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欧州最古の現生人類化石、4世代前にネアンデルタール人と混血か?

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150702

原文:Nature (2015-03-13) | doi: 10.1038/nature.2015.17534 | Early European may have had Neanderthal great-great-grandparent

Ewen Callaway

ルーマニアで出土した4万年前の下顎骨のゲノムが解析され、この現生人類の4~6世代前の祖先にネアンデルタール人がいたことが分かった。これまで混血が起こったのは中東でのみだと考えられていたが、 今回の研究結果で欧州においても起こっていた可能性が高まった。

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REF 1- PNAS

2015年5月8日、米国ニューヨーク州コールドスプリングハーバーで行われたゲノム生物学会議で、2002年に欧州で出土した既知最古の現生人類化石の中に、ネアンデルタール人の祖先を高祖父母程度の近い世代に持つ人がいたことが報告された。これまでは、現生人類とネアンデルタール人の混血は5万年以上前の中東でのみ起こったと考えられてきたが、この見方に疑問が投げ掛けられた形だ。

ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)の古ゲノム学者Qiaomei Fuはこの会議で、欧州における最古の現生人類化石のうちの1つである下顎骨についてDNA塩基配列を解読した結果を発表した。それによれば、骨の主は男性で、ネアンデルタール人に由来するゲノムの割合は5~11%と推定されるばかりか、複数の染色体にネアンデルタール人由来の長く連続した配列が見られるという。研究チームは、受け継がれたDNAが世代を経るごとにどの程度短くなるかを分析した結果を基に、この男性の4~6世代前にネアンデルタール人の祖先がいたと推定した(論文が学術誌への掲載前であるため、発表者はコメントを控えている)。

さまざまなメッセージ

今回のDNAの解析結果は、この男性の下顎と付属する歯の形状に現生人類とネアンデルタール人の特徴が混在しているという2003年来の主張を裏付けるものだ。例えばその智歯(第3大臼歯)は、ホモ・サピエンスと比較してはるかに大きい。この下顎と歯の解剖学的な分析を以前に行った1ワシントン大学(米国ミズーリ州セントルイス)の古人類学者Erik Trinkausは、Fuらの論文をすでに読んでおり、今回の報告について「解剖学的な知見と遺伝学的な知見の間に相関性のあることが、ある程度裏付けられたといえるでしょう」と話す。 この下顎骨の化石は、2002年に洞窟探検隊によって発見されたルーマニアのペシュテラ・ク・ワセ(Peştera cu Oase;「骨のある洞窟」の意)と呼ばれる洞窟で、クマの骨化石と共に発見された。「洞窟へ入るには、スキューバダイビングで地下河川を通るしかありません」とTrinkausは言う。

彼はまた、同じ洞窟内で翌2003年に発見された別人の下顎と頭蓋も分析しており、その特徴から、この化石群が人類とネアンデルタール人の混血が起こったばかりのものだと主張してきた。Fuのデータが彼の以前からの主張を支持するものであることは心強いという。「だから言ったでしょう、と言うつもりはありません」とTrinkausは話す。

人類がネアンデルタール人と出会った時期

サハラ以南アフリカ地域の人類を単一祖先とする人を除き、全ての人は、ネアンデルタール人のDNAをゲノム全体の約1~4%保有している。その理由について長らく研究者たちは、現生人類とネアンデルタール人の混血が起こったのは約6万~5万年前で、アフリカを出た初期人類は、当時中東のどこかに居住していたネアンデルタール人と出会って混血し、その後、アジアや欧州をはじめとする世界各地へと散らばっていった可能性が高いと考えていた。

その仮説は、2014年に発見された複数の証拠によっても支持されていた。1つ目は、Fuも参加する研究チームが、シベリアで出土した4万5000年前の現生人類のゲノムを解析した結果である(Nature ダイジェスト 2015年1月号7ページ参照)。その人物のネアンデルタール人の祖先の年代は、6~5万年前(現生人類がアフリカから移動し始めたと考えられる時期)であることが示されていた2。もう1つは、別のチームがイスラエルの洞窟で発見した、5万5000年前の現生人類の頭蓋骨破片である(Nature ダイジェスト 2015年4月号10ページ参照)。この洞窟は、同時期にネアンデルタール人が居住していた場所からそう遠くない地点にある3

一方で、欧州大陸各地で出土した骨化石の放射性炭素年代測定結果から、欧州の一部地域では最長で5000年にもわたって人類とネアンデルタール人が共存していたことが示唆されている。両者が遭遇して混血するには十分な時間だったと考えられる4

交わりの頻度

Fuの発表に立ち会ったスタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の古ゲノミクス研究者María Ávilaによれば、下顎のデータは、混血が中東だけではなく欧州でも起こったことを意味するという。「つじつまも合うのです。特定の地域に限定する必要はありますか?」。Ávilaは、ペシュテラ・ク・ワセの男性のゲノムにあるネアンデルタール人の部分を、ネアンデルタール人のゲノムおよび現代人に見られるネアンデルタール人ゲノムと比較し、それらの塩基配列にどれだけ近いかを明らかにしてほしい、と話す。しかし、抽出されたDNAは損傷が激しいため、思うようにはいかないかもしれない。Ávilaは、「そうした素晴らしい研究をやり抜くためのデータがどの程度あるのか、見当もつきません。たくさんあってほしいですね」と付け加えた。

Trinkausは今回のFuらの結果について、あくまでも一男性の系統を示すものであり、当時の人類全体に共通したものではない、と指摘する。欧州で初期人類とネアンデルタール人とがどの程度の頻度で混血したのかは不明だ。ネアンデルタール人は約3万5000年前に絶滅したとされているため、それ以前の他の現生人類化石からDNAを回収できれば、欧州大陸の歴史の全容に迫ることができるかもしれない。

「私のキャリアは、なぜ現生人類が最終的にネアンデルタール人よりも繁栄したのかを解き明かす試みから始まりました。40年前の話です」とTrinkausは言う。「いまだによくは分からないのですが」。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Trinkaus, E. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 100, 11231–11236 (2003).
  2. Fu, Q. et al. Nature 514, 445–449 (2014).
  3. Hershkovitz, I. et al. Nature 520, 216–219 (2015).
  4. Higham, T. et al. Nature 512, 306–309 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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