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学術界サバイバル術入門 — 自分に合った研究の場を見つける①

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200330

研究者としてキャリアを高めるにはどうしたら良いでしょう? 今回は、研究の場を新天地に求めることの利点や、研究を続けるのに最良の場を探す方法についてお話しします。

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elenabs/iStock / Getty Images Plus/Getty

学術界サバイバル術入門
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研究を始めた当初は、さらなるキャリアアップを目指して、自分に合った研究の場を探し続けることになるでしょう。こうした努力をするに当たって、覚えておくべき重要な点が2つあります。第一に、世界に目を向ければ多くの選択肢があるということ、第二に、あなたの選択は、あなたの経験を形づくり、どんな研究者になるかという考えに影響を与え得るということです。ですから、キャリア開発を進める上で最良の研究の場を確実に選ぶことが肝心です。

新しい研究の場を見つける

最初に、研究の場を変えるとよいと思う理由についてお話ししましょう。大学院生からポスドク研究者、そして教授へとキャリアを積んでいく際に、同じ大学や研究所に所属し続ける方が、簡単だと感じるかもしれません。そして、それは確かにそうなのです。また、慣れ親しんだ環境に居続けるにつれて、ますます居心地がいいと感じるようになる可能性も高いのです。ですが、研究者としてのあなたの発展という点において、これはベストな選択なのでしょうか?

その疑問に答えるために、居心地のよい場所を離れて、別の場所で研究生活を続けることの利点を考えてみましょう。まず、新しい場所では、新しい研究分野ならびに新しい研究戦略に出合うことができます。こうした新しい分野や技術に慣れるには時間がかかる可能性があるわけですが、この過程でその分野に関する理解を理論的かつ技術的に広げることができるでしょう。自身の研究で扱うべき新たな疑問に出合い、その疑問を解決するための新しい方法を発見するでしょう。このように幅が広がると、科学界の変化によりうまく対処できるようになります。これは確実に、あなたのキャリア開発にとって重要です。

第二に、新しい大学に移ることで、新しい人々に出会うことができます。自分の分野で評判を確立することはあなたのキャリアに不可欠です。ですから、より多くの人々とネットワークを作り、生産的でプロフェッショナルな関係を築くことができれば、さらに評判を高める助けになるでしょう。

この考え方からいくと、研究の場を海外に求めることは有益です。国外に出たことは、私が博士課程修了後に行った決断の中で最良のものの1つでした。私は米国を出て、シンガポールへ、その後日本へと移って研究を行いました。海外で働けば、新しい人々と出会うだけでなく、新しい文化にも触れます。これは、単に研究者としての成長だけでなく、人間形成にも役立ちます。あなたは本当の意味で地球市民の1人になるのです。文化が異なると問題へのアプローチも異なることが多いものです。そして、重要な研究上の疑問に答えるのを助ける異なるアプローチを多く持っていれば、より新しく影響力の強い結果につながる可能性があります。さらに、前述のネットワークと評判に関しては、海外に出ることで世界的なネットワークを作りあげ、国際的評価を得ることにつながります。それは1つの成果です。

さて、別の大学や研究所に研究職を見つけることの利点を理解いただけたところで、これを首尾よく効率的に行う戦略を考えていきましょう。実はとても簡単なのですよ。

最新情報を常に知っておく

研究職に応募する前に、その分野のトレンドに精通しておく必要があります。学術的なトレンドと地域的トレンドの2つを押さえておきましょう。

学術的なトレンドを知るためには、論文を読む習慣をつけ、国際的な学会に頻繁に出席する必要があります。そして学術誌を読む際には、あなたの研究分野で何度も発表されているトピックを探しましょう。そうすれば、現在のトレンドと思われるトピックをすぐに知ることができます。また、原著論文に加えて、関連する論説の内容も見て、重要なトレンドを把握しておきましょう。例えば、ほとんどの総説論文は、編集者がその分野で重要と判断したトピックについて専門家に執筆を依頼し、出版されます。特集号は、そういう傾向がさらに強いのです! つまり、編集者がそのトピックについて特集を組むに値するものだと考えたことを意味します。そして、最後に、その分野のトレンドになっているトピックに関する論説やNews&Views(Nature の解説記事)などの短い記事を読んでおきましょう。これらを合わせることで、自分の分野の重要なトレンドについて明確なイメージを持つことができるようになります。

国際的な学会では、どんなトピックに人気が集まっているかに注意を払いましょう。トピックAのポスターをたくさん見かけるのに対して、トピックBのポスターがほんのわずかなら、その分野では現在トピックAの方が重要視されていると考えられます。また、どのポスターが最も多くの関心を引き付けているかにも注目しましょう。なぜ関心が集まっているのか? どんな点が興味深いのか? それはトピックなのか、技術なのか、あるいはその両方なのか?

加えて、スライド発表も考慮しましょう。どの発表に最も多くの聴衆が集まっているのか? 発表の後に多くの質疑応答が行われているように思われるのはどれか? 聴衆の半分が発表の途中で会議室を退出してしまい、発表後に質問が全くでないときには、このトピックはもはや関心を持たれていないということです。学術誌の編集者が学会によく出席するのは、まさにこういう理由からです。論文が学術誌に発表される前に、現在のトレンドやこれから生まれつつあるトレンドを見極めるためなのです!

