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コウモリの3Dナビシステム

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150203

原文:Nature (2014-12-04) | doi: 10.1038/nature.2014.16475 | ‘Bat-nav’ system enables three-dimensional manoeuvres

Alison Abbott

コウモリのアクロバット飛行を可能にしているのは、ドーナツ形の座標系に基づく意外な脳の位置情報符号化機構だった。

Jasiek Krzysztofiak/Nature

コウモリの脳には神経細胞(ニューロン)でできた特殊な「コンパス」があり、これによってコウモリは三次元空間を自在に動き回ることができるらしい。ワイツマン科学研究所(イスラエル・レホヴォト)のNachum Ulanovskyらはこのたび、「コウモリがどのように地上や空中で方向感覚を保っているのか」という長年の謎を解明し、Nature 2015年1月8日号159ページで報告した1。枝渡りするサルなど他の哺乳類にも、同様のコンパスが備わっている可能性がある。

2Dから3Dへ

哺乳類の「ナビゲーションシステム」については、すでにラット脳で二次元的なニューロンが発見されている。こうした研究の先駆けである海馬の「場所細胞」の発見者、ロンドン大学(英国)のJohn O’Keefeおよび、嗅内皮質の「グリッド細胞(格子細胞)」の発見者であるノルウェー科学技術大学(トロンハイム)のMay-Britt MoserとEdvard I. Moserは、その功績により2014年、ノーベル医学生理学賞を受賞している(Nature ダイジェスト 2014年12月号8ページ参照)。

ラットの脳内にはこの他にも空間認識に特化したニューロンがあり、前海馬支脚にある「頭部方向細胞(head-direction cell)」は、頭部が水平面のどの方向に向いているかに依存して発火する。今回Ulanovskyらは、エジプトルーセットオオコウモリにはラットよりも複雑な頭部方向認知システムが存在することを明らかにした。水平方向の動きに反応する細胞の他にも、頭部を垂直方向に動かした場合や体軸を中心に回転させた場合にのみ発火する細胞を同定したのである。

今回発見されたコウモリのナビシステムは、動物の空間認知能の理解を三次元まで広めるものであり、M-B Moserはそのシンプルな情報符号化機構を「美しさの点でも予想を超えていました」と話す。

Ulanovskyらは、複数のエジプトルーセットオオコウモリの前海馬支脚領域に電極を埋め込んで個々のニューロンの発火を記録するとともに、頭頂部に青・赤・緑の3色を十文字に配した発光ダイオード(LED)装置を装着して動きを追跡した。左右に伸びた青色LEDの位置関係からは水平方向の動きが、また前後の赤色・緑色LEDの位置関係や見え方の変化、およびそれらと青色LEDの見え方との組み合わせからは、垂直方向の動きや体の回転の度合いが分かる。そして、コウモリが自由に床や壁をはい回ったり空中を飛んだりしているときの、ニューロンの発火情報と頭部の動きを照らし合わせることで、特定の頭部方向に反応する細胞をそれぞれ判定した。

その結果、頭部方向細胞の多くは水平方向の動きに反応したが、垂直方向の動きに反応する細胞も5分の1以上あることが分かった。これは、コウモリのナビシステムが完全に三次元仕様であることを裏付けている。一方、体の回転に反応した細胞はごく少数だった。この結果についてUlanovskyは、コウモリが飛行中にあまり体を回転させないからではないかと推測する。

球ではなくドーナツ形

今回の実験ではもう1つ驚くべき発見があった。飛んでいたコウモリが半分宙返りをして天井に逆さにぶら下がったとき(図を参照)、垂直方向の動きに反応する細胞の発火パターンは予想通りこの反転を反映していたが、頭部の向きが反転の前後で逆向きになるにもかかわらず、水平方向の動きに反応する細胞の発火パターンはこの反転を反映しなかったのである。つまり、このコウモリの脳内では、例えば「東」を「西」に突然反転させるような「何か」が起きていると考えられた。Ulanovskyは、その糸口をつかむまでに3カ月間データを見詰め続けたという。

三次元空間の座標系というと、通常は球体における緯度−経度をイメージしがちだが、このコウモリでは球体ではなくドーナツ形の座標系(いわゆるトロイダル座標系)が使われていることが判明したのだ。ドーナツ形の場合でも、表面の座標は球体表面と同様に、経度(図の緑色の環)は水平方向、緯度(赤色の環)は垂直方向を表す。しかし、ドーナツ形では体が反転しても、それが即座に経度の変化にはつながらない。「自分の想像力の乏しさを思い知らされた経験でした」とUlanovskyは笑う。

(翻訳:船田晶子、要約:編集部)

参考文献

  1. Finkelstein, A. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature14031 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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