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幹細胞移植後にHIVが消滅した第2の症例

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190502

原文:Nature (2019-03-05) | doi: 10.1038/d41586-019-00798-3 | Second patient free of HIV after stem-cell therapy

Matthew Warren

幹細胞移植によりHIVが寛解した最初の症例は偶然ではなかったことを示唆する、2人目の症例が報告された。HIV治療を切り開く突破口となる可能性がある。

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National Institutes of Health/Stocktrek Images/GETTY

幹細胞移植を受けたことで、自己の白血球がヒト免疫不全ウイルス(HIV)耐性の白血球に置き換えられたHIV感染者では、HIVが検出されなくなり、寛解したとみられる状態が持続している。この患者は、幹細胞移植によりHIVが除去されたことが報告された、これまでで2人目の症例である。しかし、この2人について「治癒した」と言うのは時期尚早であると、研究者は警告している。

今回の患者は身元が明らかにされていないが、幹細胞移植後に抗レトロウイルス薬の服用を中断することができ、その18カ月後においてもHIVが再び出現する兆候は見られないという。HIV感染者にこのような幹細胞移植技術が初めて使われたのは10年前で、治療を受けた患者の名はTimothy Ray Brownという。「ベルリンの患者」として知られる彼は現在も、HIVが検出されない状態が続いている。

「これまでのところ、今回の患者はBrownに似た反応を示しています。同じ結果が得られることを期待するもっともな理由があります」 と、カーディフ大学(英国)の臨床感染症専門医Andrew Freedmanは言う。彼は今回の研究には関与していない。

今回の患者も、Brownと同様に化学療法に反応しない血液がんを発症したため、骨髄移植が必要であった。そこで自己の血液細胞を破壊して、健康なドナー由来の幹細胞が移植された。

ケンブリッジ大学(英国)の感染症専門医Ravindra Guptaが率いるチームは、移植の際に適合するドナーを単に選ぶのではなく、CCR5遺伝子にHIV感染に耐性になる変異があり、かつその変異遺伝子を2コピー持つドナーを選んだ。CCR5遺伝子は、白血球(体の免疫応答に関与する細胞)の表面に存在する受容体をコードしている。HIVは通常、白血球に侵入するために白血球上の受容体(CD4やCCR5など)を利用しているが、CCR5遺伝子の一部に欠失があると、受容体が適切に機能しなくなり、HIVは白血球に感染できなくなる。欧州系の人の約1%はこの変異を2コピー持ち、HIV感染に耐性を示す。

Guptaのチームは、今回の患者に関する結果をNature 2019年4月11日号244ページで発表した1。移植により患者の白血球はHIV耐性のある白血球とうまく置き換わったとみられ、患者の血液を循環している白血球はCCR5受容体を発現しておらず、研究室でこの細胞に今回の患者由来のHIVを再感染させることはできなかったと、論文の中で述べている。

移植後には、患者の血液からHIVが完全に消滅したことが観察された。移植の16カ月後、この患者はHIVの標準治療である抗レトロウイルス薬の服用を中断した。最新の追跡調査では、服用中断から18カ月たった現在も、ウイルスが再出現する兆候は見られていない。Guptaは、「患者が治癒したかどうかを判断することはまだできません。患者の血液に長い間HIVが検出されていない場合のみ、治癒が実証できます」と言う。しかし、この研究は、10年前のBrownの治療成功が単なる一度限りのものではなかったことを示している。

移植前処置

Guptaは、今回の患者は移植前処置としてBrownほど強力な骨髄破壊処置を受けていないと言う。今回の患者はがん性細胞を標的とする薬剤の投与と同時に化学療法を受ける治療計画であったが、Brownは化学療法薬に加えて、全身に放射線照射を受けていた。

「このことから、幹細胞移植でHIVの治療を成功させるために、極めて重篤な副作用を伴う可能性のある移植前処置を必ずしも必要としないことが示唆されます。放射線は骨髄を破壊するので、非常に健康を損ないます」とGupta。

一方、ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)の臨床研究者Graham Cookeは、この種の治療法はほとんどのHIV感染者には適していないと指摘する。「健康な状態であれば、致死的な合併症を起こし得る骨髄移植を受けるリスクは、毎日薬を飲み続けるリスクよりはるかに大きいのです」とCookeは言う。HIV感染者のほとんどは、毎日の抗レトロウイルス薬によく反応する。

ただし、白血病や他の病気を治療するために幹細胞移植が必要なHIV感染者の場合は、CCR5遺伝子に変異があるドナーを探すことは妥当に思われると、Cookeは付け加える。この場合、治療にリスクは加わらないと考えられる。

Brownの治療を率い、現在は幹細胞会社 Cellex(ドイツ・ドレスデン)の 医療責任者であるGero Hütterは、この種の治療は小規模な患者群にしか使用できないことを認めている。しかし彼は、今回の論文がCCR5を標的とした遺伝子治療への新たな関心を刺激し、このような治療がより大きな患者群に適用されるようになることを期待している。「本当の飛躍的進歩を、私たちは今も待っているのです」と彼は言う。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Gupta, R. et al. Nature 568, 244–248 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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