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遺伝子編集の新機軸として脚光を浴びだしたRNA編集

RNA編集はCRISPRに代わる遺伝子編集技術として、可逆的で融通が利く治療法をもたらしてくれそうだ。

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ILLUSTRATIONS BY JOANNA GĘBAL

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200522

原文:Nature (2020-02-06) | doi: 10.1038/d41586-020-00272-5 | Step aside CRISPR, RNA editing is taking off

Sara Reardon

Thorsten Stafforstは最悪のタイミングで大きなチャンスと出会った。チュービンゲン大学(ドイツ)の彼のチームは、遺伝子操作したRNA鎖に酵素を連結させることで、細胞内のメッセンジャーRNA(mRNA)分子の塩基配列を変更できることを見つけたのだ。つまり彼らは、タンパク質合成の途中でゲノムの指令を実質的に書き換えることができたわけである。2012年のことだった。

この処理過程は理論上さまざまな疾患の治療に役立つ可能性があり、対象となるのは、遺伝的要因による疾患に加えて、作られるタンパク質の量や型の変更が治療に役立ちそうな疾患である。しかし、Stafforstはこの知見の発表に際してかなり苦労した。もはや興味を持たれなかったという単純な理由であった。その数カ月前、CRISPR–Cas9というDNA編集ツールでゲノムを永久的に変更できるという発見が報告されたのだ。これ以降、CRISPRは研究室の必需品となり、この技術を使って医薬品や治療法を開発しようとする企業が続々と現れた。Stafforstによれば、関心は全てCRISPRに引き寄せられ、彼の論文1に対する人々の反応は冷淡だったという。彼らはこう尋ねてきた。「DNA編集という技術があるのにRNA編集がなぜ必要なんだい?」。

ところが、CRISPRによるDNA編集は、少なくともヒトの治療手段としては当初考えられていたよりも難度が高いことが分かってきた。CRISPRによる遺伝子編集技術で使う酵素の1つのCas9が、免疫応答を引き起こしたり、ゲノムに予想外の永久的な変化を生じさせたりする可能性があることが明らかになってきたのだ。それに対してRNA編集は、タンパク質の変異を排除したりタンパク質合成を停止させたり、あるいはタンパク質が特定の器官や組織で機能する過程を変更したりするといった修正を、一時的に実行できると考えられる。細胞は未使用のRNA分子をすぐに分解してしまうので、治療でエラーが入り込んでもやがて分解・除去され、患者の体内に永久に残ることはない。

RNA編集への期待と興奮は、最近になってようやく高まってきた。抄録・引用文献データベースの「Scopus」によると、2019年に発表されたこの話題に関する論文は400本を超える。一握りのスタートアップ企業が現在、RNA編集システムを使って、筋ジストロフィーなどの遺伝疾患から急性疼痛など一過性の疾患まで、あらゆる疾患の治療法候補の開発に取り掛かっている。また、RNAを使う医薬は送達や免疫寛容に課題が多く、市場に出るのが難しいが、規制当局による過去数年の承認の中には、RNA編集を使った治療法への道を開く助けになりそうなものが複数ある。

ハードルはまだいくつか残っている。現在の技術では、ごく少数の限られた方法でしかRNA塩基配列を変更できず、人体で目的どおりに働くようにするのは困難だろう。それでも研究者らは、タンパク質工学などの新技術や、細胞へのRNA送達法の改良が、それらの限界を乗り越える助けになるだろうと考えている。「これまで見えていなかった世界が間違いなく見えてくるのです」とStafforstは話す。

RNAの役割

分子遺伝学における基本理念、いわゆるセントラルドグマの1つは、細胞内の機構によって、遺伝情報が二本鎖DNA鋳型から一本鎖のmRNAへ忠実に転写され、次にそれがタンパク質に翻訳されるというものだ。しかし1980年代にいくつかの研究チームが、一部のmRNA転写産物に、元のDNAにはない変更された塩基や余分な塩基が含まれていることに気付いた。これらの知見は議論を呼び、やがて、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)と呼ばれる酵素ファミリーの存在が明らかになった。これらの酵素はRNAに結合し、アデノシン(アデニン塩基に糖が付いたもの)というよく知られるリボヌクレオシドを、イノシンという別のリボヌクレオシドに変換して塩基配列を変化させる。イノシンはRNAの成分として一般的ではないが、細胞のタンパク質翻訳機構によって、グアノシン(グアニン塩基に糖が付いたもの)として読み取られる。他にもいくつかのRNA編集酵素が、同じ頃に明らかになった。

