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宇宙用のお役立ち酵母

宇宙旅行は身軽でなければならない。持っていく食料が少しでも多くなるとロケットの足を引っ張る上、必須の食料の中には米航空宇宙局(NASA)が計画している火星ミッションのような長期間の旅の間に悪くなってしまうものもあるだろう。だが、これを回避する独創的な方法が開発されている。その一例が、宇宙飛行士の尿と息の再利用だ。

「ミッションが長期になるほど、宇宙飛行士が出す排泄物は多くなります。問題は、この排泄物をどうするかです」と、クレムソン大学(米国)の化学工学者で合成生物学者のMark Blennerは言う。Blennerらは、排泄物を地球に持ち帰るのではなく、酵母によって必須栄養素に転換できることを示した。さらにはプラスチックにして道具を作ることもできる。

藻類などの遺伝子を酵母に導入

研究チームは、パン酵母の近縁種であるYarrowia lipolyticaが人間の尿の成分を食べて生きていけることを見いだした。またこれとは別に、人間の息に含まれる二酸化炭素を炭素分の多い栄養素に変換する藻類を育てた。この栄養素を酵母が脂肪酸に変える。Blennerらは藻類と植物プランクトンの複数の遺伝子を酵母のゲノムに組み込み、これらの脂肪酸をオメガ3脂肪酸(人間の心臓や眼、脳の健康に重要な物質)に“グレードアップ”する酵母を作った。また、別のY. lipolytica株の脂肪酸生成経路を改変し、ポリエステル樹脂を作り出した。このポリエステルは宇宙での3Dプリンターによる道具作りに使えるだろう。一連の成果は2017年8月の米国化学会で発表された。

「酵母はこの種の革新的研究に適した偉大な生物です」とNASA先進探査システム部門の技術統括を務めているJitendra Joshiは言う。

今後は、この酵母が宇宙の低重力・高放射線環境下でも同様に増殖して有用物質を生産できることを実証する必要がある。だがBlennerは楽観的で、将来の宇宙飛行士は「酵母をフレキシブルな製造プラットフォームとして利用することになるでしょう」と期待している。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171208b