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宇宙ゴミ問題に打つ手はあるか

ESA

2018年7月2日月曜日、地球上の氷を監視する欧州宇宙機関(ESA)の観測衛星「クライオサット2」(CryoSat-2)は、平常どおり高度700kmの軌道を周回していた。けれどもその日、ESAのミッションコントローラーは1つの問題に気付いた。制御不能の1個の宇宙ゴミが、1億4000万ユーロ(約180億円)の人工衛星に接近しつつあることが分かったのだ。

技術者たちが衛星とゴミの経路の追跡を開始したところ、時間の経過とともに衝突の確率が徐々に上がっていったため、ミッションコントローラーは回避行動を余儀なくされた。7月9日、ESAはクライオサット2のスラスターに点火し、より高い軌道に遷移させた。それからわずか50分後、ゴミは秒速4.1kmの猛スピードで、衛星があった場所を通過していった。

このような軌道制御は、年々、日常的なものになってきている。地球の周りの宇宙空間がどんどん混雑してきているからだ。2017年には、営利会社、各国の国防省やその他の省庁、アマチュアなどが、400基以上の人工衛星を軌道上に打ち上げた。これは、2000~2010年の年間平均の4倍以上の数である。現在、ボーイング社、ワンウェブ社(OneWeb)、スペースX社などの企業が数年以内に数百~数千基の通信衛星の打ち上げを計画しているため、これらの「メガコンステレーション」計画が順調に進めば、衛星の数はさらに急増する可能性がある。計画中の衛星が全て打ち上げられたとしたら、その数は、人類が宇宙開発史の中で打ち上げてきた衛星の数とほぼ同じになる。

地球周回軌道の混雑
運用中および運用終了後の人工衛星やその他の人工のゴミ(ロケットの部品など)を追跡しているカタログによると、現在2万個以上の物体が地球を周回しているという。宇宙ゴミ問題は急激に深刻化している。2017年には、すでに混み合っている空に1800個以上の新たな物体が加わった。 PDF

軌道上を行き交うこうした物体の全てが大惨事を引き起こし得る。2009年には、運用中の米国の商業衛星イリジウム33(Iridium 33)が、すでに運用を終了していたロシアの通信衛星コスモス2251(Cosmos-2251)と衝突する事故が発生した。この衝突により新たに生じた数千個の破片は、低軌道(高度2000kmまでの軌道)にある他の衛星に対する脅威となっている。運用中の人工衛星から太陽電池パネルの破片、ロケットの部品に至るまで、現在、地球の周回軌道上には約2万個の人工物が存在している。しかしオペレーターは、衝突が予想される全ての人工物を回避するわけにはいかない。人工衛星を動かせば、そのたびに本来の仕事に利用できるはずの時間と燃料を消費してしまうからだ。

宇宙ゴミへの懸念は人工衛星時代の幕開けの頃からあったが、近年の軌道上の物体数の増加があまりにも急激であるため、研究者たちは新しい対処法を模索するようになった。いくつかの研究チームは、今後ますます混雑してゆく宇宙で、人工衛星のオペレーターがより効率良く仕事できるよう、軌道上にある物体を評価する手法の改良に取り組んでいる。軌道上にある全ての人工物体に関する信頼性の高い情報など、膨大な量のデータの収集に着手した研究者らもいる。また別の研究者らは、宇宙ゴミの分類法を開発している。具体的には、物体の形状や大きさなどの特性を測定する方法を開発して、人工衛星のオペレーターが、接近してくる物体をどの程度心配すべきか判断できるようにすることを目指している。運用を終えた人工衛星が宇宙空間から素早く大気中に突入して燃え尽きるよう、衛星を遷移させる特殊な軌道を探す研究者もいる。

宇宙ゴミを放置しておくわけにはいかない、と多くの人が言う。宇宙でほんの数回の制御不能の衝突が発生すれば、カスケード的に破片が生じて収拾がつかなくなり、地球周辺の宇宙空間を利用できなくなる恐れがある。パデュー大学(米国インディアナ州ウェストラファイエット)のアストロダイナミクス(宇宙での人工物体の運動に関する研究)の専門家Carolin Fruehは、「この調子で衛星の打ち上げが続けば、取り返しがつかなくなってしまいます」と言う。