研究者らは過去30年にわたって、RNA編集機構がいったい何をやっているのかを解明しようと奮闘してきた。RNA編集酵素は二本鎖RNAにしか作用しない。二本鎖RNAは時には細胞内で調節エレメントとして存在し、あるいはウイルス由来のものとして存在することもある。ADARタンパク質はウイルスに対する防御として進化したと考える研究者もいるが、二本鎖RNAを持つウイルスの多くはADARに影響を受けない。RNA編集機構は調節機能を果たしている可能性もあるが、多くの成体組織はRNA編集をするのに必要な量のADARを産生していない。

ユタ大学(米国ソルトレークシティー)の生化学者Brenda Bassは、カエル胚でADARを初めて見つけた研究者の1人だ2。ADARが編集を行う分子の大多数はタンパク質非コードRNAなのだが、彼女によれば、そのような変更にどういった特異的な役割があるのかまだ分かっていないという。RNA編集は、免疫の攻撃から二本鎖RNAを守る働きをしているのかもしれない。Bassの推測では、ADARは二本鎖転写産物を編集し、体にそれらを放置するよう伝える方法としてイノシンを添加するのではないかという。ADARは胚発生にも関与しているようだ。ADAR遺伝子群を欠損したマウスは、出生前に死んでしまうか、もしくは生まれても長生きしないのである。ADARはさらに、成体器官の特定の組織で何らかの機能を果たしているらしい。その1つが頭足類の神経系だ。

2000年代早期に海洋生物学者Joshua RosenthalがRNA編集に興味を引かれたのは、ADARのこの働きのせいだった。高度の知能を持つイカやタコなどの頭足類は、RNA編集機構を使って、神経細胞の発生やシグナル伝達に関与する遺伝子を広範囲に調整しているらしいのだ。このようにRNA編集を利用している動物は他に知られていない。Rosenthalはこれらの観察結果に触発され、この仕組みを治療に応用して、機能異常の遺伝子に由来する遺伝情報を修正できるのではないかと考えた。2013年、プエルトリコ大学(サンフアン)のRosenthalのグループは、ADAR酵素を再設計し、これらのADARに、あるmRNA内の特異的な箇所に結合するガイドRNAを付加した。これにより、標的mRNAを二本鎖にした。彼らは、この手法によりカエル胚で転写産物を編集することができ、培養ヒト細胞でもそれが編集できた3

現在はウッズホール海洋生物学研究所(米国マサチューセッツ州)にいるRosenthalは、Stafforstと同様、自分の発表した論文がほとんど無視されるという経験をした。そして、かつて同じ運命がリボザイム(Ribozyme)という企業の研究者らにも降りかかったことを、Rosenthalは知った。リボザイム社のチームは1995年に、変異したRNA塩基配列に相補的な塩基配列を細胞内に導入し、できた二本鎖分子をADARで編集して変異を修正する「治療目的の編集」を提案し、カエル胚で確かめていたのだ4

しかし、ここ数年の間にもろもろの要因が重なったことで、RosenthalやStafforstの研究成果が表舞台に出てきた。カリフォルニア大学デービス校(米国)の化学者Peter Bealによれば、二本鎖RNAに結合したADARの分子構造に関する2016年の論文5のおかげで、RNA編集機構の解明が進み、また、ADARの遺伝子操作を改善して送達能や効率を高められるようになったのだという。また2018年には、米国食品医薬品局(FDA)がRNA干渉(RNAi)を使った治療法を初めて承認した。これは、短鎖RNAを細胞に導入し、細胞内にあるmRNAに結合させてその分解を速める手法だ。この承認により、mRNA相互作用が関わる他の治療法への道が開けたのだと、RNAを使ったさまざまな治療法を探求しているProQRセラピューティクス社(ProQR Therapeutics;オランダ・ライデン)のイノベーション最高責任者Gerard Platenburgは話す。「過去に学び、承認の件数も増えたことで、この領域は大きく成長しました」と彼は言う。

