Editorial

私の第一声(マグダレーナ・スキッパー)

Nature の編集長という唯一無二の役どころを引き受けることは大いなる栄誉であるのと同時に、大きな責任を伴うものでもあると実感しています。そして、私自身のさまざまな編集経験を生かして、新たな視点で科学コミュニティーに貢献できることに興奮を覚えています。

キャンベル前編集長は離任の挨拶で、Nature の編集長の役割が、傑出した科学研究を支援するという点で一貫していることを改めて表明しました(2018年9月号「離任にあたって(フィリップ・キャンベル)」参照)。私たちは、科学研究の成果を普及させるというNature のミッションを常に核心に据え、社会と世界および科学コミュニティーにとって重要で関連がある顕著な発見が伝わるようにする活動に取り組んできました。

今後も、確立された研究分野・発見だけでなく、従来の研究領域の枠組みにとらわれない、新興の研究分野・発見を発表する場となるためにも、Nature の視野を広げていきます。また、基礎的な発見も最先端の応用も、どちらも同等に論文発表と報道を行えるだけの余地を常に確保しています。そして、科学研究が社会に与える影響を深めるための努力も続けます。

将来の発見は、現在キャリア初期にある研究者がもたらします。私たちはNature を通じて、メンターによる研究者の育成に重要な役割を果たせると確信しています。例えば、メンターによる査読指導の推進で、科学的記録の普及と審査への関わりを深められます。今後の研究は、より膨大なデータに立脚し、負荷の大きな計算を必要とするため、私たちはキャリア初期の研究者の意見を聞き、研究論文の出版に関するニーズに対応したいと考えています。また、Nature のフォーマットが研究要件の不断の発展にさらに適応するための道も模索します。

そして、これからもNature は、研究コミュニティーと協働して、科学研究の再現性と透明性を高めていきます。研究者は、研究を計画する過程とデータを生成、分析する過程の両方で透明性を高めることを目指しています。私たちは、Nature での過程の透明性を向上させたいと考えています。

私がNature 初の女性編集長であることは、かなり取り沙汰されました。これは、ジェンダーの問題だけではなく、研究コミュニティーにおける多様性の向上も反映しています。そして、人間の多様性に付随するのが、優先事項、見解、関心事の多様性であり、そのいずれもが同等に注目を受けるのが当然です。私たちはこれからも、論文著者と査読者、スタッフにおいて全ての集団の意見が平等に反映されるように努力を続けます。協力者の多様性は、Nature に掲載される論文や記事のテーマの多様性も高めます。女性査読者の増員など、かなりの努力が必要なものについても、優先事項として努力を重ねます。

その一方で、生命科学者がNature 編集長に就任したのが私で2番目という事実は、さほど関心を集めていません。私が関心領域を幅広く設定したとしても、特定の視点で科学研究と向き合うのは確実です。遺伝学者の私が見て、前任者(物理学者)の監督下にあったNature に掲載された研究論文の中で最も影響力の大きかったのはヒトゲノム塩基配列の報告であったことに疑いの余地はありません。今後も、私自身の専門分野から遠く離れた分野に関して、同じように影響力の大きな論文が掲載されることを期待しています。

編集長の役割は、オーケストラの指揮者とよく似ています。各記事や論文の背後には、仕事熱心で才能ある専門家がいて、彼らは役割の果たし方を知っています。私としては、この磨き抜かれた専門家たちのパフォーマンスをNature Researchの広範な関連誌でも一層高めていけることが楽しみです。

Nature はあなたの学術誌です。科学コミュニティーなくして論文著者も査読者も読者も存在し得ません。私とNature の一層の貢献のためにもご指導とお力添えをお願いいたします。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2018.181038

原文

A welcome from the new Nature editor
  • Nature (2018-07-05) | DOI: 10.1038/d41586-018-05606-y