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サケの産卵、山を動かす

魚の生殖行動は重大事には思えないだろうが、何千年にもわたって無数のカップルが産卵すると、地形に痕跡が残り得る。米国北西部太平洋岸の河川にサケの産卵が与える影響をモデル化した最近の研究は、産卵が同地域の山腹の形成に実際に寄与していると結論付けた。

サケは繁殖のため、生まれ故郷の川に海から戻ってくる。雌はちょうど良い大きさの石がある場所を見つけると、くぼみを掘って産卵する。雄がこれに精子を振り掛けた後、雌は上流側に別のくぼみを掘り、その土砂で卵を覆う。このように掘り返していると、土砂が下流に動きやすくなって川底が侵食されると、研究論文を共著したワシントン州立大学(米国)の水生生態学者Alexander K. Fremierは言う。

川底を3割ほど余分に侵食

Fremierらは実験用水路でサケの産卵による侵食速度に関するデータを集め、それに基づいて実際の河川が数百万年でどう変わるかを推定した。その結果、産卵によって、川底が30%余分に削られて低くなった可能性があることが分かった。2017年9月のGeomorphologyに発表。

ワシントン大学(米国シアトル)の地形学の教授David R. Montgomeryはこの研究を「通常は物理的過程と考えられている事柄と生物活動が関連していることを見事に示しています」と高く評価する。Montgomeryは自らの研究で、山の隆起がサケの多様化と特殊化、種分化を促進した可能性を示している。今回の研究は、それらの過程を、サケの産卵が侵食速度や河川の傾斜度を変えることによってさらに促進している可能性を示唆している。

そうした影響は隆起の影響と比べれば微々たるものだろうとMontgomeryは考えているが、雪崩式に生じる一連の現象について、Fremierらが「考えるきっかけを作ってくれました」と付け加える。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 3

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180308b