News

ネアンデルタール人と現生人類は隣り合って生活していた

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150410

原文:Nature (2015-01-29) | doi: 10.1038/517541a | Neanderthals gain human neighbour

Ewen Callaway

イスラエル・マノットの洞窟で、約5万5000年前の新人型ホモ・サピエンスの頭骨が初めて発見された。この年代の中東にはネアンデルタール人が先住していたことが化石から示されており、彼らが共存していた可能性が高まった。

イスラエルで発見された約5万5000年前の頭骨断片は、ネアンデルタール人と混血した人類集団のものかもしれない。アマチュアの洞窟探検家が洞窟の奥深くで発見したその頭骨断片は、ホモ・サピエンス(現生人類)がアフリカから欧州へと渡った旅に関する化石記録の中で大きな空白部分を埋めるものでもある。

その詳細は、2015年1月28日にNature電子版に掲載された1。この研究の中心となったIsrael Hershkovitzは、「これでネアンデルタール人の隣に生きていたホモ・サピエンスの頭骨を現実に確保することができました。もしかするとこの人は、ネアンデルタール人との混血が可能な人だったのかもしれません」と話す。Hershkovitzは、テルアビブ大学(イスラエル)の自然人類(形質人類)学者だ。

この「スカルキャップ(頭蓋冠)」は、現生人類がアフリカの外へ広がったときにたどった道筋の空白を埋めるものだ。

FROM I. HERSHKOVITZ ET AL. NATURE HTTP://DX.DOI.ORG/10.1038/NATURE14134 (2015)

イスラエルのガリラヤ湖付近にあるマノット洞窟。内部に通じる入り口は、2008年に土地開発工事のブルドーザーが偶然発見した。

ISRAEL HERSHKOVITZ, OFER MARDER & OMRY BARZILAI

ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)、ならびに古代および現代のホモ・サピエンスのゲノムに関する研究では、両種が6万~5万年前に中東のどこかで混血したことが示唆されている2。しかし、この説には弱点があった。ホモ・サピエンスがアフリカを出発してから欧州とアジアに定住するまでの重要な期間に生存していた解剖学的現生人類(訳注:現代型ホモ・サピエンスと同様の骨格形態特徴を有する人類のこと)の遺骨が、中東で発見されていないことだ。

2008年、イスラエル北部のガリラヤ湖付近を開発するために土地を切り開いていたブルドーザーが、1万5000年以上にわたって封鎖されていた鍾乳洞の入り口を発見した。最初にその洞窟に立ち入ったのはアマチュアの洞窟探検家たちで、探検チームは岩棚の上にあった割れた骨を発見した。それは人骨で、頭骨の上部であった。イスラエル考古学庁はすぐにマノット洞窟の全面的な調査を開始し、埋もれた石器を複数地点から発見した。発掘は今なお続けられている。

Hershkovitzによれば、その頭骨は初期のアフリカ人や後の欧州人に形が似ており、間違いなくホモ・サピエンスのものだという。その骨片を覆っていた方解石のパチナ(薄層)に含まれる放射性ウランから、骨が約5万5000年前のものであることが分かった。この結果は、「マノットの人々が前期旧石器時代の欧州人集団の祖先と考えられる」ことを意味する、とHershkovitzは言う。

マノットの人々は、ネアンデルタール人と混血した人類の最有力候補でもある。その混血のおかげで、現在の全ての非アフリカ人には、ネアンデルタール人のDNAが少しずつ残されている。マノット洞窟は、年代の近いネアンデルタール人の骨が発見された別の2カ所の遺跡からそれほど離れていない。「レバント地方南部は、解剖学的現生人類とネアンデルタール人が何千年にもわたって隣り合わせに居住していた唯一の場所です」とHershkovitzは語る。今回発見された頭骨のDNAにネアンデルタール人の血統が含まれることが見いだされればこの上ない証拠になるのだが、この地域の気候は温和なため、古代のDNAが保存されている可能性は低いと考えられる。

マックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ・ライプチヒ)の古人類学者Jean-Jacques Hublinも、その骨片からDNAが回収される可能性は極めて低いと考える。しかし、発掘が進むことで、DNAの残存に十分な低温環境に置かれていた人骨が見つかることを期待しているという。こうしたものがもし発掘されて、マノットの頭骨と石器のような日常生活上の遺物が結び付くようなことがあれば、マノットの頭骨と初期欧州人とのつながりを強く裏付けることができるかもしれない。ただ、これまでに発見されている人工物は、頭骨よりもはるかに新しいものと考えられている。「頭骨は手にしましたし、考古学的遺物が存在する遺跡もあるのですが、頭骨と遺物の間に関係がないのです。ちょっとじれったいですね」とHublinは悩む。

チービンゲン大学(ドイツ)の古人類学者Katerina Harvatiは、「この標本は本当に重要で素晴らしいものです。測定結果の年代が正しいことが前提ですが、現生人類がネアンデルタール人と同じ時期に近東に存在したことを初めて示したのですから」と評価する。また彼女は、「これまで、この年代にこの地域で両種が共存していたことさえ、裏付ける証拠はありませんでした。従って、マノットで発見された頭骨はパズルの重要なピースなのです」と語る。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Hershkovitz, I. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature14134 (2015).
  2. Fu, Q. et al. Nature 514, 445–449 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度