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宇宙の最初の星、痕跡を観測

オーストラリア西部のウエスタンオーストラリア州に設置された電波望遠鏡「EDGES」。その主要部分は、長辺約2mの食卓ほどの大きさの金属板アンテナだ。 Credit: Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation

宇宙で最初に誕生した星たちの光が宇宙マイクロ波背景放射(ビッグバンの残光)に残したとみられる痕跡を、地球に届く電波から初めて検出した、と米国の研究者らが発表した。天文学者たちは、宇宙の第一世代の星(初代星)を長く探してきたが、その出現時期ははっきりしていなかった。今回の痕跡を作った星は、ビッグバンから約1億8000万年後に現れたとみられる。観測結果は、初期の宇宙を構成していたガスが予測よりも低温だったことも示唆した。これは、暗黒物質(ダークマター)による冷却を示している可能性があり、確かめられれば、重力以外の作用を通じて暗黒物質が確認された初めての例になる。

この研究を行ったのは、アリゾナ州立大学(米国テンピ)の天文学者Judd Bowmanらで、論文はNature 2018年3月1日号に掲載された1。Bowmanは、「宇宙マイクロ波背景放射を除けば、これほど初期の宇宙から何らかのシグナルが得られたのはこれが初めてです」と話す。

背景放射のくぼみ

物理学者たちは、138億年前にビッグバンが起こり、主に電子と陽子からなる電離したプラズマが生じたと考えている。プラズマは、宇宙が膨張するとともに急速に冷えた。ビッグバンから約38万年後、冷えたプラズマは結合して中性の水素原子に変わった。水素原子は時間がたつとともに重力によって凝集して星を形成し、核融合反応で光を放ち始めた。この変化は「宇宙の夜明け」と呼ばれている(「宇宙の夜明け」参照)。

こうした第一世代の星からの光は、現在ではあまりに弱く、地上の望遠鏡で検出することは不可能に近い。しかし、天文学者たちは、その光を間接的に捉えることができるのではないかと考えてきた。第一世代の星の光は、かつて星の間の空間を満たしていた水素原子のエネルギー状態の分布を変化させたはずなのだ。この変化により、水素ガスは、宇宙マイクロ波背景放射を波長21cm(マイクロ波に相当する波長)で吸収するようになった。これは、宇宙マイクロ波背景放射の強度の周波数分布に「くぼみ」を残す。

研究チームは、オーストラリア西部のウエスタンオーストラリア州にある、マーチソン電波天文学天文台に設置した「EDGES」(Experiment to Detect the Global Epoch of Reionization Signature)と呼ばれる電波望遠鏡(アンテナ)を使って、このシグナル(くぼみ)を探した。観測は2015年8月に始まった。

銀河系やFMラジオ放送は、このシグナルと同じ周波数帯のより強い電波を出すので、シグナルを見つけるには、これらの電波放射源の影響を注意深く処理する必要があった。Bowmanらは間もなく、予測した周波数とおおむね一致する78MHz付近にシグナルを発見した。19MHzの範囲で、届く電波(宇宙マイクロ波背景放射も含む)の強度が、わずか数千分の1だが弱くなっていた。強度減少の大きさ(深さ)は予測の2倍もあり、宇宙マイクロ波背景放射の約20%の減少に相当する。観測結果が予想外に明瞭だったので、Bowmanらは人工物や雑音が原因ではないことを確認する作業を行い、これに2年かかった。彼らは、近くに2つ目のアンテナも設置し、別の方向に向けて結果を比較した。「私たちは、2年間であらゆるテストを行いましたが、他の説明を見つけることはできませんでした。ようやく、私たちは興奮し始めました」とBowmanは振り返る。

遠方から届く放射は、宇宙の膨張によって波長が引き延ばされて到着する。このため、シグナルが見つかった周波数帯から、そのシグナルが作られた時期が分かる。研究チームは、ビッグバン後約1億8000万年には第一世代星が現れていた(宇宙の夜明け)と結論した。また、このシグナルが消える周波数から、2つ目の重要な時期が分かる。最初の星の死によるエネルギーの高いX線が、ガスの温度を上げ、シグナルを消したはずだからだ。研究チームは、その時期をビッグバン後約2億7000万年と見積もった。

Bowmanは「私たちの起源を知るために宇宙の歴史を理解したいなら、こうした原始の星を解明することは非常に重要です。これらの星の爆発的な死が、炭素や酸素などのより重い元素のスープを作り、そのスープから後の星が形成されたからです」と話す。

フローニンゲン大学(オランダ)の宇宙論研究者Saleem Zaroubiは、「もしも本当なら、これは大ニュースで、とてもエキサイティングな結果です。宇宙の歴史で、まだほとんど分かっていない時代から来たものだからです。他の研究チームがこのシグナルを確認する必要があるでしょうが、今のところ、この発見は確かなもののように思えます」と話す。

暗黒物質が冷却?

