるはずです」とDanielsは言う。

ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL;英国)の惑星科学者Divya Persaudは、これらの要因は、学会大会を別の形で開催することが「強く求められている」ことを意味すると言う。彼女とUCLの宇宙空間社会学者Eleanor Armstrongは、2020年5月に「Space Science in Context(文脈の中の宇宙科学)」という実験的なバーチャル大会を開催することについて、大学の許可を得ている。この大会の目標は、従来の形の大会よりもアクセスを容易にし、研究者の移動に伴うカーボンフットプリント(商品やサービスのライフサイクル全体を通して排出された温室効果ガスの量を二酸化炭素排出量に換算して表現したもの)を削減し、幅広い聴衆を獲得することだ。参加者は事前に収録された講演を閲覧してから、大会当日にオンラインで会話に参加することになる。

Persaudは、こうした措置の多くは障害者の権利のために何年も前から活動家が強く求めていたものであり、世界的な健康危機が発生して初めてそれらが実現したことを「うれしく思う半面、苦々しさも感じます」と言う。

障害のある科学者の代弁者として活動する米国オレゴン州ポートランドの定量生態学者Juniper Simonisも、学会をインクルーシブなものにするための「機関の足取りは重い」と言う。各機関は、1990年の「障害のあるアメリカ人法(Americans with Disabilities Act)」などの法律的な枠組みにより、便宜を必要とする人々には合理的な便宜が図られていると指摘する。しかしSimonisは、「障害のある人々からの要請に耳を傾け、それに応えるという点では、学会にはまだまだ改善の余地があります」と言う。

学会大会の主催者たちは、短い期間にこれだけ大きな変化を起こすことの難しさを痛感している。欧州地球科学連合(EGU)の大会は2020年5月3〜8日にウィーンで開催が予定されているが、セッションのリーダーたちは中止に備えて対応を計画している。英国立海洋学センター(リバプール)で海水面の変化を研究している科学者のJoanne Williamsは、「EGUのような大規模な学会大会の体験をオンラインで再現するのは非常に難しいでしょう。けれども、我々が準備してきたことを最大限に活用したいと考えています」と言う(註:ウィーンでの大会は3月19日付でキャンセルされ、オンライン開催となった)。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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