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米国政府が地球観測画像の有料化を検討

アラスカのコロンビア氷河の融解の進行を示す1986年と2017年のランドサット画像。 Credit: LANDSAT/EO/NASA

米国政府は、広く利用されている2つの地球観測画像提供サービスについて、利用料を徴収するべきかどうかを検討中だ。そのうちの1つは、地質調査所が運用する代表的な地球観測衛星ランドサットの画像提供サービスで、もう1つは、農務省の航空測量プログラムの画像提供サービスである。地質調査所を監督する内務省は、ランドサットのデータを有料化した場合に科学者や他の利用者にどのような影響が出るか調査するよう連邦諮問委員会に依頼しており、年内に結果が出る予定だ。一方農務省は、データの有料化を2019年から実施することを目論んでいる。

これらのデータを利用する研究者らは、有料化によってデータが入手しにくくなり、環境、自然保護、農業、公衆衛生分野の広範な研究に悪影響が及ぶことを懸念している。遠隔探査を専門とする地理学者で、地質調査所地球資源観測科学センター(サウスダコタ州スーフォールズ)を退職したばかりのThomas Lovelandは、「研究の大きな妨げとなるでしょう」と言う。

ランドサットプログラムは1972年に打ち上げられた1基の衛星から始まった。その後7基が打ち上げられて、世界で最も長期にわたり、継続的に衛星画像データを生成してきた。現在運用中の2基の衛星は、8日ごとに解像度30mの写真を撮影している。

ランドサットの画像は2008年まで有料だった。そのため当時の研究者は、データ購入費をなるべく抑えられるように研究をデザインすることが多かったとLovelandは言う。

地質調査所がデータを無料化して以来、データのダウンロード数は100倍以上に跳ね上がった。ランドサット画像は特に、森林、表流水、都市の変化について先駆的な研究を可能にした。現在、Google Scholarで「Landsat」という単語を検索すると、2008年以降に出版された論文が10万編近く見つかる。

地質調査所は2013年に、ランドサット画像の無料配布が生み出す経済的利益が毎年20億ドル(約2200億円)以上であることを利用者調査から明らかにした。同プログラムの現在の年間予算は約8000万ドル(約88億円)で、利益に比べると大した金額ではない。調査に回答した約1万3500人の利用者のうち、半数以上が学者で、約4分の3が外国人だった。

2017年7月、内務省は利用者からランドサット運用費の回収が可能か調査するよう、外部の諮問委員会に依頼した。委員会は現在、2018年内の白書公開を目指して準備中である。委員会のメンバーであるGoogle Earth Engineの技術部長Rebecca Mooreは、「真摯に議論しています」と言う。

Lovelandは、ランドサットプログラムに自分の運用費を稼がせようとする試みは裏目に出るかもしれないと指摘する。データ有料化に伴い利用数が減少し、一方で支払いを処理する管理費が収入に食い込むことになるだろう。「有料化には多額の費用がかかるのです」と彼は言う。

連邦諮問委員会は2012年にも、ランドサット画像の再有料化の是非を検討したことがある。このときは「ランドサットは費用よりはるかに大きな恩恵をもたらしている」という結論に至った。委員会はさらに、衛星データの有料化は金の浪費であり、科学と革新を抑制し、政府が国家の安全保障を監視する能力を損なうものだとも指摘した。

有料化が検討されているもう1つのサービス、農務省の全米農業画像プログラム(NAIP)は、2003年以来、企業に委託して航空画像を収集している。航空写真の解像度は1mで、科学者は木や建物を個別に確認できる上、最低でも3年に1度は全米をカバーしている。

航空画像を侵略的外来植物種と火災のリスクの研究に利用しているアイダホ大学(米国モスコー)の生態学者April Huletは、NAIPのデータは「米国西部の(土地)管理をする上で、なくてはならないもの」だと言う。このため、農務省が情報を有料化しても、資金があれば利用を続けたいという。

農務省は、2019年からのデータ有料化を認可すべきかどうかを検討中だ。これは、2017年11月に開かれた米国の地理空間政策を監督する省庁間パネルの会合で作成された覚書に従ったものである。農務省の航空写真管理拠点(ユタ州ソルトレークシティ)のディレクターを務めるDenny Skilesによると、同省は夏の終わりまでに原案を準備し、その後、パブリックコメントを募集する予定だという。

ランドサットやNAIPの画像の完全な代替になるものはない。プラネット(Planet)社やデジタルグローブ(DigitalGlobe)社のように高解像度の衛星画像を収集する企業は、一部のデータを科学者に無料で提供しているが、広い地域や長い期間をカバーする市販の画像は、多くの研究者にとって高価すぎる。ワーヘニンゲン大学(オランダ)のリモートセンシングの専門家Martin Heroldによると、欧州宇宙機関(ESA)のセンチネル2衛星は解像度10mの地球の画像を無料で提供しているが、ランドサットの46年間の記録には、はるかに及ばないという。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180708

原文

US government considers charging for popular Earth-observing data
  • Nature (2018-04-24) | DOI: 10.1038/d41586-018-04874-y
  • Gabriel Popkin