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全米科学財団の厳しいハラスメント防止規約が発効

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181212

原文:Nature (2018-09-19) | doi: 10.1038/d41586-018-06766-7 | Top US science agency unveils hotly anticipated harassment policy

Alexandra Witze

全米科学財団の助成金受給者がこの規約に違反した場合、所属研究機関は調査を行い、財団に報告することが義務付けられた。被害者や目撃者が直接財団に通報することもできる。

新規約では、NSFの助成を受ける研究者による規約違反が判明した際と、究明調査のために研究者が休職扱いになった場合、所属研究機関にNSFへの報告義務が課せられる。 | 拡大する

Maria B. Barnes/NSF

2018年10月21日、全米科学財団(NSF)によるセクシュアルハラスメントへの対策がようやく発効した。全ての新規助成案件と既存の助成の延長に対して適用される。以降、NSFの助成を受ける機関は、研究室の主宰者(PI)や準主宰者(co-PI)によるハラスメント(セクシュアルハラスメントや性的暴行、その他のハラスメントも含む)に関するあらゆる発見・調査事項をNSFに報告しなければならない。究明調査のため、研究者が休職扱いとなった場合にも、報告する必要がある。2018年2月に指針案が発表されて以来、この規約には、200件近くの意見が寄せられていた。

今回発効した規約は、米国の研究助成機関によるセクシュアルハラスメント対策としてはこれまでで最も厳しいものである。例えば米国立衛生研究所(NIH)は、9月17日に一元管理型のハラスメント報告システムの導入を表明したが、助成金支給には新たな条件を課していない。

しかし、専門家によると、NSFの指針は最初の一歩としては素晴らしいが、最終段階には程遠いという。NSFの助成を受けた研究施設(南極にある施設など)で安全性向上に取り組んできたスクリプス海洋研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の地質学者Jane Willenbringは、「ハラスメント対策規約の発効はうれしいニュースです。予想以上のものです」と話す。しかし、ハラスメント申し立てに関する調査は、被疑者側の学術機関に任せるのではなく、NSF自身が行うことを検討すべきだとも付け加えている。

ウィスコンシン大学マディソン校(米国)の地球科学者Erika Marín-Spiottaは、対象が規約の発効以降に支給・延長される助成であることについて、現行の助成にもNSF政策を適用してほしかったと話す。「今回の新規約は必要最低限でしかありません」。

NSF理事長のFrance Córdovaによると、今回の規約発効は、最終的なハラスメント対策措置ではないという。「今はハラスメント対策に取り組もうとしている時であり、NSFの仕事が終わったとは考えていません」と彼女は説明する。

強制的な開示

今回の規約では、研究機関は、NSFの助成を受けているPIまたはco-PIによるハラスメント行為の発見後10営業日以内にNSFに届け出る必要がある。また研究機関は、ハラスメントの発見や調査に関連して、PIまたはco-PIを休職させるなどの管理的措置を取った場合にも報告の義務がある。しかし、NSFの指針では、研究機関は調査開始の際にはNSFに通知する必要がない。「申し立ての受け付けと、権限を与えられた人による適正手続きの間には、微妙なバランスがあるのです」とCórdovaは言う。「研究機関による調査で発覚した事案に対して具体的な措置が取られれば、その事実が動かしがたい証拠となり、NSFは措置を取ることができるのです」。

大学を含めておよそ2000の研究機関が、NSFの助成を受けている。それらの機関は、すでに連邦公民権法に従う法的責任を負っている。公民権法第9編は、性別に基づく差別を禁じており、大学でのセクシュアルハラスメントや性的暴行の対策に広く用いられてきた。しかし、報復の恐れや調査不徹底への危惧から、所属研究機関を通して報告が行われることはほとんどないと、Marín-Spiottaは指摘する。今回のNSFの新しい指針では、ハラスメントがあった際、直接NSFへの通報ができるようになり、研究機関を通しても通さなくてもよいことになっている。

2月に報告ルールを提案してからこれまでに、助成受給者によるハラスメント発覚事項の報告を研究機関から5、6件受けた。しかし、助成受給者からハラスメントを受けた人、もしくはその行為を目撃した人からの通報は、「恐らく、少なくともその倍の数」だと、NSFのコンプライアンス・プログラム・マネジャーのRobert Cosgroveは言う。

NSF助成受給者が関わったハラスメントは、オンラインで通報できる(nsf.gov/harassment)。対応のため、ハラスメント対応の経験を有するスタッフを数名増員したと、NSFの多様性統括室(Office of Diversity and Inclusion)の室長Rhonda Davisは話す。また、いじめについてCórdovaは、NSF規則では「その他のハラスメント」として扱うと述べている。

広がる対策

科学界におけるハラスメント対策を進める動きは拡大しつつある。9月15日、米国科学振興協会(AAAS;ワシントンD.C.)の運営審議会は、ハラスメントを含む不祥事や倫理違反が発覚した科学者に対してフェローの称号を取り消す手続きを定めることを決定した。また、米国連邦議会は、助成受給者が関与するセクシュアルハラスメントに対して各政府系助成機関がどう対処しているかに関して調査を開始するよう、米国政府監査院に要請した。

NSFなどの政府機関は、各政府機関においてハラスメント対策の調整が促進されるよう、上院で大統領府科学技術政策局の局長が承認されるのを待っているとCórdovaは言う。局長として、すでにオクラホマ大学(米国ノーマン)の気象学者Kelvin Droegemeierが指名されているが、承認にはまだ至っていないという。

(翻訳:藤野正美)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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