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真核生物の起源を暗示するアーキアの培養に成功!

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2019.191112

原文:Nature (2019-08-09) | doi: 10.1038/d41586-019-02430-w | Scientists glimpse oddball microbe that could help explain rise of complex life

Jonathan Lambert

日本の科学者たちが、アスガルド類アーキアの培養に世界で初めて成功した。このアーキアは、かつて真核生物へと進化を遂げた細胞に似ている可能性がある。

培養に成功したロキアーキオータには、細長い突起があった。 | 拡大する

H. IMACHI ET AL.

海洋研究開発機構(JAMSTEC;神奈川県横須賀市)の井町寛之と、産業技術総合研究所(AIST;茨城県つくば市)のMasaru K. Nobu(延優)を中心とする研究チームは、これまでゲノムの塩基配列しか知られていなかったアーキア(古細菌とも呼ばれる)の一群である「アスガルド類アーキア」の単離・培養に成功したことを、生物学プレプリントサーバーbioRxivで発表した(http://doi.org/gf5z2n)。アーキアは、見かけは真正細菌に似ているが、実際には全く異なる単細胞の微生物で、特にアスガルド類アーキアは近年、真正細菌から真核生物への進化のカギを握るとして注目を集めている。真核生物とは、細胞内に核などの膜で区切られた構造物を有する生物群の総称で、植物や真菌、ヒトも真核生物である。

ワーヘニンゲン大学(オランダ)の進化微生物学者Thijs Ettemaは、「途方もない量の研究と忍耐から生まれた、記念碑的な論文です」と賞賛する。

この謎のアーキア群はロキアーキオータ類(またはロキ類)と呼ばれ、グリーンランド沖で採取された微生物を含む泥の中から発見された。2015年、Ettemaらは、この堆積物中に含まれる遺伝子断片の塩基配列を決定し、これらを組み合わせて個々の生物種の完全に近いゲノムを再構成した(A. Spang et al. Nature 521,173–179;2015およびNature ダイジェスト 2015年8月号「真核生物誕生のカギを握る原核生物を発見」参照)。

ゲノムの1つは明らかにアーキアのものだったが、真核生物の遺伝子に似た遺伝子もいくつか見つかった。このことから研究者たちは、北欧神話に登場するトリックスター「ロキ」にちなんで、このアーキア類を「ロキアーキオータ」と名付けた(2019年8月号「系統樹を揺さぶるトリックスター」参照)。

間もなく、他の研究室もロキに似たアーキアを発見し、これらは合わせてアスガルド上門アーキアと呼ばれるようになった。アスガルドは北欧神話の神々が住むとされる領域である。

多くの分析結果が、全ての真核細胞がアスガルド類アーキアに似た遠い祖先から生じたことを示唆している。この説を支持する人々は、アスガルド類アーキアに似たアーキアが真正細菌を飲み込み、お互いにとって利益になる内部共生という関係が約20億年前に始まったと考えている。飲み込まれた真正細菌は、エネルギーを生産する細胞小器官「ミトコンドリア」へと進化し、これが真核生物の誕生を促したという。

アーキアは、海底火山のような極限環境でよく見られる。 | 拡大する

New Zealand-American Submarine Ring of Fire 2005 Exploration, NOAA Vents Program

けれども、実験室でアスガルド類アーキアの培養に成功した人はいなかった。

井町とNobuらを中心とした研究チームは、海底に棲むこの微生物を培養するべく、深海のメタン冷湧水帯を模したバイオリアクターを製作し、成長の遅い微生物が増殖するのを5年間待った。

次に、バイオリアクターから試料を取り出して、栄養分とともに試験管に入れた。微生物の増殖の兆候が見られたのは、さらに1年がたったころだった。遺伝学的分析から、かろうじて検出できる程度のロキ類アーキア群の存在が確認できるようになったのだ。研究チームはその後も忍耐強くロキ類アーキアを増やしながら、その純化を行った。

12年に及ぶ研究を経て、研究チームはついに、この新しいロキ類アーキアと、別のメタン生成アーキアのみからなる安定した培養物を手にした(Natureのニュースチームは著者にインタビューを申し込んだが、この研究を記した論文が現在、ある学術誌で査読中であることを理由に実現しなかった)。

培養されたロキ類アーキアは、他のアーキアや真正細菌と同様に比較的単純な内部構造を持つが、その表面には細長い突起があった。「このような外見を予想した人はいないと思います。まるで、宇宙から来た生命体のようです」とEttemaは言う。

研究チームは、培養されたロキ類アーキアは、アミノ酸を分解することでエネルギーを生産すると報告している。また、今回の培養の成功により、多くの生物を含む堆積物からではなく、純粋な培養試料からDNAを抽出して塩基配列を決定できるようになった。そして、ロキ類アーキアが実際に真核生物の遺伝子に似た遺伝子をいくつも持っていることが裏付けられた。

真核生物は本当にアスガルド類アーキアに似たアーキアから誕生したのか、そうだとしたらどのようにして誕生したのだろう。それを明らかにするには、さらに多くのアスガルド類アーキアを培養する必要があるとEttemaは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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