RNA編集はCRISPRなどを使うDNA編集の重要な代替手法の1つになると、多くの人々が考えている。CRISPR法の改良が進んでいるものの、DNA編集は目的以外のゲノム部位に不要な変異を引き起こしかねない。これは「オフターゲット作用」と呼ばれ、新たな問題を生み出す可能性がある。

Rosenthalはさらに、RNA編集は遺伝学的要因を持たない疾患の治療にも役立つのではないかと考えている。彼は現在、ADARを使ったナトリウムチャネルNav1.7の遺伝子のmRNA編集を研究しているところだ。Nav1.7は、疼痛シグナルの脳への伝わり方を制御するチャネルである。Nav1.7遺伝子をDNA編集で永久的に変化させた場合、痛みを感じる能力が失われたり、このタンパク質の神経系での他の必要な機能を損なったりしてしまう恐れがある。しかし、特定の組織でRNA編集を限られた回数だけ行うことでNav1.7の働きを弱めれば、従来の鎮痛薬のような依存性や常習性のリスクを伴わずに痛みの緩和を助けられるかもしれない。

同様に、RNA編集によって、健康上の利点をもたらす遺伝的バリアント(集団内に一定頻度で存在する変異)を模倣できる可能性もある。例えば、血中コレステロール値を調節するPCSK9という遺伝子に特定の変異がある人々は、コレステロール値が低くなる傾向がある。PCSK9のmRNAを変更することで、タンパク質の他の機能を永久的に損なうことなく、この特定の変異と同様の恩恵が得られるかもしれない。ドイツがん研究センター(ハイデルベルク)の免疫学者Nina Papavasiliouによれば、RNA編集は腫瘍との闘いにも使えるのではないかという。がんの中には、細胞の死や増殖に関与する経路など重要な細胞シグナル伝達経路を乗っ取るものがある。もしRNA編集酵素を使って、重要なシグナル伝達分子を一時的に機能しないようにできれば、「腫瘍の死を見られるかもしれません」とPapavasiliouは言う。その時点で治療を止めれば、シグナル伝達経路の正常な機能をまた回復できるだろう。

治療法としてのRNA編集は、CRISPRによる編集手法よりも危険な免疫応答を引き起こす可能性が低いと考えられる。DNA編集酵素のCas9は細菌由来だが、RNA編集酵素のADARはヒトのタンパク質であり、免疫系からの攻撃を引き起こすことはない。「実は、RNAを標的とするのに大掛かりな仕組みは必要ないのです」と、カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の生物工学者Prashant Maliは話す。

Maliのチームは2019年に報告した研究6で、筋ジストロフィーの原因となる遺伝的変異を持って生まれたマウスに、ガイドRNAを注入した。このガイドRNAは、欠損したジストロフィンというタンパク質の産生を引き起こすよう設計されたものだ。このシステムでは、ジストロフィンをコードするRNAを少量だけ編集したが、それでも、このタンパク質の量はマウス筋組織内の正常量の約5%まで回復した。これは、治療効果が得られると分かっている量だ。

血友病のいくつかの型など、タンパク質の欠損もしくは機能不全で起こる他の疾患では、「RNA編集の効果はゼロから何らかの変化を生じるものまで大きな幅がある」とStafforstは言い、体の全ての細胞でRNAを編集する必要はないのではないかと話す。RNA編集は、新しい遺伝子を導入する方式の遺伝子治療よりも成績が良いかもしれない。Maliや他の研究者によれば、細胞内にあるADARを細胞自身のmRNAに働くように仕向けることで、外部から改変遺伝子を導入する場合よりも自然な応答が得られるのではないかという。

しかしRNA編集技術は、たとえ研究室での利用だけを見ても、完成には程遠い段階だ。「まだ時期尚早です。疑問点がたくさんあるのです」とBassは言う。ADARはCRISPRに比べて効率があまり良くないので、遺伝子改変の動植物を作り出すにはあまり有用ではないかもしれない。「RNA編集は研究ツールとしてかなりの制限があります」と、スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の遺伝学者Jin Billy Liは言う。

もう1つの大きな不都合は、ADARがRNAに作り出せる変化の種類が少ないことだ。CRISPR系は、指定した箇所でDNAを切断して塩基配列を除去したり、新しい塩基配列を挿入したりするハサミとして働く。一方、ADARの働きは、RNA分子の「主鎖」を壊さずに塩基を化学的に変化させるもので、上書き機能に近い。

