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立体物を一気に作る待望の3Dプリンター

2019年1月31日、カリフォルニア大学バークレー校とローレンス・リバモア国立研究所(いずれも米国カリフォルニア州)のBrett E. Kellyらは、新しい3Dプリンターを開発し、Scienceで発表した(B. E. Kelly et al. Science http://doi.org/cz8v; 2019)。このプリンターはチームのメンバーたちから「レプリケーター」と呼ばれている。この愛称は、SFテレビドラマ『スタートレック』に登場する複製装置(ほぼ全ての無生物の複製を作ることができる)に敬意を表して名付けられた。

「レプリケーター」は、立体を一層ずつ作り上げていく典型的な積層造形装置とは異なり、立体全体を一気に作製できる。この3Dプリンターによって、SFの世界が一歩現実に近づいたといえる。「小さな透明部品を素早く試作できるとは、エキサイティングな進歩ですね」とノースカロライナ大学チャペルヒル校(米国)の化学者Joseph DeSimoneは言う。

レプリケーター開発チームの一員であるカリフォルニア大学バークレー校の電気工学者Hayden Taylorは、この装置はコンピューター断層撮影法(CT)を逆にしたようなものだと説明する。CT装置では、X線管が患者の周りを回転して体内の画像を数多く撮影し、それらの画像がコンピューターで立体像に再構成される。

開発チームは、この過程を逆に実施すれば3D印刷できることに気付いた。つまり、立体物のコンピューターモデルがあれば、その物体がさまざまな角度からどう見えるかを計算でき、計算で得た2D像を普通のスライドプロジェクターに送ることができる。次に、プロジェクターはそれらの画像を、高粘性液体合成樹脂で満たされた円筒状容器内に投影する。液体樹脂にはアクリレートが用いられ、光を吸収する光重合開始剤が添加されている。

プロジェクターはそれぞれの角度の画像を360度全てカバーするよう順次投影していき、それに連動して容器が対応する角度だけ回転する。「容器を回転させながら、容器内の高粘性液体の各点に到達する光の量を独立して制御できます」とTaylorは言う。「到達した光量が一定以上になると、その箇所の液体が固体に変わるのです」。

液体樹脂中の光重合開始剤が吸収する光の量が特定のしきい値に達すると、アクリレートが重合し始める。つまり、アクリレート分子同士が結合して鎖状につながるため、液体から固体のプラスチックに変化する。

幅2~3 cmの物体を印刷する場合、光照射工程に約2分を要する。照射後、固化しなかった液体を取り除くと、固体の立体物が残る。チームは、この手法でオーギュスト・ロダンの彫刻「考える人」のミニチュア(高さ数cm)を作製した。

今回の作製過程は、従来の3D印刷よりも融通が利くとTaylorは言う。例えば、既存の物体を取り囲むように構造物を印刷することができる。また、通常の3Dプリンターよりも表面が滑らかな構造物を作製できるため、光学部品の製造に役立つと思われる。研究チームは、今回の手法を用いた医療用部品印刷の可能性についても提案している。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190509

原文

Forget everything you know about 3D printing — the ‘replicator’ is here
  • Nature (2019-01-31) | DOI: 10.1038/d41586-018-07798-9
  • Davide Castelvecchi