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加速器研究にやってきた最高の波

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150233

原文:Nature (2014-11-06) | doi: 10.1038/515040a | Surf’s up at SLAC

Mike Downer & Rafal Zgadzaj

「プラズマ・アフターバーナー」と呼ばれる、わずか30cm長の小型加速器を使って、従来の巨大な加速器の500倍の効率で電子を加速することができた。この研究結果は、低コストの加速器の開発につながる可能性がある。

図1:従来の加速器とプラズマ加速器
Litosらが使った新しい先進加速器試験施設(FACET)は、20GeVの電子バンチを、前後に並んだ2つのバンチに分ける2。それぞれのバンチは独立して制御可能で、先導する駆動バンチは、長さ30cmのプラズマ容器内で新たなミクロの加速器を作る(写真)。つまり、駆動バンチは、ボートが水面に航跡を作るように、電離したガスの中に電荷密度波を作り出す。後を追うバンチは、先導する駆動バンチの航跡に乗り、最適な位置にあった場合は、駆動バンチの電子が失うエネルギーの最大30%を吸収し、わずか30cmで各電子のエネルギーを1.6GeV増加させる。

SLAC NATL ACCELERATOR LAB

2012年11月、オーストラリアの120人のサーファーが同時に同じ波に5秒以上乗り、ギネスブックに掲載された1。「カギはサーファー全員に同時に同じことをやらせることでした。このため、この作戦には軍隊なみの正確さが必要でしたが、なんとか成功させることができました」と、リーダーであるWes Smithは話す。一方、SLAC国立加速器研究所(米国カリフォルニア州メンローパーク)のMichael Litosらは今回、電離したガス(プラズマ)の中を進む5億個の200億電子ボルト(20GeV)の電子を、0.2mmほどの大きさの電荷密度波の上で「サーフィン」させることに成功し、Nature 2014年11月6日号92ページに報告した2。この波は、プラズマで満たされた長さ30cmの容器の中で、別の電子バンチ(電子の群れ)が光速に近い速度で突進するときに作ったものだ(図1)。

今回の実験では、「電子サーファー」の約90%が途中で失われたが、生き残った電子は、16億電子ボルト、つまり1.6ギガ電子ボルト(GeV)のエネルギーを得た。しかも生き残った電子は非常に均一性が高く、激しい波乗りの間もそれらのエネルギーの幅は約1%の範囲内にあり、プラズマの波のエネルギーの多く(波を作った電子が失ったエネルギーの最大約30%)を吸収した。今回のような均一で効率的な加速には、サーフィンする電子バンチを軍隊なみの正確さで波へ注入したり、バンチの電荷量や形状を調節したりすることが必要だった。このような正確な操作が可能になったのは、1500万ドル(約18億円)をかけて建設され最近実験を開始した、SLACの先進加速器試験施設(FACET;Facility for Advanced Accelerator Experimental Tests)のおかげである3。今回の実験では、SLACの最大の線形加速器と比較して、単位長さ当たりで500倍の効率で電子が加速された。このため、今回の研究結果は、新世代の「プラズマ・アフターバーナー」の登場を告げるものといえるかもしれない。プラズマ・アフターバーナーは、従来の粒子加速器で得られるエネルギーを押し上げ、また、膨らみ続ける高エネルギー物理学実験装置のコストを減らしてくれる可能性がある4

今回の成果を報告した研究チームは、FACETの建設計画が提案される前の2007年にも、SLACの全長3.2kmの線形加速器で得られた約100億個の42GeVの電子バンチを使って同様のプラズマ波を作った5。このときは、長さ1mのプラズマ容器の中で、バンチの尾部にあった少数の電子がバンチの航跡に捕まり、バンチの電子のエネルギーの2倍である84GeVまで加速された。しかし、この第一世代プラズマ・アフターバーナーから出てくる電子のエネルギーは約35GeV未満から84GeVまで幅があり、また、加速される電子よりも減速される電子の方が多く、プラズマ波のエネルギーの大半は利用されないまま残った。FACETは、これらの欠点を解決するために設計された。SLACの線形加速器の全長の一部は現在、自由電子レーザーである「ライナックコヒーレント光源」に使われており、FACETが残りの部分を使っている。このためFACETは、線形加速器で得られた20GeVの電子からスタートすることになる。FACETは、新しい粒子ビーム技術を使って、線形加速器から得た電子バンチを、前後に並んだ2つのバンチに分ける。その時間間隔、電荷量、形状は、いくらかの制限はあるが独立に制御できる。

今回の実験では、線形加速器から得られた20GeV電子のうち、半分強で作るバンチをプラズマ波の駆動のために使い(駆動バンチ)、残り半分弱で作るバンチ(後追いバンチ)を駆動バンチのわずか髪の毛の太さほど後方に配置した。そうすることで後追いバンチの核は、駆動バンチの航跡の強い静電場に乗る。もしもこの後追いバンチが存在しなければ、航跡の静電場は均一からはほど遠く、後追いバンチが占めるごく小さな領域の中でも、30億V/mから100億V/m(プラズマではない通常の物質は耐えられない強い電場)まで変化してしまう。

