Editorial

細菌のルビスコで植物の光合成効率が向上

シアノバクテリア由来のルビスコと二酸化炭素濃縮機構が組み込まれたタバコ株が、2種類作製された。

Nature 513, 547–550

太陽光を利用して二酸化炭素と水から糖と酸素を生み出す酵素的過程は光合成と呼ばれ、おそらく世界で最も重要な化学反応であって、その古さも屈指のものである。実のところその起源は極めて古く、光合成を担う酵素が進化したのは、地球の大気中酸素濃度が現在よりもはるかに低かった時代のことだ。数十億年を経て、現在の植物の多くは、大気中にあまねく存在する忌まわしい酸素(植物自身が大気中に放出した酸素)のために、光合成に苦労する事態に陥っている。植物で光合成を行う酵素は、二酸化炭素分子と酸素分子とを全く識別することができないため、その両方を捕らえてしまい、その結果、時間とエネルギーを浪費してしまうのである。つまり、現在の植物にとって光合成という行為自体が、植物を苦しめる厄介な「敵」となっているのだ。

だが、植物の中には要領のよいものもいる。例えば、驚異的な速さで成長する多くの雑草は、葉の内部で二酸化炭素を濃縮する方法を進化させ、光合成を行う酵素に過給(スーパーチャージング)システムを付加している。そして、細菌であるシアノバクテリアも、同じ能力を有している。一方、人類が食糧として依存する多くの作物を含め、大方の植物がとった戦略は、その反応を進める酵素をひたすら大量に製造するという力まかせのものだ。このため、その酵素「ルビスコ(Rubisco)」は、地球上で最も大量に存在する部類のタンパク質となっている。

作物が作る大量のルビスコは、それでもなお無用の酸素を捕らえて時間を浪費し、世界全体の光合成効率を約3分の1も低下させている。世界の食糧供給量を増加させる方法を議論するとき、多くの植物科学者の目には、無駄になっている葉の光合成能力が、いわば、手の届くところに実った果実のように映っている。

高速で働く雑草やシアノバクテリアが持つ「スーパーチャージャー付きルビスコ」を作物に取り入れたらどうなるだろうか。理論上、その生育速度は劇的に上昇し、農地を全く拡大させることなく収量を増やすことができると思われる。そうした方策の魅力は明白で、それは特に、たびたび引き合いに出される「2050年までの世界の食糧生産倍増」という国連の要求を考えればなおさらだ。

実際に酵素を入れ替えるのは難しいとされていた。しかし、明るいニュースが入ってきた。シアノバクテリアのルビスコを利用するタバコ植物体を作製したという論文が、Nature 2014年9月25日号、547ページに掲載されたのだ(M. T. Lin et al., http://dx.doi.org/10.1038/nature13776)。狙いどおり、その遺伝子組換え植物は、通常の非組換え植物体と比較して光合成が高速化しており、CO2の代謝回転速度の上昇が見られた。

高速で生育するタバコ植物体では世界の幸せに対する福音とは思われないかもしれないが、この結果は、この技術が将来、他の植物でも実現し、食糧生産に貢献する可能性があることを示している。というのも、タバコは、遺伝子工学研究でモデル生物として広く利用されている植物だからだ。

その論文と関連するNature 2014年9月25日号、497ページのNews & Views記事(G. D. Price and S. M. Howitt, http://dx.doi.org/10.1038/nature13749)で、生物学者Dean PriceとSusan Howittは次のように述べている。「植物の光合成効率を高めていく上で画期的な研究成果だ。その進歩は、高性能の自動車エンジンに新しいシリンダーブロック(内燃機関の部品の1つ)を入れるようなものだと言うことができる。後は、ぴったり合わせたターボチャージャー(内燃機関の効率を高める過給機)があればよいのだ」。どんな姿でもよい。緑色であれば。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 11 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2014.141228

原文

Amped-up plants
  • Nature (2014-09-18) | DOI: 10.1038/513280a