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細菌から新しい遺伝子カッター発見

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160117

原文:Nature (2015-10-01) | doi: 10.1038/nature.2015.18432 | Bacteria yield new gene cutter

Heidi Ledford

CRISPR系を持つ細菌に、CRISPR/Cas9系の難点を解消し得る新酵素が見つかった。

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dla4/istock/thinkstock

CRISPR/Cas9による遺伝子編集技術は遺伝学研究に大変革をもたらしつつある。科学者はこれを利用して、作物や家畜はおろか、ヒトの胚にまで手を加えており、疾患の新たな治療法が得られる可能性もある(Nature ダイジェスト 2015年7月号「ヒト胚ゲノム編集の波紋」参照)。このたび、この技術の先駆者の1人であるブロード研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の合成生物学者Feng Zhangを中心とする研究チームは、CRISPRをさらに簡単で正確なものにし得る新しい酵素を発見し、2015年9月25日にCellに報告した1。Cpf1と呼ばれるそのタンパク質は、1本のDNA配列を別の配列と入れ替えることにより、CRISPRが遺伝子を無力化する能力を損なうことなく、遺伝子の編集を容易にすると考えられる。

CRISPR/Cas9系は、細菌やアーキアが細胞内に侵入するウイルスから身を守るために進化させてきた防御システムだ。さまざまな細菌やアーキアは、自身の「ガイド」RNA鎖と結合するウイルス配列を捕まえ、Cas9と呼ばれる酵素を利用してウイルスDNAを切断しているが、今やCRISPR/Cas9系は、これら以外の生物ゲノムを自在に改変できる最強の分子生物学的ツールとなっている。ゲノム切断部位は細胞の通常のプロセスで修復されるため、それを利用して標的遺伝子を破壊したり特定の配列を挿入したりすることができるからだ。

CRISPRはそれ以前の遺伝子編集法よりもはるかに簡単だが、Zhangはなお改善の余地があると考え、Cas9酵素の代替物を発見しようと細菌界を探索した。2015年4月には、黄色ブドウ球菌という細菌にもっと小型のCas9を見いだしたことを報告した2Natureダイジェスト 2015年7月号「より小さなCas9酵素を発見」参照)。この酵素はヒトの遺伝子治療に用いる一般的なベクターに組み込むのが容易なサイズで、成熟細胞を標的とした遺伝子治療の開発に役立つ。

Cpf1は、Cas9とは似ても似つかないタンパク質だが、CRISPR系を利用する細菌にはこれを持つものがある。そこで研究チームは、16種類の細菌のCpf1酵素を評価し、最終的には、ヒトのDNAを切断することができるものを2つ発見した(アシダミノコッカス属種およびラクノスピラ属種のCpf1)。

Cpf1とCas9では、働き方にも興味深い違いが発見された。DNAを切断するのにCas9が2分子のRNAを必要とするのに対し、Cpf1に必要なのは1分子だけだ。「両タンパク質はDNAを切断する場所も異なるため、編集部位の選択の幅が広がる」と説明するのは、ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)のエピジェネティクス研究者Luca Magnaniだ。

そして、Cpf1はDNAの切り方も異なる。Cas9はDNA分子の両方の鎖を同じ場所で切断するため、分子生物学の世界で平滑末端(ブラントエンド)と呼ばれる切り口が残される。それに対してCpf1は、一方の鎖をもう一方よりも長く切り残した粘着末端(スティッキーエンド)を生じる。平滑末端には、DNA配列がどちらの鎖に挿入されるか定まらないという難点があるが、粘着末端に対合するのは相補的な粘着末端だけだ。

Zhangによれば、「粘着末端にはDNAの挿入を制御する情報が備わっている」といい、工程が管理しやすくなっている。

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Zhangらは現在、この粘着末端を利用して、天然のDNA配列が置換される頻度を向上させようと試みている。Cas9による切断では、2つの切り口をつなぎ直して修復が行われる傾向があり、それによってエラーが生じることがある。細胞がその部位で指定の新配列を挿入することもあるが、効率はかなり低い。Zhangは、Cpf1の独特の性質を利用すれば、外来遺伝子の挿入頻度を高めることができるのではないか、と期待している。

アイオワ州立大学(米国エイムズ)の植物生物学者Bing Yangにとっては、これがCpf1の最大の魅力だ。「効率の向上は植物科学にとって大きな一歩になるでしょう。今はそれが大きな課題なのです」とYangは話す。

この新しい酵素への支持はCas9を越えるようになるのだろうか。「それはまだ分かりませんが、たしかに明確な長所はあります」とZhangは言う。CRISPR/Cas9法は極めて好評で、高い収益性が期待されるため、特許をめぐってカリフォルニア大学バークレー校(米国)とブロード研究所(およびそれにつながるマサチューセッツ工科大学とハーバード大学)との間に激しい対立を引き起こした。Zhangによれば、彼の研究室は、CRISPR/Cas9ツールのときのように、学術研究者がCRISPR/Cpf1の構成要素を利用できるようにする考えだという。

Cpf1を使ったゲノム編集の成果は今のところ上々で、細菌が進化させたゲノム編集法には学ぶべきことが多い、ということを示す良い証拠となっている。最新の研究でZhangに協力したワーヘニンゲン大学(オランダ)の微生物学者John van der Oostは、新しい方法の探索を続ける予定だという。「このような系の1つがゲノム編集に適するかどうかは全く分かりません。行く手にはまだ驚きが待ち構えているのです」とvan der Oostは語る。

訂正:第4パラグラフに、当該記事とは関係のない野兎病菌の名称がございました。正しくは、アシダミノコッカス属種およびラクノスピラ属種由来のCpf1です。訂正し、お詫び申し上げます。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Zetsche, B. et al. Cell 163, 759–771 (2015).
  2. Ran, F. A. et al. Nature 520, 186–191 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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