テルアビブ大学(イスラエル)の宇宙論研究者Rennan Barkanaは、「シグナルは予測された周波数で現れましたが、その強さは全く予想しないもので、本当に驚きました」と話す。彼は、2つ目の関連論文をNatureの同じ号で発表した2。「シグナルの強さは、宇宙の夜明けにこれまで考えられていたよりも多くの放射があったか、あるいはガスが冷たかったかのいずれかであることを示しています。どちらにせよ、とても奇妙で予想外のことです」とBarkanaは話す。

Barkanaにとって唯一の合理的な説明は、ガスが何かによって冷却されたというものだ。「この説明は、暗黒物質の関与を指し示しています」と彼は話す。暗黒物質は宇宙の夜明けには冷たかったはずであることが理論的に指摘されている。暗黒物質は、重力以外の作用を通じてガスを冷却したと彼は考えている。

「今回の結果は、暗黒物質が、現在有力な理論が示すよりも軽いことも示唆しています」とBarkanaは指摘する。これは、物理学者たちが、数十年に及ぶ実験でも暗黒物質を直接に観測できていない原因なのかもしれない。「この見方が正しければ、私たちは暗黒物質を発見するために新たなタイプの実験をデザインしなければなりません」と彼は話す。

宇宙の夜明け
ビッグバンで電子と陽子が生まれた。宇宙が膨張して物質は冷え、ビッグバンから約38万年後、電子と陽子は中性の水素ガスを形成した(再結合)。やがて水素は重力によって凝集し、最初の星や銀河を形成した。これは「宇宙の夜明け」と呼ばれる時期だ。こうした第一世代の星からの光は、星間空間に残っている水素原子のエネルギー状態の分布を変え、水素原子は、ビッグバンの残光であるマイクロ波背景放射を吸収するようになった。このため、背景放射の周波数分布にくぼみが生じ、今回、それを観測することに成功したと天文学者たちは考えている。その後、星からの高エネルギーの光がガスを加熱し、シグナルを消した後、残りの全ての水素をイオン化した(再電離)。

今のところ、この宇宙の夜明けのシグナルはまだ不確かだ。しかし、それを確かめることができる実験は、他にもいくつかある。多くの電波天文学者たちは、宇宙の歴史のもっと後の時期を対象に他の水素シグナルを探してきた。そうした実験の1つで現在進行中のものが、国際プロジェクトとして南アフリカ共和国のカルー半砂漠に建設された電波望遠鏡「HERA」(Hydrogen Epoch of Reionization Array)であり、この望遠鏡は現在、Bowmanらのチームが調べた波長のシグナルを検出するために改造中だ。今後数年間で今回の発見を確認してくれるかもしれないとBowmanは期待する。

一方、電波望遠鏡「LOFAR」(Low-Frequency Array)は、オランダなど欧州の複数の国に設置されたアンテナ群からなる電波干渉計であり、こうした実験はさらに先に進み、シグナル強度の空の方向による変化を示す分布図を作ることができるはずだ。もしも、今回の強いシグナルの原因が暗黒物質なら、はっきりしたパターンとして見えるはずだ。「私たちの結果を、別の手段でも確かめてくれることを強く期待しています」とBowmanは話す。

コーネル大学(米国ニューヨーク州イサカ)の天文学者Martha Haynesは、「私たちは35年間、最初の星がいつ形成されたのかを見いだそうと試みてきました。長い間探し求めてきたシグナルがついに検出されたと考えると興奮します」と話す。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180502

原文

Astronomers detect light from the Universe’s first stars
  • Nature (2018-02-28) | DOI: 10.1038/d41586-018-02616-8
  • Elizabeth Gibney

参考文献

  1. Bowman, J. D., Rogers, A. E. E., Monsalve, R. A., Mozdzen, T. J. & Mahesh, N. Nature 555, 67–70 (2018).
  2. Barkana, R. Nature 555, 71–74 (2018).