Editorial

研究とインパクトを結び付ける

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180438

原文:Nature (2018-01-04) | doi: 10.1038/d41586-017-08943-6 | Reward research that changes society

学術研究が社会に与えたインパクトの痕跡を追うことで、こうした「インパクト」を追求する研究者は手掛かりを得られるはずだ。このほど創刊されるNature関連誌3誌も役立つことだろう。

Nature Climate Changeは、幅広い基礎研究分野を対象とするだけでなく、経済や政策なども扱い、分野横断的な基礎研究の創出を目指す最初のジャーナルとして2011年4月に創刊された。 | 拡大する

基礎科学の重要性と価値を強調する古典的な物語がある。それによると、進歩を遂げるには、研究者の粘り強さと忍耐強い経済的支援を組み合わせ、(仮説の生成と予測の検証にとって重要な)創造的な想像力と論理を加え、そこに予測不能な結果をちょいと振りかけて1世紀、いやもしかするともっと長い時間をかけてコトコト煮込めばよいとされる。

この成功のレシピから生まれた優れた研究成果の一例が、2016年に発表された重力波の検出である。この成果は、秘教めいた一般相対性理論から導き出されたもので、この理論は、1916年の提唱当時には予測できなかった全地球的航法などの技術を下支えするようになった。このように、Natureの読者にもおそらく、それぞれお気に入りのサクセスストーリーがあることだろう。

基礎研究の支援は、文化的価値観の表れとしても、今後の社会の進歩を推進する力としても、不可欠な存在であり続けている。これに対しては、短期間に実用的成果を得ることや特定の地域において実用的な成果を得ることを構想した研究も、報酬と名声に値する。この事実は、エンジニアや臨床科学者にとっては当然のことなのかもしれないが、他の分野では、それほど当然視されていない。

例えば、リーズ大学(英国)の自然地理学者は、規制当局および営利団体と共同で革新的な雨水流域管理法を開発して、イングランド北部の水質と企業業績を高めた。別の例では、ロンドン大学キングスカレッジ(英国)の心理学者が、過食症と闘うための自助コンテンツを開発し、地元の保健当局とデジタルメディア制作会社と提携してそのコンテンツを浸透させた。

これらの例は、イングランド高等教育資金配分会議が2014年に新たに実施したREF(Research Excellence Framework、go.nature.com/2zags87参照)において収集された事例研究のデータベースに登録されている。イングランド高等教育資金配分会議は、研究のインパクト(影響度)を過去にさかのぼって評価し、大きなインパクトをもたらした研究者への助成金を増額することで報奨している(Nature ダイジェスト 2015年5月号「高評価の事例から助成機関が求める『インパクト』が見えてきた」参照)。この手法は、「有用な」研究を追求する一部の大学に対する財政支援を手厚くするのに貢献したが、これまで続いてきた従来型の研究助成の枠組みの中ではうまくいかなかった。次回のREFは2021年に実施される予定で、これまでよりインパクト評価が重視される(評価割合が20%から25%に引き上げられる)。この動きをNatureは支持する。他の研究助成機関も、直接的なインパクトが重要であることを示唆しており、助成金申請書において上記の例に挙げたような成果を将来構想として示すことを求めている。

REFの事例研究のデータベースは興味深い。その理由の1つは、研究者に協力して実用的な結果を生み出した人々が、率直な記述と推薦の言葉によってインパクトを文書化する、という単純明快な方法が明確に示されていることである。もう1つの理由は、インパクトを生み出すまでのさまざまな道筋が見える点である。

このように、研究に協力者とインパクトが結び付くと認知と名声がもたらされるならば、研究助成金も同様であり、大学はREFの事例研究を分析することで、研究助成金を獲得できる。後ろ向き研究(過去の事例を調査する手法)でインパクトという基準を適用しても答えはストレートに得られない。現実世界で変化が生まれるまでには何年もかかるからだ(ただし、ソフトウエアやデジタルアプリについては、進歩のペースが早まる場合がある)。しかし、過去にさかのぼって事例を調べることで、研究者は有益な情報を得られ、また研究を始める時点で、最終的なインパクトを高めるための「協力関係」を想定したり、実際に協力者を見つけたりするのに役立つことがある。

インパクトの大きさは、研究結果の浸透の度合いにも左右される。この点でNature関連誌が役立つことを我々は期待している。ここ数年にわたって、Natureのポートフォリオは、総合科学ジャーナルや、積極的に学際的アプローチをとるジャーナルを刊行することで拡大・発展してきた。それらの刊行目的として、社会の諸問題の解決だけでなく、分野横断的な基礎研究を目指すことも明確に掲げている。このようなジャーナルとして、Nature Climate Changeの創刊を皮切りに、最近ではNature EnergyNature Human BehaviourNature Biomedical Engineeringなどを創刊した。2018年1月には、Nature SustainabilityNature ElectronicsNature Catalysisが創刊された(その間には、微生物学、天文学、生態学・進化など従来の枠組みによる研究分野のジャーナルも創刊されている)。

社会の諸問題を刊行目的とするジャーナルは、学術出版社が通常直面しない課題に日常的に取り組むことになる。その課題とは、学界の外での潜在的有用性を主張する研究について、その重要性を評価する方法である。

この課題は、比較的単純明快に解決できることがある。例えば、電子工学や触媒作用の一部の領域では、学界と産業界との間に太いパイプが存在し、共通の目標があり、知識の応用に関して両者で合意した明確な経路がある。そのため1つの応用例を主張する論文の潜在的インパクト、そしてその重要性がどの程度の広がりを持つのか、という点はすぐに評価できる。

その他の研究分野では、潜在的インパクトを判定する方法はそれほど確立されていない可能性があり、そのために論文の評価と査読が難しくなっている。論文において政策が提唱され、その妥当性が論文の重要性を示す極めて重要な主張になっている場合を考えると、この論文の採否を検討する際には、技術的評価だけでは不十分だ。真に価値のある政策と単なる妄想を見分けられる「適切な査読者」を見つけるため、編集者は、文献、委員会のメンバー表、学会、専門性の高いジャーナリストをくまなく当たることになる。

この課題に取り組む編集者には、偏見を持たないことが求められるだけでなく、論文の価値(構想の新規性は弱いかもしれないが大きなインパクトを持ち得る論文)を認識できる査読者を起用することも求められる。実際、応用例の機能性は、階段状の変化を起こすことがある。

Nature関連誌の場合には、出版する論文の選定に最終的な責任を負うのは編集者であって、査読者でもなければ、外部の編集委員会でもない。では、出版される論文は主観的に決定されるのだろうか。この点は、重要な論文であるかどうかを直ちに判別できない基礎科学の論文についての出版の決定と変わらない。編集者の幅広い経験と視野の広さに加えて、助言の質の高さが大事な要素となる。

研究の実際的価値を高めたいと考える研究ジャーナルが、それ自体の価値を高めるには、査読で必要とされる注意と斬新なアイデア、そして良質の論文の出版以外に何ができるだろうか。1つの方法は、研究発表後に生じるインパクトの浸透に助力することかもしれない。つまり、引用分析とオルトメトリクス分析とともに、研究者自身が研究発表後に何が起こったかを記述し、研究協力者の推薦文やその他の具体的な証拠を集めて検証した結果を掲載することかもしれない。歴史家ならば、この方法を過去の偉大な文献を含むかなり古い文献に適用できる。これにより、今よりも内容が豊かで、生き生きとした、インパクトの大きな文献が出来上がることだろう。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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