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サメは実はもっと長生きだった

シロワニの寿命はこれまで20年程度と考えられていたが、最大でその2倍生きることが2014年に明らかになった。 Credit: Steve Woods Photography/Cultura/Getty

サメは生態的にも商業的にも重要な魚類だが、絶滅の危機に瀕している種も多い。サメに関する調査を見直した研究から、この頂点捕食者の多くは従来考えられていたよりも長生きであることが報告された。これはつまり、サメ種の絶滅危機の程度に関する見積もりや、サメを保全しつつ捕獲できるかどうかの判断の多くが、不完全なデータに基づいていた可能性があるということだ。

サメの年齢を調べるには、脊椎骨を薄切りにして、透明と不透明の2種類のバンドの対(輪紋)の数を数えるのが普通である。脊椎骨の輪紋は、木の年輪と同じく年齢を示していると思われる場合が多いからだ。しかし、この年齢推定法に問題があることを示唆する事例が増えている。例えば2014年の研究で、寿命が約20年だと考えられていたシロワニ(Carcharias taurus)が、実際には最大でその2倍も生きることが明らかになっている(M. S. Passerotti et al. Mar. Freshwater Res. 65, 674–687)。

この問題が及ぼす影響の大きさを調べるため、ジェームズ・クック大学(オーストラリア・クイーンズランド州タウンズビル)の水産研究者Alastair Harryは、従来の調査がサメの年齢を低く見積もっていないか見直した。その結果から彼は、データが豊富なサメやエイの53個体群のうち、おそらく30%が年齢を低く見積もられていたことをFish and Fisheriesに報告した(A. V. Harry Fish Fish. http://doi.org/cc79)。「現在得られている証拠は、年齢の過小評価がまれな事例ではなく全般的なものであることを示しています」とHarryは話す。「もはやこのことを無視するわけにはいきません」。

寿命の見直し
サメやエイの個体群の多くは、従来の年 齢推定法で見積もられた寿命よりも長く 生きている*。
*データを取った個体群の由来は、ホホジロザメ、マオナガおよびLeucorajaocellataが大西洋北西部、シロワニが南アフリカ、イコクエイラクブカとニシネズミザメがオーストラリア/ニュージーランド。 Credit: SOURCE: A. V. HARRY FISH. FISH. HTTP://DOI.ORG/CC79 (2017)

輪紋はあらゆる魚類の年齢を決定するのに使われており、硬骨魚類では耳石の輪紋を調べることが多い。耳石は内耳にある炭酸カルシウムの塊であり、魚の一生を通じて層を形成していく。だが、軟骨魚類であるサメやエイには耳石がないため、代わりに脊椎骨の切片を調べることが多い。ただし、サメの成長が止まると、脊椎骨の成長も止まる。つまり、脊椎骨の輪紋を数えることで、年齢を実際よりも若く見積もってしまう場合が出てくるわけだ(「寿命の見直し」参照)。

Harryの研究では、これまでの推定年齢が正しいかどうかを調査するため、輪紋で年齢を見積もる2つの測定法に着目した。すなわち、化学的な刻印法と、核実験起源の放射性炭素を利用した年代測定法である。前者の方法では、動物個体に蛍光色素を注入する。色素は脊椎骨に取り込まれて永久的な刻印となり、その動物個体を再捕獲した際に、色素取り込みの時点から輪紋がいくつ形成されたかを数えるのである。後者の方法では、1950年代の核実験の痕跡を個体標本で調べ、同様に輪紋から年齢を見積もる。

Harryは「実にいい仕事」をしたと、アイスランド大学(レイキャビク)のサメ研究者で、サメ・エイ類や硬骨魚類の100件以上の年齢研究に携わってきたSteven Campanaは話す。「私は彼の結論に完全に賛同します」。

今回の研究はさまざまな方面に影響を及ぼすものだ。成長や死亡率、繁殖といった重要な過程は年齢とともに変化する。もし年齢情報が誤っていれば、保全に支障のない漁獲個体数を決めるための指針となるモデルも誤ったものとなる。寿命がより長いほど、成熟して繁殖を開始する年齢はより遅くなり、そのため、絶滅の脅威に対して従来の想定よりも脆弱になる可能性がある。また逆に、寿命がより長ければ繁殖の年数も長くなって、個体群は絶滅しにくくなるかもしれない。そうした影響はまだ明らかにはなっていないが、「総体的に見て負の影響が出ると思います」とHarryは話す。

翻訳:船田晶子

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171216

原文

Sharks can live a lot longer than researchers realized
  • Nature (2017-09-21) | DOI: 10.1038/nature.2017.22626
  • Daniel Cressey