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学術界サバイバル術入門 — Training 7:論文の構造

Credit: macrovector/iStock/Getty Images Plus/Getty

あなたの研究について、同僚と膝を交えている場面を想像してください。面と向かって会話をしているときは、自分の考えを明確に説明しやすいですし、あなたの同僚も、よく分からない部分があれば簡単に質問できます。ところが、自分の研究を論文で説明するのは、残念なことに、それよりもはるかに難しいのです。読者が論文を読んでいるその場にあなたはいないため、読者があなたの考えを理解しているかどうか確信を持つことができません。ですからあなたは、複雑な研究を最初から最後まで理解してもらうために、できるかぎり論理的かつ慎重に読者を誘導する必要があるのです。(過去の無料公開記事はこちら

まず、常に読者を念頭に置きましょう。誰かがあなたの論文をダウンロードするとき、その人は次の4つの主要な疑問に対し、あなたが答えてくれることを望んでいます。

  1. この研究で成し遂げなければならないものは何か?
  2. あなたは何を行ったのか?
  3. あなたは何を発見したのか?
  4. あなたの研究はどのようにその分野に貢献するのか?

あなたは論文の中で、これらの各質問に必ず答えるようにしてください。運のいいことに、論文の構造は、これらの質問のそれぞれに対して直接答える方式になっています。Introduction(緒言)は最初の質問に、Methods(方法)は2番目に、Results(結果)は3番目に、そして、Discussion(考察)は最後の質問に答えます。これらの各セクションを書く際には、読者の質問に必ず答えるようにしましょう。

Introduction:この研究で成し遂げなければならないものは何か?

このセクションでは、あなたの研究の動機と意義を述べる必要があります。最初のパラグラフでトピックを紹介し、この研究が分野にとって今なぜ重要なのかを説明します。また、あなたが投稿しようとしている学術誌の読者にとって、このパラグラフが適切なものであるかにも気を配ってください。論文の投稿先が、国際的な雑誌なのか地域的な雑誌なのか、あるいは一般誌なのか専門誌なのかによって読者層が変わるので、それを心に留めておきましょう。

次の1~3パラグラフでは、トピックについて現在分かっていることを述べます。この場所であなたが専門知識を有していることを示せば、あなた自身の研究に関する議論を始める前に、読者のあなたに対する信頼を高める助けとなります。各パラグラフの冒頭でトピックに関する重要な主張を述べ、それからこの主張を裏付ける過去に発表された研究について論じましょう。論じる研究は最新かつ、世界中で行われていることを広く反映しているものでなくてはなりません。またそれらの研究に何か制約があれば、それも全て言及する必要があります。過去の研究を分析し終えた後は、取り組む必要のある重要な問題を挙げます。これが、あなたがこの研究を行った動機なのです。

例えば、Nature に掲載された最近の論文1では、「発達過程、恒常性維持過程、そしてがんの転移などの病的過程と細胞の押し出しとの間には重要な結び付きがあるにもかかわらず、その基礎となる機構や上皮固有の構造との関係についてはほとんど調べられていない」と、著者は述べています。これによって、著者が自身の研究で何を達成したいと考えているかが非常に明確に読者に伝わります。

最後のパラグラフでは、あなたの目的について述べ、目的を達成するためにどのように計画を立てたかを示しましょう。通常、このパラグラフは、わずか2つか3つの文章からなる短いものです。例えば、上記の疑問に取り組むための目的は、「この研究で我々はアポトーシスを起こした細胞の押し出しの基礎となる機構を特定するために、押し出しに関連した融合性MDCK細胞における位相的および生化学的な変化を分析した」と表現できるでしょう。

Methods:あなたは何を行ったのか?

Methodsセクションを1つの単語で説明するとしたら、私は「透明性」という言葉を使うでしょう。あなたは読者に「どのように研究を行ったか」を明確に伝えなくてはなりません。これは、同分野の研究者による査読(ピアレビュー)に返答する際にも必須の項目です。また、読者があなたの研究を確実に再現できるようにしなければなりません。

通常はまず、あなたが研究で使用した人や物は何であったかを説明します。被験者、動物または細胞、試料または部位の他、使用した(あるいは合成された)材料も含まれます。

次に、どのように実験や分析を行ったかを述べる必要があります。各サブセクションは1つの技法にあてます。どんな設備や材料を使用したか、条件やパラメーター、そしてデータをどのように集めたかを説明しましょう。

最後に、データがどう分析されたかを説明します。使用されたソフトウエアとそのバージョン、定量法や統計法などです。統計を使用しているなら、誤りを避けるために統計学者と相談することを私は強く推奨します。無料のオンラインリソースもあります2

Results:あなたは何を発見したのか?