このプロセスは、意図せぬ変異を生じる可能性は低いが、特異的な変化を作るように酵素を制限する。例えばADARの場合はアデノシンをイノシンに、APOBECと呼ばれる酵素群はシチジンからウリジン(塩基はシトシンからウラシル)へといった具合である(「RNAの修正」を参照)。他の変更の可能性も少数ながら存在する。例えば、ブドウの木はシチジンをウリジンに変えることができ、一部の腫瘍はグアノシンをアデノシンに変えることができる。「生物多様性から、これらの問題に対する答えがたくさん得られつつあります。イカのような生物からも多くのことを学べると私は思っています」とRosenthalは話す。ただし彼によれば、この領域は研究が不十分であり、編集機構を駆動するプロセスは解明されていないのだという。また、例えば植物の酵素がヒト細胞で働けるかどうかもまだ分かっていない。

RNAの修正
(左)いくつかのRNA 編集酵素は、タンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)などの二本鎖RNA に作用できる。これらの酵素は単一塩基を極めて特異的に変換することができ、例えばADAR という酵素はアデノシンをイノシン分子に変換する。するとタンパク質合成装置は、このイノシンをグアノシンとして読み取る。
(右)APOBEC1 という酵素は塩基のシトシンをウラシルに変更できる。研究者はこの酵素を使って、合成されるタンパク質のアミノ酸配列を変更したり、タンパク質合成を途中で停止させるような塩基配列を添加・除去したりすることができる。 | 拡大する

すでに研究者らは、RNA編集の可能性を拡大できそうな新しい酵素を作り出す方法を探しているところだ。「これは、探しているものがまるで何か分からないプロセスです」と、マサチューセッツ工科大学(MIT;米国ケンブリッジ)の生物工学者Omar Abudayyehは話す。Abudayyehと同僚らは、MITのCRISPR研究の先駆者であるFeng Zhangとの共同研究で、ADAR酵素とCas13を連結した7(2018年1月号「4種の塩基置換に対応した『一塩基エディター』」参照)。Cas13はCRISPR関連タンパク質Cas9と似た細菌酵素で、DNAではなくRNAを切断する。Abudayyehらは、ADARがシチジンをウリジンに変換できるようになるまでADARの塩基配列を変更していった。次に彼らは、ヒト細胞でこの新しい系を使って、APOEなどいくつかの遺伝子のmRNAに含まれる塩基を変換した。この遺伝子の自然に発生するバリアントの1つはアルツハイマー病と関連付けられており、これを編集することで遺伝子バリアントを無害な形に変更できるかもしれない。

AbudayyehとMITの共同研究者である生物工学者Jonathan Gootenbergは、ADARタンパク質を改変すると、免疫系がそれを天然のヒトタンパク質として認識しなくなり、このADARタンパク質を含む細胞を攻撃するようになる可能性があると認めている。しかし彼らによれば、こうした編集は小規模であるため、そのリスクは、Cas13を攻撃する免疫系や、細胞内へ編集ツールを送達するウイルスに対する既存の懸念と比べれば大したものではないという。

研究者らは、シュードウリジン化と呼ばれる天然の過程にも期待している。シュードウリジン化は、タンパク質とRNA酵素が1組となって、mRNAのウリジンの構造を化学的に変化させる過程である。ADARによる変化と異なり、シュードウリジン化ではmRNA塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列は変化しない。代わりに、この過程によってRNA分子が安定化し、翻訳機構はタンパク質合成の停止シグナルを無視するようになる。ただし、そうなる理由はまだ完全に明らかになっていない。

こうした分子の信号を赤から青に切り替える能力は強力なものだと考えられる。ロチェスター大学(米国ニューヨーク州)の生化学者Yi-Tao Yuは、数百種類もの遺伝疾患の原因が、mRNAに誤った停止シグナルを生じて体内で正常に機能しない短縮型タンパク質を作り出すようなDNA変異にあると話す。Yuによれば、「この遺伝疾患リストは非常に長く」、嚢胞性線維症や眼の疾患であるハンター症候群、さまざまながん種が含まれるという。

