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各国の診断検査の実施状況と、パンデミックと闘うために開発中の検査法

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200510

原文:Nature (2020-03-23) | doi: 10.1038/d41586-020-00827-6 | Coronavirus tests: researchers chase new diagnostics to fight the pandemic

Nidhi Subbaraman

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して現在行われている診断検査とはどのようなもので、国によって検査件数に大きな差があるのはなぜかをNature が調べた。また、開発中の新たな検査法についても報告する。

韓国の首都ソウルのあるビルでは46人のコロナウイルス感染患者が確認された。3月10日、同じビルで働く人々が検査を受けるために 並んでいる。 | 拡大する

JUNG YEON-JE/AFP via Getty Images

現在進行中のコロナウイルス・パンデミック(世界的大流行)の中で、COVID-19の診断検査は感染の拡大を追跡するために不可欠なツールとして重要な位置を占めている。

世界保健機関(WHO)は、パンデミックへの対応に当たっては新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査を最優先事項とするよう各国の保健当局に繰り返し求めてきたが、実際の対応には国によって差が生じている。韓国やシンガポールのような一部の国では、法令と事前の準備態勢が整っていたおかげで何十万件もの検査を速やかに実施することができたが、その一方で検査件数を増やすのに苦慮している国もある。

米国では病院での検査が滞っており、製造業者が数週間も出遅れた。押し寄せる需要を満たすために、大学の研究室では独自の診断検査法の開発が進められている。

そこでNature は、現在行われているCOVID-19の診断検査(一部の国ではなぜ検査件数を増やすことができたのか、あるいはできなかったのか)、およびパンデミックと闘うために研究者たちが開発している新しい検査(遺伝子編集ツールCRISPRを使ったものも含む)について調べた。

現在行われている検査

現在行われているCOVID-19の検査のほとんどは、鼻腔や喉から綿棒で検体を採取し、分子生物学でよく使われる逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)という技術を用いてウイルスの遺伝物質を増幅することで行われている。

プライマーと呼ばれる短い相補的な塩基配列を使うことで、ウイルスが持っている特定の遺伝子配列を増幅することができる。しかし、PCRではウイルスが体内に存在している間だけしか検出できないので、感染の既往については分からない。また、使う試薬が汚染されていると偽陽性の結果が得られる場合もあることが知られている。

世界中の検査室では、SARS-CoV-2の遺伝子配列の異なる領域を標的とする異なるプライマーを使用してPCR検査をカスタマイズしている。

すみやかに検査に着手した国では

一部の国では非常に多くの人々を検査できている(「国によって差がある検査件数」参照)。韓国では1月下旬に最初の症例が発生した後、迅速かつ効果的に対応し、速やかに検査を実施するとともに、陽性と判定された患者と濃厚接触のあった人を監視するようにした。独立系の報道機関ProPublicaが報じているところによれば、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)の集団発生を受けて制定された法令によりWHOが推奨する検査キットの迅速な承認が可能となり、4つの企業が検査キットを製造することで1日に1万件の検査が実施可能になった。

国によって差がある検査件数
COVID-19の原因となるSARS-CoV-2の検査件数の伸びが遅い国がある。人口100万人当たりの検査件数の推定値では、米国は他国に大きく後れを取っている。
数字は検査件数もしくは検査を受けた人々の数を示している(3月20日時点)。詳細はgo.nature.com/3bo9pb5を参照。 | 拡大する

Source: Our World in Data

コロンビア大学(米国ニューヨーク)のウイルス学者Angela Rasmussenによると、そのおかげで韓国の保健当局は軽症もしくは無症状の患者を特定してウイルスの拡散を阻止することに成功した。「韓国ではそれほど大規模な社会的距離確保施策(social distancing;人と人の接触を避ける措置)を取らずに済みました」と彼女は言う。

シンガポール保健省感染症課の課長Vernon Leeは、シンガポールでは中国でCOVID-19が発生したのとほぼ同時に検査法を開発し、早期から患者の特定に努めていたと話す。病院の検査室は、国立研究所と共同で一連の検査結果を検証することを条件に、認可された別のPCR検査を使用することを早い段階で許可された。また、検査の必要性が最も高い症例、例えば肺炎を起こした患者やその他の理由でリスクが高い患者を優先的に検査した。

2003年にSARS-CoV-1と呼ばれる別のコロナウイルスの集団発生が起きたことを受けて、処理能力の高い検査室や訓練を受けたスタッフ、試薬や検査装置といった、カギとなるロジスティクスが整備された。「重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生以来、シンガポールでは感染症対策システム全体の準備と強化を行ってきました。COVID-19が発生してから始めたことではないのです」とLeeは言う。

後れを取っている国では

医療専門家はパンデミックに対する米国の対応の遅れを厳しく批判している。特に、検査の遅れと件数の少なさが、知らず知らずのうちにウイルスが拡散することを許し、結果的に、それを封じ込めるために厳しい社会的距離確保施策を取らざるを得なくなったのだと専門家は指摘する。

米国の保健当局もその不手際を認めている。3月12日に開かれた連邦議会公聴会で国立アレルギー・感染症研究所(米国メリーランド州ベセスダ;NIAID)の所長Anthony Fauciは、検査能力という点で米国は「不合格」だと述べ、現在必要なペースで検査を提供できる状況にはないと説明した。