汚れる軌道

1960年代に米軍が地球周回軌道に数百万本の銅製の小さな針をまくという計画を発表した当初から、天文学者たちは宇宙ゴミに対する懸念を表明していた。針の散布は、高高度核実験によって電離層(電波を反射する大気の層で、長距離通信を可能にしている)が破壊された場合でも電波通信を可能にするために考案された。空軍は1963年に実際に軌道上で針を散布し、電波を反射する人工の電離層を形成することに成功した。ほとんどの針はその後3年で自然に軌道から外れたが、宇宙「汚染」への懸念などにより、プロジェクトは終了した。

フィラデルフィア(米国ペンシルベニア州)在住の科学史家で、米国歴史学会と米航空宇宙局(NASA)のフェローであるLisa Ruth Randは、この出来事について、人々が宇宙のことを「きれいに保つべき風景」として見るようになったごく初期の事例だと言う。

1957年に旧ソ連が人類初の人工衛星スプートニクを打ち上げて以来、軌道上の人工物の数は急増し、1970年には約2000個、2000年には約7500個、現在は約2万個になっている。軌道上の宇宙ゴミの数は2007年と2009年に大きく跳ね上がった。1回目は中国政府がミサイルの試験で自国の人工衛星を1基破壊した時で、2回目はイリジウムとコスモスの衝突である。ESAのスペースデブリ対策室(ドイツ・ダルムシュタット)の室長Holger Kragは、それぞれの事象で新たに数千個の破片が生じていて、ESAが毎年20回以上行っている人工衛星の軌道制御の約半分が、これらの破片に対処するためのものであるという。

現在、米軍は宇宙ゴミの衝突に関する警報を1日平均21件発表している。2019年には、空軍が太平洋のクワジャリン島に建設した強力なレーダー施設の稼働が予定されている。現在の施設で検知できるのは低軌道にある10cmの物体までだが、新しい施設ではもっと小さな物体も検知可能になることから、米軍が追跡する物体の数は5倍に増える可能性がある。

いくら軌道上の物体を監視する能力を向上させたとしても、総数自体が同時に増えてゆく。そのため、宇宙進出をする全ての企業や各国政府、その他個人は、協力して新しい回避法を編み出し、共通の脅威に立ち向かわなければならない。2000年代以降、国際機関間スペースデブリ調整会議(IADC)などの国際グループは、宇宙の持続可能性を実現するための指針を策定してきた。指針の中には、耐用年数を過ぎた人工衛星は、爆発につながる恐れのある残存燃料やその他の高圧物質を投棄することなどが含まれている。政府間グループは、人工衛星が25年以内に大気中で燃え尽きるか分解するように高度を下げることも推奨している。

けれどもKragによると、これまでに「25年ガイドライン」を受け入れたミッションは半数程度にとどまっているという。計画されているメガコンステレーションのオペレーターたちは責任を持って衛星を運用すると言っているが、Kragは、彼らの意気込みに反して問題が悪化する可能性を危惧している。「失敗したり、破産したりした場合、彼らはどうするつもりなのでしょう? 恐らく宇宙に残された人工衛星の除去費用を出すことはないでしょう」と彼は言う。

宇宙の交通巡査

理論的には、地球周回軌道には十分な空間があり、どの人工衛星も他の物体に接近することなく安全に飛行することができるはずだ。一部の科学者は、全ての宇宙ゴミの位置を高い精度で知ることでこの問題を解決しようと取り組んでいる。宇宙ゴミの位置が厳密に分かっていれば、衝突を回避するために行われている衛星の軌道制御の多くが不要になるはずだ。連邦出資研究開発センター「エアロスペース・コーポレーション社」(米国カリフォルニア州エル・セグンド)の宇宙ゴミの専門家Marlon Sorgeは、「全ての位置が厳密に分かっていれば、問題はほとんどありません」と言う。

この分野は道路や空の交通管理に似ているため「宇宙交通管理」と呼ばれる。テキサス大学オースティン校のアストロダイナミクスの専門家Moriba Jahは、空港の忙しい1日を想像してみてほしいと言う。空には飛行機が数珠つなぎになっていて、慎重に計画された手順に従って短い間隔で離着陸している。航空交通管制官は飛行機の位置を1mの精度で把握している。

宇宙ゴミについては同じことは言えない。軌道にある全ての物体が知られているわけではなく、データベースに記録された物体の追跡精度にはばらつきがある。その上、既知の全ての宇宙ゴミの軌道を正確に列挙した信頼できるカタログは存在しない。

Jahはこの状況を、自分が開発したウェブ上のデータベースASTRIAGraphを用いて実際に示してくれた。ASTRIAGraphは、米国やロシアの政府が維持するカタログなど、複数の情報源に基づいて宇宙にある物体の位置を可視化している。物体の識別子をASTRIAGraphに入力すると、その物体の軌道が紫色の線で描き出される。

