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成人クローン胚からもES細胞ができた!

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2014.140702

原文:Nature (2014-04-28) | doi: 10.1038/nature.2014.15107 | Stem cells made by cloning adult humans

Monya Baker

2つの研究チームが独立に、成人の体細胞クローンからのES細胞株作製に成功した。

1型糖尿病患者のES細胞のコロニー。

Bjarki Johannesson, NYSCF

ヒト成体細胞から作ったクローン胚由来の胚性幹(ES)細胞株を、2つの研究チームが独立に樹立した。1型糖尿病などの変性疾患の治療として患者特異的な置換組織を作製する研究が再び活気づくかもしれない。

最初にヒトクローン胚からのES細胞株作製を報告したのは、オレゴン健康科学大学(米国ビーバートン)のShoukhrat Mitalipovらだ(Nature 2013年5月16日号 295〜296ページNature ダイジェスト2013年8月号6ページ参照)。これらの細胞のゲノム(つまり核)は、胎児もしくは乳児(8カ月)の細胞のものであり1、さらに年長のヒトの核を用いてもこれが可能かどうかは不明であった。

2014年4月17日、CHA大学(韓国ソウル)のYoung Gie Chungらの研究チームは、35歳と75歳の2人の健康な男性から得た核を使用して、クローン胚からES細胞株を作製したと報告した2。一方のニューヨーク幹細胞財団研究所(米国)の再生医療専門家Dieter Egliらの研究チームは、32歳の1型糖尿病の女性の核を用いてこれを作製し、2014年5月16日にNatureに発表した3。さらにEgliは、このES細胞をインスリン産生細胞に分化させることにも成功した。

核移植

上記3つのチームは、体細胞核移植(SCNT)と呼ばれる手法を改良してクローン胚を作製した。SCNTは、1996年にクローン羊「ドリー」を生み出したテクニックで、核除去済みのヒト未授精卵にドナー細胞の核を注入することで、ドナーDNAを持つ細胞を胚性状態に再プログラム化する。今回、この手法が成体細胞でも使えることが分かり、さらに複数の研究室で同様の結果が得られたことは、この分野における大きな前進といえる。今回の成果について、「いくつかの理由で重要です」と、英国ロンドンのMRC国立医学研究所の幹細胞生物学者Robin Lovell-Badgeは指摘する。

現在のところ、細胞治療の候補を試験する研究は、ES細胞を使った試験の方が人工多能性(iPS)細胞を使った試験に比べて規制当局の認可が下りやすい。iPS細胞と比べるとES細胞は変化が少ないからだとLovell-Badgeは言う。さらに、非クローンES細胞(多くは不妊治療で残った胚から作られている)を使用した脊髄損傷と眼疾患の治療では、すでにヒトで臨床試験が行われているので、クローン成体細胞から作られた幹細胞となれば、移植時の拒絶リスクは低くなる。

倫理的な問題

しかし、ヒトクローン胚から幹細胞を作ろうとする研究者が大幅に増えると予想する人は少ない。費用がかかり、技術的に難しいことに加え、倫理的な問題があるからだ。このやり方では、幹細胞を採取するためだけに胚を作製する。また、ホストとなるヒトの卵は、健康な若い女性から侵襲的手技で採取するため、規制当局の認可が必要な上に、被験者にはその代価を支払わねばならない。

10年ほど前には、クローン胚からヒトES細胞を作製する研究は最も注目を集める分野の1つだったとEgliは振り返る。iPS細胞が登場したことで、ほとんどの幹細胞生物学者は焦点をそちらに移した。だが、Egliはそうしなかった。「重要なのは変性疾患の治療法を見つけることです。たった1つのアプローチしか試みないのは良くないと思いました」。

Egliは、iPS細胞株は薬剤スクリーニングや基礎研究には特に有用と考えている。だが、どちらが治療に向いているかはいまだにはっきりしない。仮にクローンES細胞の方が治療に適していると判明しても、患者ごとに幹細胞株を作製する必要はないだろう、とChungらの論文の共著者で、アドバンスト・セル・テクノロジー社(マサチューセッツ州マールボロ)の最高科学責任者Robert Lanzaは言う。彼は、置換組織を必要とする患者のための細胞株バンクを作る構想を描いている。

悪い科学者

しかし、それが実現する可能性は何年も先のことだろう。研究者たちは、同じ人から作製したiPS細胞とES細胞を比較する研究を始めたところだが、米国ではクローンES細胞の研究に政府の資金を使用できないため、研究は遅々として進まないとMitalipovは指摘する。

Egliは、今回の研究成果によって、クローンES細胞の研究を離れた専門家たちがこの分野に戻ってくることや、さらには、研究資金の制限が緩和される可能性についても期待する。だが、この分野で失われたものは多いため、進歩は遅いだろうと彼は警告する。

一方で、クローン人間に対する一般市民の懸念は根強い。これに対し、Mitalipovは、技術的な理由から成功する見込みはまずないと考えている。「懸命な努力にもかかわらず、サルのクローンベイビー作出には成功しませんでしたから」とMitalipovは言う。

(翻訳:古川奈々子、要約:編集部)

参考文献

  1. Tachibana, M. et al. Cell 153, 1228-1238 (2013).
  2. Chung, Y. G. et al. Cell Stem Cell http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2014.03.015 (2014).
  3. Yamada, M. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature13287 (2014).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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