Resultsセクションは、図や表などを文章で説明する主要な場になります。図や表はあなたの論文の中で読者の目を最も引くところですから、そこにスポットライトを当てるべきなのです。ですからResultsは、読者に「どの図が重要か」を知ってもらうことが目的であって、図の内容を文章で繰り返すための場ではありません。

書き方ですが、一度に1つの図について読者を誘導するようにしましょう。まず、あなたが行ったことを説明し、次に、図表のデータに見られる重要な傾向や関係を強調します。各図の説明は「持ち帰りメッセージ」で締めくくります。つまり、次の図に進む前に、その図について読者に覚えておいてもらいたい要点を述べるのです。Results-Discussionとして1つのセクションにまとめている学術誌でも、構造は同じです。

しかし、傾向や関係を強調した後、読者にその解釈を伝えなければなりません。あなたが見いだした傾向が存在すると考える理由は何か。どんな証拠(通常は既発表の研究の形をとる)があなたの解釈を裏付けるのか。最後に、これらの解釈に基づいて次に実施すべき論理的な研究ステップは何かを述べます。これによって読者は次の図へと導かれるでしょう。

Discussion:あなたの研究はどのようにその分野に貢献するのか?

Discussionではまず、あなたが研究を行った動機(研究のもとになった疑問)を再度紹介する短いパラグラフから始めた後、この疑問に答えるために得たいくつかの重要な知見をまとめていくといいでしょう。こうすることで読者はすぐに、あなたの研究をその分野の全体像にはめ込みながら理解できます。

次に、これまで本文で示してきた重要な知見について考察します。まず、あなたが観察した結果を示してから、この結果が得られた理由についての解釈を述べます。それからこの新しい情報をその分野で既に知られていることに総合します。この情報は、以前に発表されたことと同様であるのか、あるいは異なっているのか? もし異なっているなら、どのような理由で違いが生じたと思うかを説明します。ここも、あなたの専門知識を示して信頼を確立する絶好の機会となります。最後に、あなたが示したことと以前に発表されたことに基づき、読者にとってこれは何を意味するのか、次のステップは何かについて述べます。論文の主要な目標の1つは、単に新しい考え方について議論するだけではなく、研究をさらに推進するための新しい仮説を生み出す助けとなることなのです。

あなたの主要な研究結果について考察した後に、否定的結果や制約があればそれも全て言及するべきです。最初に、否定的結果あるいは制約がどんなものであるかを述べましょう。そして、なぜそのような結果が出たと考えているかを論じましょう。ここも、あなたの専門知識の見せどころです。次に以下のような疑問に答えます。これらの結果や制約は、その分野においてどんな意味を持つのか? 読者がこの問題によりよく対処するためには、この否定的結果あるいは制約から得た知識をどのように用いればよいのか? 新しい仮説を引き出すものは何でも、分野に良い影響をもたらします。

これらの否定的結果もしくは制約は、この研究の妥当性に影響を与えるということを肝に銘じておきましょう。例えば、スカーミオン挙動のモデルで定量的一致が得られなかった研究3では、「それにもかかわらず、紹介した理論モデルは、既存のモデルでは捉えられないスカーミオンの動的挙動を説明し、我々の観察に質的に合致する概念を提供する」と、著者は述べています。必ず肯定的な意見で締めくくりましょう。

最後に、Discussionは1つの「結論」で結びましょう。ここが論文の最後に読まれるパートであり、ほとんどの読者にとって最も記憶に残る部分であることを覚えておきましょう。では、あなたが読者に覚えておいてもらいたいことは何でしょう? ここは、主要な結論から始めます。主要な結論とは、あなたの重要な研究結果の概要ではなく、Introductionで特定した疑問の答えです。例えば上述の、細胞の上皮層からの押し出しに関する論文では、こう述べるのはどうでしょう。「我々は、位相的欠陥はこれまで確認されていない細胞のアポトーシスの原因であり、上皮の組織からアポトーシスを起こした細胞を押し出す原因となると結論する」。これは特定された問題に対する明確な答えです。

そして、結論を述べた後、主要な知見のうち、この結論を支持する最も重要なものを1つか2つ明示するといいでしょう。読者はあなたの論文で示された全ての知見を覚えてはいられません。ですから、読者に覚えておいてほしい最も重要なもの(1つまたは2つ)を強調するべきなのです。そして最後に、分野におけるあなたの研究の重要な意義を明確にしましょう。ただし、「この研究は新しい洞察を提供する」とか、「この研究は私たちの理解を深める」といった漠然とした言い方は避けましょう。あなたの専門知識を知らしめるためには、具体的に述べなければなりません。どの洞察が得られたのか? この研究はどのように私たちの理解を深めるのか? あなたの研究から言える、この分野における次の論理的なステップは何か? 一歩下がって全体像を眺め、あなたの研究がその分野の前進にどのように貢献するかを考えましょう。

読者の4つの重要な疑問に答える

論文は砂時計になぞらえることができます。研究のトピックと動機を紹介して広い話題から始め、読者の最初の疑問である「この研究で成し遂げなければならないものは何か?」に答える助けとします。次に話題を狭めて、研究の方法と得られた結果について述べ、次の2つの疑問に対処します。「あなたは何を行ったのか?」そして「あなたは何を発見したのか?」。最後に、あなたの研究がその分野に対して持つ広い意味へと立ち戻り、読者の最後の疑問に答えます。「あなたの研究はどのようにその分野に貢献するのか?」。

まとめ

上述のガイドラインに従えば確実に、あなたの研究の重要性と意義を明確に示すことができ、同時に、あなたの専門知識に関する読者の信頼と信用も確立されるでしょう。

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190327

参考文献

  1. Saw, T. B. et al. Nature 544, 212–216 (2017).
  2. nature.com/collections/qghhqm
  3. Litzius, K. et al. Nature Physics 13, 170–175 (2016).