しかし、いくつかの物体についてはこれではうまくいかない。その1つが、2007年に打ち上げられたロシアのロケットで、識別子32280を持つ物体だ。Jahがこの数字を入力すると、ASTRIAGraphは2本の紫色の線を描いた。米国とロシアの情報源が、同じ物体について、全く異なる2つの軌道を掲載しているからだ。Jahは、第三の情報源により正確な位置を照合できない限り、どちらが正しいかを知ることはほとんど不可能だと言う。

現在ASTRIAGraphは、宇宙の物体を追跡している主な情報源のうち、一部しか取り込んでいない。米軍のカタログは、公開されているデータベースの中では最大のものだが、ほぼ確実に、機密扱いの衛星に関する情報は除外されている。同様にロシア政府も、多くのデータを非公開にしている。ここ数年で商用の宇宙物体追跡データベースがいくつか登場しているが、そのほとんどがデータを公開していない。

Jahは自分を宇宙環境保護主義者と呼ぶ。「私は宇宙を安全に活動できる場所にしたいのです。未来の世代が自由に利用できるように」。そうなるまでには、宇宙コミュニティーは、あらゆる宇宙飛行オペレーターが共有資源を汚染する「共有地の悲劇(共有の放牧地でそれぞれの放牧者が自分の利益を最大化しようとすると、家畜が増え過ぎて放牧地が荒廃し、結局は共倒れになってしまうこと)」を経験することになるだろう。

宇宙環境保護主義者たちは、少なくとも米国の宇宙政策については前進しつつある。Jahは2017年、連邦議会で宇宙交通管理について証言した。彼を招致したテキサス州選出の共和党のテッド・クルーズ上院議員は、2018年7月に宇宙規制法案を共同で提出した。6月にはドナルド・トランプ大統領も、米国の公的な宇宙ゴミカタログの管理責任を国防省からそれ以外の省庁(恐らく商務省)に移管することを含む、宇宙政策に関する大統領令に署名した。

宇宙政策に関する大統領令は、米国政府の最高レベルで宇宙ゴミについて話し合う、めったにない機会である。いくつかの人工衛星を所有・運用しているマクサ・テクノロジーズ社(Maxar Technologies;米国コロラド州ウエストミンスター)の規制・政策・政府契約部長のMike Goldは、「私たちがこの問題について真剣に話し合うのはこれが初めてです」と言う。

軌道を周回する死者

国際宇宙ステーション(ISS)が2012年に放出した小型人工衛星「キューブサット」。 Credit: NASA

地球の周りの宇宙空間はゾンビだらけだ。軌道上にある全ての物体の約95%が機能していない人工衛星もしくはその破片である。運用中の人工衛星の衝突進路に物体があるという警報が出たとき、オペレーターが飛来する破片がどのくらい危険かを知ることは有益だろう。「軌道上の物体がさらに増えるのに、現在のような不確実な情報しかなかったら、ひっきりなしに警報が出てしまいます」とFruehは言う(ちなみに微小隕石は別の脅威であり、追跡のしようがない)。

迫り来る衝突のリスクを評価するためには、人工衛星のオペレーターは、その物体が何であるかを知る必要があるが、追跡カタログに掲載されている物体には、そうした情報がほとんどないものが多い。このような場合、軌道上の物体を追跡している軍やその他の機関は、衝突予想時刻までの限られた時間の中で、望遠鏡を使って手掛かりを収集する。

Fruehらは空軍と協力して、軌道上の物体についてほとんど何も分かっていなくてもその詳細を迅速に解明できるような手法を開発中だ。例えば、物体が頭上を通過する際に太陽光をどのように反射するかを調べることで、それが回転しているか安定しているかを推論できる。これは、その物体が操作可能なものかどうかを知る手掛かりとなる。彼女のチームは物体の特性を評価するプロセスを高速化する機械学習アルゴリズムの実験も行っていて、2018年9月14日にハワイのマウイ島で開催された宇宙監視技術に関する会合で、この研究について発表した。

軌道を周回する物体が何からできているかが分かれば、その脅威を減らす方法はいくつか考えられる。SF風の提案としては、磁石を使って宇宙ゴミを掃除したり、レーザーを使って軌道上の物体を消したり進路を変えたりする方法がある。9月18日には、RemoveDEBRISというプロジェクトを進めるサリー大学(英国ギルドフォード)の研究者らが、宇宙空間で網を使って試験衛星を捕獲する実験を成功させた。プロジェクトの最終的な目標は、捕まえた人工衛星を大気圏に再突入する軌道に投入することだ。

