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「葉の形」の巨大データベースが完成

Credit: DAN CHITWOOD

植物の来歴、つまり生まれ育った環境は、葉に刻まれている。水の豊富な低温環境下の樹木は、葉縁部に鋸歯の多い大型の葉を持つことが多い。しかし、同じ種が温暖な乾燥地域で生育した場合、葉は比較的小型で、葉縁部も滑らかな形になる場合が多い。このほど、植物の来歴を読み解く際に役立つと期待される「葉の形状」データベースが完成した。このデータベースには、世界各地75カ所の植物141科の葉18万2000点の形状が記録されている。

このデータベースを作成したのは、かつてドナルド・ダンフォース植物科学センター(米国ミズーリ州)に所属していた植物形態学者、Dan Chitwoodが率いる研究チームだ。研究チームはこのデータベースを使って、葉の形状の情報のみで、葉の採集場所を14.5%の確率で、植物の科を27.3%の確率で、的中させることができたという。これは既存の方法による予測よりもはるかに正確だ。この研究成果は2017年6月20日、プレプリントサーバーbioRxivに投稿された1。Chitwoodはまた、2017年6月27日に米国テキサス州フォートワースで開催されたBotany 2017の大会でもこの結果を発表した。

この方法は、植物の葉を形成する力をより深く理解するのに役立つだけではない。化石化した植物の形状から、太古の気候を垣間見ることもできるかもしれないと、研究チームは期待する。ベイラー大学(米国テキサス州)の古植物学者Dan Peppeは、「これは驚くべきデータセットです」と語る。「我々は、葉形計測の自動化と、それを利用した植物分類の判定および気候の推測という目標実現にぐんぐん近づいています」。

研究チームは、「パーシステントホモロジー」と呼ばれるトポロジーの概念を用いた手法で、葉の形状を解析した。この手法では、画像中の1つ1つの画素に対して、周囲の画素の密度に応じた数値を割り当てる。研究チームはまず、各葉を16区画に分割し、数値のパターンを解析した。次いで、得られた葉形のカタログを利用して、分類学的、地理的な関係を探った。

今回発表された手法を自分たちの研究に応用したいと考える研究者は多い。例えばウィーン大学(オーストリア)の植物形態学者Yannick Städlerは、花のX線画像の解析をする際、この手法によって、従来の形態学的方法の障害を克服できる可能性に期待している。従来の手法の大半では、画像上に標認点(種をまたいで出現する構造上の点)を設定する必要があったのだ。

標認点を用いる方法は、動物の形態解析にはおおむね効果的だという。2つの骨が接する点や、目尻、鼻の頭など、明確な標認点がある場合が多いからだ。しかし、花は表面が滑らかで湾曲している場合が多く、特定の標認点を決めるのが難しい。「このことは、葉や花の解析に立ちはだかる大きな障壁でした。そのせいで前に進めなかったのです」とStädlerは話す。しかし、衰退の傾向にあった植物形態学の分野は、息を吹き返しつつあるという。今回のような手法に「遺伝学的なデータを加えることによって、この分野の未来は、さらに明るいものになることでしょう」とStädlerは話す。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2017.171011

原文

Massive database of 182,000 leaves is helping predict plants' family trees
  • Nature (2017-07-13) | DOI: 10.1038/nature.2017.22230
  • Heidi Ledford

参考文献

  1. Li, M. et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/b9gj (2017)