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デンキウナギに着想を得た柔らかい電源

Schroederらはデンキウナギの発電器官を模倣した電源を開発。塩分濃度の高いゲル(赤色)と低いゲル(青色)を1枚の基板上に、カチオン選択性のゲル(緑色)とアニオン選択性のゲル(黄色)をもう1枚の基板上に3D印刷したものを重ね合わせて接触させると、イオン勾配が生じて電圧が生じる。 Credit: Thomas Schroeder and Anirvan Guha

デンキウナギに着想を得た柔軟で透明な電源が、心臓ペースメーカーや体内埋め込み型センサー、さらには人工臓器といった植込み型医療機器にまで電力を供給できるようになるかもしれない。ミシガン大学(米国アナーバー)とフリブール大学(スイス・フリブール)の化学エンジニアThomas Schroederらは、そうした電源を試作し、2017年12月13日、Natureに報告した1。今回の試作品は塩水で動作するものだが、将来的には体液からエネルギーを得たいとSchroederらは考えている。

「私たちが開発した人工電気器官には、従来の電池にはない多くの特徴があります」とSchroederは言う。望ましい物理的特徴を持つことに加え、「毒性がないと思われ、再生可能な電解質溶液流で動作する装置としての可能性を秘めています」。

Schroederらは、生体適合性電源を設計するため、600ボルトもの放電で自己防衛したり獲物を気絶させたりするデンキウナギ(Electrophorus electricus)から着想を得た。デンキウナギの強力な電気ショックは、体長の大半を占める長い発電器官の中の発電細胞という特殊な細胞で作り出される。発電細胞内の電解質の濃度が変化することで、電荷を担うイオンが流れる。個々の発電細胞はわずかな電圧しか発生させることができないが、デンキウナギの持つ数千の発電細胞は直列に積み重なっているため、全電圧が加算される。

デンキウナギをまねる

Schroederのチームは、ポリアクリルアミドと水からなる4種類のヒドロゲルを用いて発電細胞の構造を模倣し、約2500個のヒドロゲルユニットを積み重ねた。この人工システムは110ボルトの電位差を発生させたが、その総出力はデンキウナギと比較して2~3桁低い。デンキウナギの方が、細胞が薄いため抵抗が低いのだ。

理論上、今回の人工電池によって発生する電力は、一部の心臓ペースメーカーなど、既存の超低電力デバイスを動作させるのに十分であろうとSchroederは言う。しかし、例えばヒドロゲル膜を薄くして抵抗を低くするといった方法により、このシステムの性能を劇的に向上させることが可能だと考えている。

デンキウナギは代謝エネルギーを用いて発電細胞間の電解質濃度差を維持している。ゆくゆくはそうした能力も模倣したいとSchroederは考えている。「将来的には、今回の人工電気器官のようなスキームで、体内のさまざまな液体を活用できるようになると考えられます」と彼は言う。

マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の材料科学者でエンジニアのMarkus Buehlerは、Schroederらの設計に感銘を受けたという。「従来の概念を超える、心躍る進歩ですね」と彼は言う。「近い将来、この技術が活用されることを期待しています」。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180202

原文

Electric eel-inspired devices could power artificial human organs
  • Nature (2017-12-13) | DOI: 10.1038/d41586-017-08617-3
  • Emma Young

参考文献

  1. Schroeder, T. B. H. et al. Nature 552, 214–218 (2017).