けれども、軌道上にある物体の多さを考えると、宇宙ゴミをこうした能動的なアプローチで掃除することは、長い目で見ると現実的でないかもしれない。一部の専門家は、受動的なアプローチこそが宇宙ゴミを減らす最善の方法だと考えている。このアプローチでは、太陽と月の重力の共鳴を利用して人工衛星を破壊の経路に移動させる。アストロダイナミクスの専門家であるアリゾナ大学(米国トゥーソン)のAaron Rosengrenは、その方法を開発中だ。

Rosengrenが最初にこの着想を得たのは、中軌道にある人工衛星がどうなるかを調べていた時のことだった。こうした人工衛星は、低軌道の終わりの高度2000kmから静止軌道が始まる高度3万5000kmまでの任意の高度を運動する。

低軌道の人工衛星は大気圏に再突入させて破棄することができるし、それほど混雑していない静止軌道の人工衛星のほとんどは、他の物体と絶対に相互作用しない「墓場」軌道に安置することができる。けれども中軌道では、人工衛星の軌跡は重力共鳴のため長期にわたって不安定化することがある。

人工衛星のオペレーターがこの現象を利用できる可能性を示唆する初期のヒントは、ESAが2002年に打ち上げたγ線宇宙望遠鏡インテグラル(INTEGRAL)からもたらされた。インテグラルは低軌道から中軌道を経て静止軌道まで、長く引き伸ばされた軌道を運動する。そのままならインテグラルは100年以上宇宙にとどまるはずだったが、ESAは2015年にその軌道を微調整することを決めた。ミッションコントローラーはインテグラルのスラスターを数回小さく燃焼させて、重力共鳴の影響を受ける経路に置いた。これにより、インテグラルは数十年後ではなく2029年には大気圏に再突入することになった。

2016年、Rosengrenとフランスとイタリアの共同研究者からなるチームは、中軌道にある物体の振る舞いを決定する、軌道共鳴の高密度の網の存在を示した(J. Daquin et al. Celest. Mech. Dyn. Astr. 124, 335–366; 2016)。Rosengrenは、これが宇宙ゴミの問題を解決するのではないかと考えている。この共鳴の網の中には、中軌道ではなく直接大気圏内に向かう経路がある。オペレーターは、これらの経路を利用して人工衛星を直接大気圏に突入させることができる。「私たちはこれを『共鳴と不安定を利用した受動的廃棄』と呼んでいます」とRosengrenは言う。「もっと気の利いた名前が必要ですね」。

同様のコンセプトは、以前にも他の研究者によって検討されたことがあるが、Rosengrenはこれを主流にしたいと考えている。「宇宙ゴミに関する新しい考え方です」と彼は言う。

人工衛星を宇宙ゴミの高速廃棄経路に乗せるのは、それほど難しくないかもしれない。Rosengrenらは2018年7月にパサデナ(米国カリフォルニア州)で開催された宇宙学会で、米国の軌道上地球物理観測衛星(OGO)に関する1960年代からの分析結果を報告した。科学者たちは、打ち上げの日時をわずか15分変えただけでも、衛星が軌道上にとどまれる期間は大きく変わってくることを見いだした。このような情報は、打ち上げに最適な時刻の計算に役立てることができる。

人工衛星のオペレーターは、クライオサット2の場合のように先を見越して行動することで、将来の問題を大きく減らすことができる。ESAが7月初旬に回避行動を取ることを決めた時、エンジニアたちは緊急に招集されて週末も休まず軌道制御の準備に追われた。ESAの宇宙ゴミ担当の技術者Vitali Braunによると、その後、宇宙ゴミをやり過ごした衛星を通常の軌道に戻すのにも数日かかったという。

警報が止むことはない。その後の数週間、ESAのミッションコントローラーは宇宙ゴミを避けるためにさまざまな衛星を6回以上移動させなければならなかった。2018年8月23日には、打ち上げからまだ4カ月のセンチネル3B(Sentinel-3B)衛星が、初めて宇宙ゴミを回避する動きをした。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181226

原文

The quest to conquer Earth’s space junk problem
  • Nature (2018-09-05) | DOI: 10.1038/d41586-018-06170-1
  • Alexandra Witze
  • Alexandra Witzeは、米国コロラド州ボールダー在住のNature 記者。