Editorial

ダブルブラインド査読選択制の運用開始

Credit: THINKSTOCK

Natureおよび月刊のNature関連誌では、2015年3月より、従来の査読に加え「ダブルブラインド査読」を選択できるようになりました(Nature Communicationsは2015年後半に導入予定)。

これまで私たちが実施してきた査読方式はシングルブラインド査読と呼ばれており、査読者の匿名性は守られている一方で、論文投稿者の素性(氏名や所属機関など)は査読者に明かされます。一方、ダブルブラインド査読方式では、査読者と論文投稿者がお互いの素性を知らない状態で査読を行います。

従来の査読方式に代わる方法はこれまでに数多く提案されており、論文著者と査読者の氏名が公表される「完全オープン査読」方式もその一つです。この方式の支持者は、透明性の高さから、丁寧な言葉遣いで書かれた心のこもった査読コメントを増やす1手段となり得ると考えていますが、査読者の批判的な姿勢が鈍ることを懸念する声もあります。一方、ダブルブラインド査読の支持者は、この方式により論文投稿者のジェンダー、年齢、名声、所属機関といった、査読者の個人的な偏見の要因となり得る情報を取り除くことができると考えています。

オープン査読もダブルブラインド査読も学術出版で既に幅広く用いられていますが、いずれが優れているのかという点に関して意見の一致はありません。Natureは、2006年にオープン査読の実験的運用を行いましたが、オープン査読を選んだ論文投稿者と査読者は少なかった上、査読結果に技術的妥当性は認められませんでした。しかし、ジャーナル数誌が現在も実験を続けており、この方式に対する見方は変わっていくと考えられます。これに対して、ダブルブラインド査読に対する意見は一貫しています。

2009年に4000人以上の研究者を対象に、査読に関する国際的かつ分野横断的な大規模調査が行われました。その結果では、ダブルブラインド方式が有効な査読方式だと答えた人が全回答者の76%を占めました(オープン査読支持は全体の20%、シングルブラインド査読支持は全体の45%)(A. Mulligan, L. Hall & E. Raphael J. Am. Soc. Inf. Sci. Technol. 64, 132–161; 2013)。またNatureが独自に行った調査でも、ダブルブラインド査読の支持率が高いことが確認されました。また、Natureの編集者による聞き取り調査で、世界の若手研究者たちの意見もこれと同調するものであることが分かりました。この結果には大きな意味があります。論文著者の素性に基づく偏見がシングルブラインド査読に影響を及ぼす、という見方が広く存在していることが実証されたからです。

これまでNatureとNature関連誌の編集者は、ダブルブラインド査読に反対する姿勢を示してきました。その理由として、編集者自身がこの方式の有効性に懐疑的であることや、レフェリーの採用難が懸念されること、また、偏見を取り除くのは編集者の任務だとする見解があることなどが挙がっていました。編集者1人1人はこれからも、偏見をなくすという任務に真摯に向き合い、査読者を注意深く選定し、ご意見に耳を傾けていきます。また、選択された査読法のいかんにかかわらず、論文投稿者から特定の査読者の排除要請があり、それが合理的な場合には、今後も対応していきます。ただし、当然のことながら、無意識の偏見を発見し、排除することには困難が伴うと考えられます。特にジェンダーに対する無意識の偏見は、例えば、研究所職員の採用、引用論文の好みや傾向、学会での講演者の人選などで確認されているという研究報告があります。

Nature GeoscienceNature Climate Changeでは、2013年6月以降ダブルブラインド査読を選ぶことが出来るようになりました。しかしながらその選択率は、これらジャーナルの月間投稿数の約20%にとどまっています。また、査読の質に対する目立った影響も現時点では確認されていません。それでも、調査に参加した論文投稿者は、両誌での実験的運用に対して好意的な反応を示しています。私たちは議論を重ねた結果、Natureと月刊のNature関連誌での、ダブルブラインド査読選択制の運用開始を決定するに至りました。

ダブルブラインド査読を選択した場合、論文原稿を匿名化する責任は論文投稿者が負います。特に小規模で専門性の高い研究分野では、論文投稿者の匿名性を守れない場合があります。また、学会での発表やプレプリントサーバーへの登録によってデータを早期に公開して論文発表前に議論をしたい、と考える方もいることでしょう。それを支援する施策も引き続き推進していきますが、匿名性が損なわれる可能性があります。ダブルブラインド査読が論文投稿者の選択に委ねられている理由はそこにあります。

ダブルブラインド査読の運用については今後も検討を続けます。また、関係者皆様のご意見も歓迎しています。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2015.150534

原文

Nature journals offer double-blind review
  • Nature (2015-02-19) | DOI: 10.1038/518274b