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音波探査がプランクトンに死をもたらす

動物プランクトンは海の生態系を支える存在であり、音波探査によるプランクトンの死滅は、それらを餌とする魚や、ひいては生態系の頂点に立つ捕食動物にも多大な影響を及ぼすと考えられる。 Credit: D.P. Wilson/FLPA/Minden Pictures/Getty

海洋での天然資源の探査法として広く使われている「地震探査」では、エアガンと呼ばれる装置で圧縮空気を一定間隔で放出して地震波(音波)を発生させ、その反射や伝播速度を計測することによって海底を数千m下まで探ることができる。地震探査のエアガンが発する音波の強さは220~250dBにもなり、これはサターンV型ロケット(アポロ計画でも使われた巨大ロケット)の発射音よりも大きい。こうした海中の爆音が、音を使ってコミュニケーションする鯨類などの海生哺乳類の行動を変化させることは数十年前から知られている1。また、地震探査が魚類2や海生無脊椎動物3に影響を及ぼし得ることを示す証拠も、近年続々と報告されている。そんな中、タスマニア大学(オーストラリア・ホバート)の海洋生物学者Jayson Semmensらは今回、エアガンが発する強力な音波によって動物プランクトンが死滅し、またその影響が音源から1.2kmも離れた海域まで達することを明らかにし、2017年6月22日付でNature Ecology and Evolutionに報告した4。従来の予想では、こうした音波の影響範囲は音源から10m程度と考えられており、今回の結果はそれを2桁以上も上回る。Semmensは、「意外な結果に、みんな唖然としていました」と話す。

実験は、2015年3月にタスマニアの南東沖で行われた。Semmensらは、ソナー調査とプランクトンネットの曳網により、オキアミの幼生やカイアシ類と呼ばれる微小な甲殻類などの動物プランクトンの個体群を、一連のエアガン発震の前後で評価した。その結果、動物プランクトンの個体数は、エアガン発震後1時間以内で64%も減少したことが分かった。さらに、動物プランクトンの死滅率は、エアガン発震後に200~300%増加しており、これらの変化は、今回の研究での最大のサンプリング距離である、音源から1.2kmの海域でも顕著だった。これは、エアガンによる音波の影響が、それよりはるかに広い範囲まで及んでいる可能性があることを示唆している、とSemmensは説明する。

「プランクトンネットの中の死骸は嘘をつきません」と語るのは、デューク大学海洋研究所(米国ノースカロライナ州ボーフォート)の海洋生態学者Doug Nowacekだ(彼はこの研究には関与していない)。Nowacekによると、次なる課題は、今回の結果が海洋生態系に対してどんな意味を持つのか明らかにすることだという。「動物プランクトンの個体群に影響が出始めたら、それが食物網全体に波及するという深刻な事態になりかねません」。

忘れられた存在

今回の研究成果が発表される約2カ月前の4月28日、米国のトランプ大統領は、連邦政府が管理する外縁大陸棚でのエネルギー開発を推進させる大統領令に署名した。これは、オバマ前政権が導入した数々の規制の見直しを命じるもので、そうした規制には、米国海洋大気庁(NOAA)が2016年7月に策定した、人工音が海生哺乳類の聴覚に及ぼす影響を評価するためのガイドラインも含まれる。

今回のタスマニアでの研究では、エアガン発震により動物プランクトンが死滅する仕組みまでは突き止められていない。だがSemmensは、エアガンの発する強力な音波はおそらく、動物プランクトンがナビゲーションに使う、極めて繊細な感覚毛に損傷を与えているのだろう、と推測する。音波が直接動物プランクトンを全滅させるのではなく、方向感覚を失わせて生存しにくくしている可能性があるのだ。

Semmensは現在、実際の地震探査で使われているものと同様の本格的なエアガン装置を用いて、音波の影響が及ぶ範囲を調べる後続研究を計画中だ。彼らはまた、音波が動物プランクトンに及ぼす物理的作用についても明らかにしたいと考えている。現在見直されているNOAAのガイドラインが示すように、エアガン発震の影響に関するこれまでの研究は、主に海生哺乳類を対象に行われてきた。しかしSemmensは、最大の脅威にさらされているのは、もしかすると無脊椎動物なのかもしれないと指摘する。「鯨類にばかり注目していて、視野が狭くなっていたのかもしれません。無脊椎動物は忘れられた存在だったのです」とSemmensは語る。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2017.170908

原文

Air guns used in offshore oil exploration can kill tiny marine life
  • Nature (2017-06-29) | DOI: 10.1038/nature.2017.22167
  • Jeff Tollefson

参考文献

  1. Richardson, W. J., Greene, C. R. Jr, Malme, C. I. & Thomson, D. H. Marine Mammals and Noise (Academic, 1995).
  2. Neo, Y. Y. et al. Mar. Pollut. Bull. 97, 111–117 (2015).
  3. Day, R. D., McCauley, R. M., Fitzgibbon, Q. P., Hartmann, K. & Semmens, J. M. Assessing the Impact of Marine Seismic Surveys on Southeast Australian Scallop and Lobster Fisheries. Project No. 2012–008 (Fisheries Research and Development Corporation, 2016).
  4. McCauley, R. et al. Nature Ecol. Evol. 1, 0195 (2017).