Litosらが電荷量のもっと少ない電子バンチを使っていたら、以前の実験と同じく「出てくる電子のエネルギーに幅がある」という結果になっていただろう。それでは高エネルギー物理学では役に立たない。高エネルギー物理学では、ヒッグス粒子のような新粒子を作り、見つけるため、正確に調整された粒子エネルギーが必要だからだ。しかし、Litosらは、電荷量の大きいバンチはプラズマ航跡を「押さえつけて」静電場を局所的に平らにできるという計算機シミュレーション結果6を利用した。それはまるで、オーストラリアの120人のサーファーの体重で、湾曲した波を「傾いた平面」にし、サーファー全員が同じ加速度で加速するようにする、というようなものだ。この方法は、2つの問題を同時に解決した。つまり、電荷量の大きいバンチをほぼ単一エネルギーに加速することが可能になり、また、プラズマ航跡からのエネルギー吸収を最大にすることができた。

この「プラズマの波に乗る」という方法は、高エネルギー物理学研究の今後の要求を満たすことができるだろうか。具体的にいえば、宇宙に潜んでいるかもしれない新粒子を検出可能なだけの量作り出すことができるほど、エネルギー、電荷量、反復速度、フォーカス性能がいずれも高い電子バンチを作ることができるだろうか。審判はまだ下っていない。20GeVからスタートして1.6GeVというエネルギー利得は、レーザーからの光パルスによって駆動されるプラズマ加速器(エネルギーはゼロからスタートする)で達成されたエネルギー利得と同程度である7。レーザー駆動プラズマ加速器は、SLACの線形加速器よりもはるかに小さく、費用も安い。しかし、電子駆動プラズマ加速器は、レーザー駆動プラズマ加速器よりも利得を数十GeVに増やしやすいことがこれまでの研究で分かっている5

バンチ形成技術を改良すれば、生き残る電子の割合、ひいては加速される電子の数を増やし、サーフィンする電子バンチをプラズマ波にさらにうまく乗せることができるだろう。しかし、ヒッグス粒子は126GeVもの質量を持つ。その上、超対称性理論などの物理理論は、宇宙の質量・エネルギーの約25%を占めるとみられる謎のダークマター(暗黒物質)の正体かもしれない、ヒッグス粒子よりもさらに質量の大きい粒子も予言している。こうした宇宙の新しい住人を作って、見つけるためには、次のエネルギーの達成目標は数千GeVになる可能性もある。これほどのエネルギーに達するためには、同調した多段階のプラズマ加速器がおそらく必要になるだろう。プラズマ波の大きさがマイクロメートルのオーダーであることを考えれば、同調した多段プラズマ加速器は非常に困難でまだほとんど研究が進んでいない技術的課題だ。

これに代わる興味深い計画は、非常に高エネルギーの陽子バンチでプラズマ波を作ることだ。陽子は大きな質量を持つため、プラズマ波を数百mにわたって作り続けることができ、電子を一段階で目標エネルギーまで加速できる可能性がある8。一方、陽電子(電子の反粒子)のプラズマ加速の研究は、電子を使う場合でも陽子を使う場合でも、電子加速の研究から大きく遅れている。現在の実験のようなやり方で形成されたプラズマ波では、サーフィンする陽電子バンチがばらけてしまい、役に立たなくなってしまう。しかし、陽電子の加速は重要な課題だ。電子と陽電子は、物質とその反物質のペアであり、その高エネルギー衝突は、例えば、電子と電子の衝突よりも高効率でより豊かな生成物を生むため、新粒子発見への最も有望な道の1つだからだ。FACETは線形加速器の陽電子ビームを利用できるため、プラズマ陽電子加速のためのプラズマ波形成の新手法を研究するには、恵まれた環境にある。

最後に、たとえ電子・陽電子衝突器のために必要なエネルギーと電荷量が達成されたとしても、フォーカスされてプラズマで加速された粒子ビームが、従来の加速器技術で達成される粒子ビームに負けない頻度で粒子発見イベントを作り出せるかどうかは不明であり、議論が続いている9-11。国際リニアコライダー(ILC)やコンパクト・リニアコライダー(CLIC)など、現在提案されている長さ数十kmの次世代加速器の基盤になっているのは、従来の加速器技術である。プラズマ航跡場加速器の先行きは不透明であるものの、Litosらは、小さくてコストの低い加速器を追求する長年の研究の中で、これまでで最も難しい課題の1つを克服した。プラズマサーフィンを支持する研究者たちが、湧き上がる波のように前のめりになっても当然だろう。

(翻訳:新庄直樹)

Mike DownerとRafal Zgadzajは、テキサス大学オースティン校物理学科(米国)に所属。

参考文献

  1. www.worldrecordacademy.com/sports/most_surfers_riding_the_same_wave_120_surfers_set_world_record_113137.html
  2. Litos, M. et al. Nature 515, 92–95 (2014).
  3. Hogan, M. J. et al. New J. Phys. 12, 055030 (2010).
  4. Lee, S. et al. Phys. Rev. ST Accel. Beams 5, 011001 (2002).
  5. Blumenfeld, I. et al. Nature 445, 741–744 (2007).
  6. Tzoufras, M. et al. Phys. Rev. Lett. 101, 145002 (2008).
  7. Wang, X. et al. Nature Commun. 4, 1988; http://dx.doi.org/10.1038/ncomms2988 (2013).
  8. Caldwell, A., Lotov, K., Pukhov, A. & Simon, F. Nature Phys. 5, 363–367 (2009).
  9. Schroeder, C. B., Esarey, E. & Leemans, W. P. Phys. Rev. ST Accel. Beams 15, 051301 (2012).
  10. 10. Lebedev, V. & Nagaitsev, S. Phys. Rev. ST Accel. Beams 16, 108001 (2013).
  11. 11. Schroeder, C. B., Esarey, E. & Leemans, W. P. Phys. Rev. ST Accel. Beams 16, 108002 (2013).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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