RNA編集はまだ研究早期の段階だが、研究者やバイオテク企業への投資家らは、その広範な可能性に興奮している。「私はRNA編集が時流に乗るずっと前に、この研究領域に入りました」とPapavasiliouは話す。彼女は現在、天然のADARが働く生体内の部位のマッピングを試みているところだ。「この領域は何年も停滞していました。ところが今では関連企業が2週間に1つ立ち上がるほど活発です」。

多数のスタートアップ企業やDNA編集を扱う既存の企業が、RNA編集に進出する意向を明らかにしている。その中には、ZhangとLiuが共同で設立したビーム・セラピューティクス社(Beam Therapeutics;米国マサチューセッツ州)もあり、同社はいくつかの血液疾患を治療するためのCRISPR DNA編集法の開発に取り組んでいる。ロカナ社(Locana;米国サンディエゴに本社)も、CRISPRをベースにしたRNA編集法を探求しており、これによって運動ニューロン疾患やハンチントン病などを治療できるだろうと考えている。

業界にとっての課題は、免疫応答を引き起こしたり細胞に分解されたりせずに、ガイドRNAを細胞内に持ち込む最良の方法を見つけ出すことだ。Bealによれば、これには、遺伝子操作したRNAに、安定化する化学的修飾を戦略的に施すか、もしくは、それらのRNAをナノ粒子またはウイルスに埋め込んで細胞内にこっそり運び込めるようにする必要があるだろうという。

ADARはヒト細胞内に既に存在しているが、人体の大半の組織ではADARの生産量は少量であり、いずれの治療法を採るにしても、ADARや他の酵素を添加して細胞の編集能力を上げる必要があるだろう。RNA編集に必要な全ての装置をコードする遺伝子群をウイルスに詰め込むやり方は、効率的ではないかもしれない。研究者の多くは、その必要がないことを願っている。

DNAから転写された標的mRNA(ピンク色)を正確に変化させることで、特定のタンパク質の産生に影響を与えることができる。 | 拡大する

JUAN GAERTNER/SPL/Getty

Platenburgは、網膜疾患に関わるmRNA塩基の修正を助けるため、RNAを添加して天然に存在するADARに頼ることを考えている。「自然が与えてくれたこの系を活用するのです」と彼は話す。

Stafforstなどの研究者は、細胞内のADARを編集部位に引き寄せるような化学的修飾を、遺伝子操作でガイドRNAに施そうとしている。しかし、天然ADARを特異的mRNAの編集に動員すると、それらのADARを通常の任務から引き離すことになり、他の健康問題を引き起こすのではないかと心配する研究者もいる。また、体内の一部で遺伝子発現を変化させた場合、予期せぬ仕方で他の部分に影響を及ぼす可能性もある。例えばMaliの筋ジストロフィー研究では、マウスが未知の理由で肝臓に問題を生じた。「これはまだ開発途上のツールなのです」と彼は話す。

「ADARは、標的を絞り込んで塩基を修飾できるように進化しました」と、バイオテクノロジー企業のコロバイオ(Korro Bio;米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)をRosenthalらと共同設立した同社の最高責任者Nessan Berminghamは話す。彼は、RNA編集技術の将来については楽観視しているが、生物学を置き去りにして先走ってしまわないように用心している。「これらの手法を成熟させようとすると、やるべき仕事はたくさんあります」と彼は言う。「ただ、全てを検討の対象にするのではなく、ある程度の制限を設ける必要があります」。

(翻訳:船田晶子)

Sara Reardonは、米国モンタナ州ボーズマン在住のフリーランス・ジャーナリスト。

参考文献

  1. Stafforst, T. & Schneider, M. F. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 51, 11166–11169 (2012).
  2. Bass, B. L. & Weintraub, H. Cell 55, 1089–1098 (1988).
  3. Montiel-Gonzalez, M. F., Vallecillo-Viejo, I., Yudowski, G. A. & Rosenthal, J. J. C. Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 18285–18290 (2013).
  4. Woolf, T. M., Chase, J. M. & Stinchcomb, D. T. Proc. Natl Acad. Sci. USA 92, 8298–8302 (1995).
  5. Matthews, M. M. et al. Nature Struct. Mol. Biol. 23, 426–433 (2016).
  6. Katrekar, D. et al. Nature Methods 16, 239–242 (2019).
  7. Abudayyeh, O. O. et al. Science 365, 382–386 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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