生物兵器に対する防御策について歴代の米国大統領に助言してきたKenneth Bernardは、パンデミック対応策の調整官や部署をホワイトハウスに設置していたとしたら、各機関の間の連絡を容易にし、検査の実施規模を拡大する計画を立てられたかもしれないと言う。しかし、その役割に適任の人物は2018年5月にドナルド・トランプ大統領の国家安全保障会議を去っていた。「この件で大きな問題となったのは検査キットの数でした。(米国疾病管理予防センター(CDC)で)標準的な検査法を開発するのと、何百万もの検査キットを用意するのとは全く別の話ですから」とBernardは言う。

新しい検査キットに対する厳格な規制がさらなるハードルだった。当初、米国で承認されていた唯一の検査キットはCDCが開発したものだったが、それには欠陥があることが判明した。加えて、使用が許可されていたのは州立保健所だけだった。米国食品医薬品局(FDA)は2月末まで規制を緩めることはなく、3月中旬に至るまで民間の検査センターが検査を行うことを承認しなかった。検体を検査室に送らなくても結果が得られる迅速検査キットについても、米国の規制当局がそれを承認したのは3月21日であった。3月中には臨床現場で利用できるようになる予定だ。

連邦政府の対応が遅れていたため、ワシントン大学(米国シアトル)のウイルス学研究室が米国で最初の大規模な検査センターとなった。研究者たちは自前の試薬や装置に合わせてWHOの推奨するプロトコルを改変して検査を行った。現在では他にも数十の研究室や研究コンソーシアムがこれに加わっている。

「政権は当初、(検査への)アクセスを大幅に制限する決定をしました」とFDAの元首席副長官Joshua Sharfsteinは言う。「もし仮に時をさかのぼって、1月中旬の時点でFDAに100万件の検査を早期に実施する必要性を強く訴えることができたとしたら、彼らは別の戦略を選択していたでしょう」。

抗体検査

大きな目標は抗体検査の開発だ。この検査では、ウイルスと闘うために産生された抗体を検出することでウイルス感染の既往を知ることができる。抗体検査を実施すれば、地域社会におけるウイルスの拡散の程度を明らかにし、公衆衛生上有用な情報を得ることができる。

「今のところ、私たちが見ているのは氷山の一角にすぎないことは明らかです。つまり、入院や集中治療を必要とするほどの重症患者しか見えていないのです」と、チュレーン大学医学部(米国ルイジアナ州ニューオーリンズ)のウイルス学者Robert Garryは言う。「その背後に膨大な数の症状のない患者や軽症患者が隠れていることが懸念されます」。

Garryの研究グループを含むいくつかのグループが、抗体検査の開発に取り組んでいる。マウント・サイナイ医科大学アイカーン医学系大学院(米国ニューヨーク)の研究グループも、3月18日にmedRxivプレプリントサーバに投稿した査読前の論文で別の抗体検査について報告している。「検査の実用化に何か難しい障害があるとは思っていません。あとはいくつか微調整をするだけです」とGarryは言う。

シンガポールの研究グループが抗体検査を使って濃厚接触の追跡を実施したが、その時点では、抗体検査は臨床使用のための詳細な検証が行われていなかった。デューク・シンガポール国立大学医科大学院のウイルス学者Danielle Andersonは、2月に行われた記者会見で「濃厚接触の追跡に抗体検査を利用したのは世界で初めてのことだと思います」と述べている。

開発中のその他の検査

ウイルス検査にはまだまだ改良の余地がある。CRISPR界の大物2人がそれぞれ率いる研究グループもまた、この遺伝子編集技術を応用して検査の改良に取り組んでいる。

ワシントン大学医学系大学院(米国ミズーリ州セントルイス)ではウイルス学者Keith Jeromeの研究グループが、CRISPRのパイオニアであるブロード研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のFeng Zhangと共同開発したSHERLOCK検査の検証と最適化を行っている。Zhangによると、これまでに世界中の十数カ所の検査室に検査キットを送っていて、その数は約1600セットになるという。

また、CRISPRのパイオニアであるカリフォルニア大学バークレー校(米国)のJennifer Doudnaが共同設立者として名を連ねるバイオテクノロジー企業マンモスバイオサイエンス(Mammoth Biosciences;米国カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)は、CRISPRを使ったDETECTRと呼ばれるコロナウイルス検査の検証に取り組んでいる。

この技術は、特定の遺伝子配列を認識して切断するCRISPR複合体の能力を利用している。その過程で、反応系に加えられた「レポーター」分子も同時に切断され、ウイルスの遺伝物質の存在を比較的迅速に検出することができる。

「新しい感染症の集団発生が起こるたびに、私たちはいつも後手に回ってしまいます。その病原体を迅速に検出するための診断法がないためです」と、マンモスバイオサイエンス社と共同研究を行っているカリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の感染症内科医Charles Chiuは言う。「CRISPR反応は驚くほど特異的で、検査に5~10分しかかからないのが大きな利点です」。

チュレーン大学のGarryはこのような進歩に期待を寄せている。「これは強力な技術です。ジカウイルスや他のいくつかのウイルスで実際に使えることを確認しました」と彼は言う。「ウイルスの影響を緩和する方法を誰かが思いついたならば、それを実現させようではありませんか」。

(翻訳:藤山与一)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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