次は、重要と思われるトピックが、あなたの専門知識や取り組んでいることにどのように関係し得るかを考えましょう。あなたの研究のトピックはそれらに匹敵しますか? あなたの研究のトピックもトレンドになりつつあると思いますか? もしそうでなければ、それはなぜか? あなたが現在行っている研究プロジェクトをトレンドに合うように調整する方法はありますか? これらの疑問に対する答えは、あなたの研究を発表する助けになるだけでなく(学術誌の編集者はトレンディーなトピックを出版したがるものです)、一流の研究者たちにあなたを売り込む助けにもなるでしょう。彼らの研究チームや学部にとってあなたが貴重な存在になることを示せるからです。

学術分野の最新のトレンドを常に把握しておくことのもう1つの重要な側面は、将来共同研究をしたくなる可能性のある研究者を特定する助けになる、ということです。影響力の大きい論文の著者にメールを送り、考え抜いた疑問や提案をもって彼らの研究について議論することをお勧めします。学会では、指導的立場にいる研究者たちに自己紹介し、相手と自分の研究プログラムの相乗効果について話し合いましょう。ネットワーク作りは、将来の職の適切な雇い主となり得る人物を見つけるための最良の方法の1つです。さらに、彼らの間であなたの評判を確立することで、将来、彼らの研究チームや学部で働きたいと志願した場合に、あなたのチャンスは広がることでしょう。

地域的トレンド

学術分野のトレンドに加えて、地域的なトレンドも特定しておくべきです。とはいえ、これは簡単ではありません。お勧めする方法の1つは、一流の出版社が発表する地域的展望をフォローすることです。Nature では、Nature Index(例えば、2019年3月21日号の日本に関するsupplement1)や、Nature Careers(例えば、2018年10月18日号の西オーストラリアに関する地域スポットライト2)の両方で、地域的トレンドに関する記事を多く掲載しています。記事では、それらの地域で注力されている研究トピックや研究資金などの問題だけでなく、研究環境も話題にしています。あなたの意思決定において、そのどちらもが重要になるでしょう。

研究トピックと研究資金に関しては、その地域の研究所や大学が世界的なリーダーであると確信する必要があります。世界的なリーダーであるのなら、それらのトピックについて国際的な研究を行うための専門的知識・技術と施設の両方を備えている可能性が高いはずです。研究者として技能を磨く間、そうした環境にこそ身を置くべきなのです。また、これらの研究所はおそらく、国際的な共同研究を確立している可能性も高いです。その共同研究に参加できれば、あなたの国際的な評判はより高まることでしょう。それから、将来その研究を確実に継続していくためには、強固な研究資金源が重要です。彼らはそのトピックに関する研究をこの先も続けられるだけの研究資金を持っているでしょうか? もしそうでなければ、そこに移っても、希望の研究を行うことが難しくなるかもしれません。

研究環境も、考慮するべき重要な事柄です。言葉の壁はありませんか? その施設ではすでに多くの外国人研究者が働いていますか? そうだとすれば、研究所はきっとあなたに強力なサポートをしてくれるでしょう。例えば、私が2008年に理化学研究所に加わったときには、外国人研究者のための無料の日本語コースがありました。私たち外国人が研究室以外の場所でより効果的にコミュニケーションをとる方法を学ぶためのもので、非常に役立ちました! それに、あなたが住みたい場所かどうかを確認することも大切です。もし大都会の生活に馴染んでいる人が小さな都市に移ったとしたら、研究室の外の生活が退屈に感じられるかもしれません。逆に、混雑していて物価が高い大都市が嫌いなら、研究のためとはいえ本当に大都市で動きたいですか? 研究室を出るときはいつも、「あの決断は失敗だった」と感じるかもしれません。

さらに、家族のことも考えなければなりません。引っ越し後に、あなたの配偶者は働くのでしょうか? 仕事を持っている配偶者が突然、専業の主婦/主夫になると、欲求不満を感じるかもしれません。仕事を見つけることができたとしても、彼らも満足するでしょうか? 子どもがいるなら、新しい地域での教育制度はどのようなものでしょうか? 子どもたちは地元の学校に通うことができるでしょうか? あるいは、インターナショナルスクールに通わせなければならないでしょうか? 地域によっては、インターナショナルスクールの学費はかなり高い場合があり、家計に多大な負担をかけることになるかもしれません。

運のいいことに、Nature IndexやNature Careersなどに書かれている記事の多くで、これらの問題が扱われていますから、あなたが十分な情報を得た上で最良の決断を下す助けになってくれます。

最後に私の体験談を1つ。シンガポールに移ると決めた理由の1つは、2003年にNature に発表されたPaul Smaglikら3による興味深い論文でした。より確かな情報を知ることで、自分の選択にもっと強い自信を持てるようになるでしょう。

次回は5月号掲載予定です。

次回は、研究の場を見つけるためにデータベースを活用する方法や、応募先にインパクトを与える履歴書(CV)や添え状を書くのに役立つ方法をお話しします。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。


Nature Research Academies は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金作成、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。

参考文献

  1. natureindex.com/supplements/nature-index-2019-japan/index
  2. nature.com/collections/xgkfzyxnht
  3. Smaglik, P. Singapore: Filling Biopolis . Nature 425, 746–747 (2003).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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