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ローマン・コンクリートの耐久性の秘密

Credit: De Agostini / S. Vannini/De Agostini Picture Library/Getty

古代ローマ人が建設したコンクリートの防波堤は、繰り返し打ち付ける波に2000年以上も耐え続けている。今回、ユタ大学(米国ソルトレークシティー)の地質学者Marie Jacksonが率いる国際共同研究チームは、このローマン・コンクリートの長寿命の秘密に迫る手掛かりを得て、2017年7月3日にAmerican Mineralogistに報告した1。構造工学技術分野で今回の知見を用いることで、コンクリートの強度と耐久性を向上できるかもしれないとJacksonは言う。

現代のコンクリートは、水とポルトランドセメント(石灰石と粘土を主成分とする微粉末)を混ぜたペーストを使って砂利などを固めたものだが、特に過酷な海洋環境では数十年で劣化してしまう。これに対して、ローマン・コンクリートは、ポルトランドセメントの代わりに火山灰と石灰の混合物を使って岩石片を固めている。古代ローマの学者、大プリニウスは、水中のコンクリート構造物について『波に耐え、日増しに強くなり、1つの岩の塊になる』と記しており、これがJacksonの興味を引いた。「コンクリートがどのようにして1つの岩になるのか疑問に思ったのです」と彼女は言う。

Jacksonらは以前、ローマン・コンクリートの内部には、アルミニウムトバモライトという希少鉱物が存在することなど、その独特な化学的特徴について報告している2。今回、研究チームは、古代ローマの港湾の防波堤から採取したコンクリート試料をローレンス・バークレー国立研究所(米国カリフォルニア州)の改良型放射光施設(Advanced Light Source)のX線シンクロトロンに持ち込み、試料内の鉱物の位置を詳細に調べた。

その結果、このコンクリートには、火山岩によく見られるフィリップス沸石と呼ばれるケイ酸塩鉱物が存在していて、この鉱物からアルミニウムトバモライトの結晶が成長していることが観察された。コンクリートが海水に洗われてアルカリ度が増したときに、フィリップス沸石からトバモライトが成長するとみられる。こうした結晶化は、自然界では特殊な環境下でしか起こらず、結晶化には数万年かかる。この結晶化が見られるのは、アイスランドのスルツエイ火山など一部の場所のみであり、「この現象は、地中ではめったに起こりません」とJacksonは言う。トバモライトは、成長するにつれコンクリートを強くする可能性がある。というのも、トバモライトは長い板状結晶なので、コンクリートに応力がかかった際に砕けることなく柔軟に曲がるからだ。

古代の知恵を応用する

ローマン・コンクリート内の鉱物の走査電子顕微鏡写真。 Credit: Marie Jackson

現代のコンクリートメーカーは、古代ローマ人の知恵から学ぶことができるかもしれないと、ゲント大学(ベルギー)の材料技術者Nele De Belieは言う。De Belieらは、石炭を燃やしたときに生成するフライアッシュなどの材料を使って、発生した亀裂が自然にふさがる「自己修復」特性をコンクリートに持たせることができたと報告している3。フライアッシュの性質は、古代ローマ人がコンクリートの原料に使った火山灰に似ている。

Jacksonは、実験室でローマン・コンクリートの配合比を再現しようと研究を続ける傍ら、米国西部の火山灰を使ってコンクリートの原料を調合しているネバダ州のセメント会社のコンサルタントを務めている。

「これが日常的なインフラに使用するコンクリートになると言っているわけではありません」とJacksonは言う。「ですが、防波堤のような構造物用途の材料を、古代ローマ人のやり方で石灰と火山灰を調合して作り出せる可能性があります。古代ローマ人がこの方法を思い付いたのは、火山から噴出した灰が結晶化して丈夫な岩になる仕組みを調べたからかもしれません」。

翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170903

原文

Seawater is the secret to long-lasting Roman concrete
  • Nature (2017-07-03) | DOI: 10.1038/nature.2017.22231
  • Alexandra Witze

参考文献

  1. Jackson, M. D. et al. Am. Mineral. http://dx.doi.org/10.2138/am-2017-5993CCBY (2017).
  2. Jackson, M. D. et al. Am. Mineral. 98, 1669–1687 (2013).
  3. Tittelboom, K.V., Gruyaert, E., Rahier, H. & De Belie, N. Constr. Build. Mater. 37, 349–359 (2012).