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網膜内部に血管が入り込まない仕組みを、分子レベルで解明!

久保田 義顕

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150220

生体には血管網が張り巡らされており、血管を介してさまざまな物質が供給される。血管新生はがんなどで異常に活性化されるため、新生メカニズムの研究は世界中で盛んに行われている。一方で、血管が入り込まない組織(軟骨や発生期の網膜など)があることも知られているが、その排除メカニズム解明は全く進んでいなかった。このほど、久保田義顕・慶應義塾大学医学部准教授らは、血管網の可視化研究から、思いがけない仕組みによって血管が排除されていることを突き止めた。

図1:視神経乳頭から網膜辺縁部に向かって放射状に広がる血管網
生後6日目マウス網膜ホールマウント血管染色(緑:CD31)。血管網が視神経乳頭(画面中央)から網膜辺縁部に向けて放射状かつ二次元的に成長していく過程が可視化される。

–– Nature ダイジェスト:血管排除のご研究は、珍しいように思いますが。

久保田:そのとおりです。がんや糖尿病合併症として血管新生の研究は盛んに行われていますが、血管が形成されない仕組みについての研究はほとんどないと思います。私も初めから排除機序に着目した訳ではありません。血管を可視化しようと試み、偶然にもそこから手掛かりが得られ、スピンアウトした形です。私たちは、「組織ホールマウント染色」と呼ばれる手法で血管網を染め分け、共焦点顕微鏡を用いて観察する独自の可視化技術を開発し、毛細血管の隅々まで高解像度で浮かび上がらせることに成功しています1。その技術は最大限効率化しており、短時間に極めて鮮明な血管画像を得られるのが特徴です。

近年、血管の研究で広く用いられつつあるのが、組織が薄くほぼ平らにして観察できる「マウス新生仔期の網膜」です。厚みのある組織だと撮影に膨大な時間がかかり解析が大変ですが、眼の網膜は厚さ0.2〜0.3mm、直径40mm前後です。お椀のような形で組織学的には10層からなるのですが、新生仔期に血管ができるのは最内側の神経線維層のみです。新生仔期になると、それ以外のニューロン(神経節細胞や視細胞)が並んだ層に向かって血管が入り込んでいることはありません。そういうものとして、私を含め誰も疑問に感じていませんでした。ところが5〜6年前に、マウスでGFPを用いて血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR2)の発現を可視化したところ、血管にのみ発現することで知られるVEGFR2がニューロンにも多く見られることが分かりました。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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