Editorial

ヒトの胚や幹細胞を用いる研究論文に新たなお願い

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ヒトの胚と胚性幹細胞を用いる研究には、その倫理性に関心が集まり厳しい調査が行われることに加え、科学者や研究助成機関、学術誌に対しては関連法令の遵守が求められます。Nature およびNature 関連誌は、そのような研究論文の出版媒体として、この責任を非常に重大なことと受け止めており、ヒト胚と幹細胞の研究に関する論文原稿を取り扱う各誌の編集者は、それぞれの論文の掲載を決める際に、研究の倫理面の監視が十分に行われていたかどうかの評価を行っています。今回、この点に関するNature とNature 関連誌の出版方針を正式に定め、方針の改訂を行います。

Nature およびNature 関連誌は、幹細胞の研究者が、その研究を計画、実施、報告する際に、国際幹細胞学会(ISSCR)において2016年に合意されたガイドラインを尊重することを推奨します。この「幹細胞研究と臨床応用のためのガイドライン」には、生物医科学と臨床試験に関する国際的な政策に合致した幹細胞研究の厳しい基準が記載されています。Nature とNature 関連誌は、このガイドラインの遵守を科学者に対して奨励するために、論文原稿の区分を定め、特定の区分に限って、論文と共に倫理性に関するステートメントの提出を著者に義務付け、場合によっては倫理専門家に審査を依頼します。

ヒト胚または配偶子が関係する論文と、多能性幹細胞に由来する細胞を用いる臨床研究に関する論文をNature またはNature 関連誌に投稿する著者の皆さまには、この方針の下、倫理性に関するステートメントを提出いただきます。このステートメントには、研究の倫理面の監視(例えば、当該研究を承認した胚研究を専門とする審査委員会)と、細胞のドナーとレシピエントの同意取得過程の詳細について、明確に記述いただく必要があります。

Nature およびNature 関連誌で特に慎重に扱う必要があると考える論文原稿については、我々は科学的側面の査読を行うことに加えて、独立した倫理専門家に依頼して審査を実施します。そのような論文原稿の一例としては、ヒト胚のゲノム操作を報告する論文、多能性幹細胞に由来する配偶子または細胞を用いる臨床研究の論文があります。倫理的側面を審査する者は、倫理性に関するステートメントの作成を指導でき、研究が承認された状況に関する正確で透明性のある報告が確実に行われるようにします。倫理審査者による評価の実施に当たり、論文著者に対して、編集済インフォームドコンセント文書と審査委員会の文書の提出を求めることもあります。

さらに、無傷のヒトの胚または胚様構造を14日近く生存させた研究を報告する論文原稿についても、我々は独立した倫理性審査を必ず実施します。「14日目」という時期は、原始線条の形成と生命体としての潜在力の獲得に対応しています(2018年7月号「ヒト形成体の存在をニワトリ胚を使って確認」参照)。

現在のところ、多くの国々で14日を超える培養実験が禁じられており、ISSCRガイドラインでも禁止されています。この禁止ルールは、英国のヒトの受精および胚研究に関する調査委員会の1984年報告書(通称「ウォーノック・レポート」)における結論を反映したものです。このルールを緩和すべきかどうかを巡っては、技術の進歩によって幹細胞からヒト胚様構造を再構築できるようになったことが一因となり論争が始まっていますが、今のところ決着はついていません。

この論争やその他の論争が進展すれば、Nature およびNature 関連誌の出版方針の一部は、科学と技術の発展と社会規範の進化によって変化する幹細胞研究の最良慣行に照らした再検討が必要になると予想しています。Nature は、このような議論に対して広範な視点を取り入れるアプローチを用い、さまざまな分野の専門家との協議と対話を行うことを全面的に支持します。そして、Nature の出版方針が、こうした科学者や倫理専門家、規制当局者、政策立案者、研究助成機関による活動を補完することを期待しています。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180839

原文

Announcement: stem-cell policy
  • Nature (2018-05-02) | DOI: 10.1038/d41586-018-05030-2