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ウミヘビが縞模様を捨てた理由

カメガシラウミヘビの縞模様の暗色部分に含まれるメラニン色素は、汚染物質と結合する。 Credit: Klaus Stiefel

汚染された環境で、動物の暗色個体が自然選択において有利となる現象を「工業暗化」という。この現象は、煤煙による大気汚染が深刻だった19世紀後半の産業革命期に、英国でオオシモフリエダシャク(Biston betularia)というガの暗化が急速に進んだことで知られるようになったもので、目に見える自然選択の例として教科書で取り上げられることも多い。工業暗化は他にもいくつかの動物で報告されているが、今回新たな研究で、そのリストにカメガシラウミヘビ(Emydocephalus annulatus)が加わった1。都市の近くに多く見られる暗色個体は、外皮のメラニン色素で有害な微量元素を捕らえ、脱皮を頻繁に行うことで、これらの有害元素を効率よく体外に排出していることが明らかになったのである。この結果は、8月10日付でCurrent Biologyに報告された。

シドニー大学(オーストラリア)の進化生態学者Rick Shineは、数十年にわたり、南太平洋のニューカレドニア島南岸にある都市ヌメアの数々の湾でシュノーケリングを行い、カメガシラウミヘビの研究を進めてきた。このウミヘビはインド太平洋に広く分布するが、異なる海域で調査を続けるうち、Shineはある興味深い事実に気付いたという。一部の個体群ではほとんどの個体が全身真っ黒だったのに対し、別の個体群では淡色の縞模様や白い斑点模様のある個体が大半を占めていたのだ。

一方、Shineの調査を時々手伝っていたニューカレドニア大学(ヌメア)の海洋生物学者Claire Goiranは、2014年、ハトの体色に関するある研究論文2を目にする。それは、フランスのパリ近郊に生息するカワラバト(Columba livia)を対象に、一帯の主要な環境汚染物質である亜鉛と鉛の羽毛に含まれる量を調べたもので、メラニン色素をより多く持つ暗化した個体の羽毛の方が、メラニン色素の少ない明色個体の羽毛よりも有害金属を多く含むことが示されていた。メラニン色素は金属と結合しやすいことから、この結果は、汚染地域に生息する動物たちが、羽衣や外皮といった更新可能な体の部位にメラニンで有害な金属を「固定」し、換羽や脱皮を通してそれらを体外に排出することで、選択的優位性を獲得している可能性を示唆していた。

そこで、GoiranとShineは共同で、それがウミヘビにも当てはまるのかどうか調べることにした。2人によれば、ヌメアを取り囲む礁湖には、近隣の鉱山からの廃水によって汚染されている場所がいくつもあるという。

明暗の差

黒色のカメガシラウミヘビ(左)は汚染された海域に多く存在する一方、白黒の縞模様のカメガシラウミヘビ(右)は汚染度の低い海域に生息する傾向がある(いずれも脱皮中の個体で、本来の体の色は頭部に見ることができる)。 Credit: Claire Goiran

研究チームはまず、Shineが13年間にわたって収集したデータを中心に、ニューカレドニアとオーストラリアの環境の異なる15の区域に由来する、計1456個体分のカメガシラウミヘビの体色データを比較した。その結果、暗色個体は、都市工業区域で顕著に多かったのに対し、非工業区域ではわずかであることが分かった。非工業区域でもオーストラリアの2つの海域で暗色個体が多かったが、それらは爆撃訓練に用いられている海域と、漁船による汚染が深刻でウミヘビの生息数が激減していると考えられている海域だった。

次に、カメガシラウミヘビの脱皮殻に含まれる微量元素の濃度を測定したところ、パリ近郊のカワラバトの例と同様、調べた13種類の元素全てが、都市工業区域に生息する個体の脱皮殻に高濃度で含まれていた。

さらに、同じくニューカレドニアの都市工業区域と非工業区域の両方に生息し、鮮やかな縞模様を持つエラブウミヘビ属の2種、キマダラウミヘビ(Laticauda saintgironsi)とヒロオウミヘビ(L. laticaudata)の脱皮殻を調べたところ、亜鉛や鉛などの5種類の微量元素が、明色の縞よりも暗色の縞にはるかに多く含まれていることが分かった(これらのエラブウミヘビとカメガシラウミヘビとでは含まれる微量元素の濃度に大きな違いは見られなかった)。注目すべきことに、こうした差は、同一個体の脱皮殻の明色部分と暗色部分の間でも顕著だった。Goiranによれば、これらのウミヘビは、海底で餌を食べる際に、堆積物中の汚染物質を体内に取り込んでいる可能性があるという。

また、カメガシラウミヘビの脱皮に関する長期データからは、暗色個体の方が縞模様の個体よりも高頻度で脱皮することも明らかになった。「脱皮が汚染物質の除去メカニズムになっているのだとすれば、生存に有利になるでしょう」とShineは話す。

不幸な「適応」

デンマーク王立芸術アカデミー(コペンハーゲン)の爬虫類学者Arne Rasmussenは、「外皮の暗色部分に汚染物質が多く含まれているという結果は、問題なく受け入れられます」と話す。しかし彼は、汚染区域に暗色の個体が多いのは汚染が原因だと結論付けてしまうのは、行き過ぎではないかと指摘する。暗色個体と縞模様の個体の分布の違いについては、水温など別の要因によって説明できる可能性もあるというのだ。過去の研究では、暗色のヘビが冷涼な地域に生息する傾向があることが見いだされている。

これに対しShineは、そうした研究のことは十分承知しており、自分でも温度と体色の関係についての研究を行ったことがあると話す。Shineによれば、陸上では暗色の外皮が熱の吸収に有益となるが、そうした優位性は水中では当てはまらないのだという3。縞模様であるか暗色であるかによらず、水はウミヘビにとって体温を保つための断熱材として機能するからだ。

Rasmussenは、個人的な経験とした上で、ヌメア近海以上に汚染された海域で黒いウミヘビと縞模様のウミヘビの両方を見たことがあると話す。そうしながらも、「ウミヘビの体色を使ってその海域の汚染度を知ることができるとすれば、それはすごいことです」と彼は言う。

だがそれは、そもそもウミヘビが汚染に適応しなければならなかった事実に目を向けることにはならない、とShineは反論する。脱皮による汚染物質の除去は有益かもしれないが、そうした機能にも限界はあり、際限なく個体群を守れるわけではないからだ。

それでも、「急速な進化という点では期待が持てる話です」とShineは続ける。「人類が引き起こした問題に対処すべく生物が編み出した、また別の道筋がここにあるのですから」。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171002

原文

Sea snakes lose their stripes to deal with pollution
  • Nature (2017-08-10) | DOI: 10.1038/nature.2017.22441
  • Rachael Lallensack

参考文献

  1. Goiran, C., Bustamante, P. & Shine, R. Curr. Biol. 27, 2510–2513 (2017).
  2. Chatelain, M., Gasparini, J., Jacquin, L. & Frantz, A. Biol. Lett. 10, 20140164 (2014).
  3. Shine, R., Shine, T. & Shine, B. Biol. J. Lin. Soc. 80, 1–10 (2003).