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壮大な鳥類系統樹が完成

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150309

原文:Nature (2014-12-18) | doi: 10.1038/516297a | Bird family tree is in fine feather

Ewen Callaway

鳥類48種の進化解析結果が報告された。これまでで最も網羅的な系統樹の裏には、志を1つにした研究者たちの大規模な共同研究があった。

鳥のゲノムが種間の関係の解明に役立っている。

AAAS/CARLA SCHAFFER

2009年のある日、マドリードでコーヒーをすすっていた進化遺伝学者Tom Gilbertは、ある考えに文字どおり直撃された。「ハトの糞が落ちてきたのです。そして思ったのです。『ふむ、ハトか』と」。

2014年12月11日、デンマーク国立歴史博物館(コペンハーゲン)に所属するGilbertは、数十人に上る共同研究者とともに、鳥類48種(ハトを含む)のゲノムの進化解析結果を発表した1。それは、生物系統樹のあらゆる主要な枝のゲノム研究の中で最も網羅的なものであり、恐竜絶滅後の鳥類多様性の「ビッグバン」を裏付け、さまざまな鳥が互いにどう関係しているかという長年の問題を解決に導くこととなった。この研究には日本の沖縄科学技術大学院大学(OIST)も参加している。

同じ日、Gilbertを中心とする共同研究チームは、鳥の鳴き声の基盤から鳥類の歯の喪失、寒冷な気候に対するペンギンの適応という多様なテーマについて、Scienceで8編、その他の学術誌で20編、計28編に上る鳥類ゲノム論文を発表した(avian.genomics.cn/enを参照)。これらの論文には、東京大学、理化学研究所(埼玉県和光市)も名を連ねる。

これほど多種にわたる大規模ゲノムデータから進化的関係を明らかにする研究は、過去に例がない。思わず尻込みするほど困難なこの研究をやり遂げるには、いみじくもハトから始まる巨大な国際共同研究を構築する必要があった。

2010年、Gilbertは、中国深圳の強力な配列解読施設であるBGIと組み、最初のハトゲノムを組み立てた。その目標は、異なる系統同士の関係と、その多様な形質の起源を明らかにすることだった。Gilbertはその年のうちにBGIのゲノム科学者、張国捷(Zhang Guojie)に会い、デューク大学(米国ノースカロライナ州ダラム)の神経科学者Erich Jarvisが率いるプロジェクトのためにBGIが他の数種の鳥類ゲノム配列を明らかにしていたことを知った。Gilbert、張、Jarvisの3人は、試料となる鳥類種があと少し増えれば、新鳥上目(Neoaves)と呼ばれる鳥類群の各枝のゲノムが全て得られることに気付いた。新鳥上目には、走鳥類種(ダチョウおよびエミューなど)およびニワトリ、アヒルなどの家禽を除いた、ほとんどの現生鳥類が含まれる。「鳥類の進化史解明にはかなり大きな未解決問題が横たわっていることを思い知りました。異なる目の鳥類同士がどのような関係にあるのか分かっていなかったのです」とGilbertは振り返る。

全ての新鳥上目の共通祖先から最初に分かれた種はどれなのか、これまで誰も明らかにできずにいた。さらに、音声学習が認められる新鳥上目鳥類群同士の進化的関係については、研究ごとに異なる説が発表されていた。音声学習は比較的希少な形質で、ヒトの発話に類似すると考えられている。Gilbertらは、鳥類の真の進化史は全てのゲノムが得られて初めて明らかになるだろう、と考えた。

DNA試料の収集はおおむね順調に進んだ。そして、ゲノム配列の解読にも問題はなく、BGIは2011年の夏までにそれらの解読を完了させた。しかし、データの分析とそれに基づく系統樹の作成には、新しい電算的方法の開発と300年の計算時間が必要だった。そこへ、数百人の研究者からそのデータを利用したいと照会が相次いだことで、プロジェクトは20カ国の80研究施設に膨らみ、長時間のスカイプ通話は毎週恒例の仕事になった。かくして、ゲノム解読から論文発表までにさらに3年の年月を要した。

この壮大な共同研究によって、神経生理学から個体群遺伝学まで、鳥類生物学のさまざまな側面が明らかになった。Jarvisらは、鳥の鳴き声に関係する脳領域とヒトの発話に関係する脳領域を比較し、遺伝子活性化パターンに類似性があることを見いだした2。また別の研究では、鳥類が歯を失った年代が約1億1600万年前であることが示された3。さらには、トキ(Nipponia nippon)の復活計画の成果から(個体群は現在、1980年代の7羽から数百羽まで回復している)、近親交配によりどのようにゲノムが形作られたかを明らかにした研究もある4

また、多種に及ぶ鳥類ゲノム解析・比較により、鳥類系統樹のおおまかな流れも分かってきた。最初に分岐した新鳥上目種は、現在のハト、カイツブリ、およびフラミンゴの祖先だったことが今回の研究で明らかになったのだ。また、音声学習について、オウム、ハチドリ、および鳴禽類の祖先で別々に進化した可能性があること、そして全ての陸生鳥類(ワシ、キツツキ、カラス、およびオウムを含む)の祖先が、おそらく現生猛禽類、あるいはGilbertの言う「見境のない肉食鳥類」に似ていたことも結論付けられた。

さらにゲノムには、6700万~5000万年前に多様性の爆発が起こったことも記されていた。この数字は、小惑星の衝突によって非鳥類恐竜が絶滅したと考えられている時代と一致する。その時代には哺乳類も繁栄したとみられており、両者とも恐竜が遺したニッチを利用したと考えられる。

昆虫28種類のゲノム解読を主導しているベイラー医科大学(米国テキサス州ヒューストン)のゲノム研究者Stephen Richardsは、鳥類種を系統的に選択した研究チームの決断をたたえている。この方針により、分類学上の目のそれぞれから種が集められ、科学者が好きな種に偏ることがなかったからだ。「これは、今後100年の鳥類生物学研究の土台となる研究成果です。この大変革は、生物学の全領域に必要なものです」とRichardsは語る。

ところでGilbertは、今回の研究で複数の研究室を束ねる特大プロジェクトに確かな手応えを感じている。例えば栽培作物の進化など、Gilbertが取り組みたい謎に対し、その答えを得るための研究を単独で全てやり遂げることができる研究グループなどない。「ハチドリの調査に自分の時間の全てを使ったりはしません」とGilbertは話す。当然、ハトにもだ。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Jarvis, E. D. et al. Science 346, 1320–1331 (2014).
  2. Pfenning, A. R. et al. Science 346, 1256846 (2014).
  3. Meredith, R. W. et al. Science 346, 1254390 (2014).
  4. Li, S. et al. Genome Biol. 15, 557 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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